山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

豪華トイレに思うこと

2012-10-18 04:39:53 | 旅のエッセー

  九州筑豊エリアの田川市に隣接して大任(おおとう)町というのがある。この町に道の駅「おおとう桜街道」というのがあり、今度の九州行の九州入り初日はここの道の駅にお世話になった。初めての来訪だった。道の駅の名称が桜街道とあるので、近くに桜並木の名所でもあるのかと期待しながら行ったのだが、それは見当たらず、駅構内にある温泉施設のある丘の周辺に、何本かのソメイヨシノが花を咲かせているだけだった。この他にも駅構内にはかなりの数の桜の若木が植えられていたが、花の方はまだ乙女桜だった。道の駅の名称は、どうやら先取りして付けられたようだった。

 この道の駅の自慢は、1億円をかけて作ったトイレだった。家内は存外このような施設に興味があるらしく、以前江戸時代辺りからのトイレの変遷などに興味を持って調べていたことがある。今日も早速カメラを抱えて出かけて行った。しばらく経って、自分もそこへ行ってみることにした。一応は見ておかなければなるまい。そう思った。

入り口の所に白い色の自動演奏ピアノが置かれており、何やらクラシックらしき妙(たえ)なる曲を弾き流していた。しかし、奏者がいないので、何だか違和感を覚える空間だった。その奥の方の庭には、石の壁の様なものが作られ、松の木などが植えられていて、上の方から絶えず水が流れ落ちていて、これを何と呼ぶのか知らないけど、まあ、小さな滝のような風情といったらいいのであろうか。男性トイレの小用は、その滝の水が落ちるのを見ながら息を抜くというレイアウトある。個室の方へ入ってゆくと、最新の機能を備えた便器が、いらっしゃいませ、というかの如くに自動で蓋を上げて誘ってくれるという仕掛けである。この程度なら驚くほどではない。このレベルのトイレは全国に幾つかあるように思う。

 

左はトイレの入り口付近の自動演奏ピアノ。右はトイレ内部の洗面所の陶器の手洗い用器。一瞬厳かな緊張感を覚えるようなムードが漂っている。

一体1億円はどこへ使われているのかといえば、そのような機材や装置ではなく、使途のメインは焼物らしい。入り口の壁には陶板焼の壁画が収まっており、手洗い所の容器も鉢のような形をした焼物なのである。福岡には、黒田藩御用窯の小石原焼きがあるから、そのような所で制作したものらしい。この種の芸術作品の価格は見当もつかないけど、確かに見事な出来栄えの壁画がはめ込まれ飾られていた。このような情報はすべて家内によるものであり、自分としては素直にそれを聞き入れるだけである。もともと大した審美眼を持っているわけでもなく、この陶板の絵は1億円だよといわれれば、はあ、そうですかというしかなく、どこに難癖を付ければいいかの見当もつかない。

   

モミジを題材にした陶板画。かなりの大作であり、これは男子用の入口に飾られていた。女子用の方にも別の作品が飾られていたようである。

それにしても1億円というのは、今世の中ではそれほど驚くような投資ではないものらしい。宝くじが当たれば、うまくゆけばその3倍もの金額が一気に転がり込んでくる、そのような億万長者が毎年何人も生まれている時代なのだから、大したことはないとうそぶくこともできるのかもしれない。しかし、年金暮らしの者には、想像を絶する大金である。トイレにこのような大金を費やすという発想は、余裕なのかそれとも切羽詰まった窮余の一石なのか。人間の生理的欲求を満たす場については、両極端のアイデアが用意されるということなのであろうか。

1億円トイレは、ずいぶん前に北海道の道の駅でも見たことがある。今は合併して伊達市大滝区となった旧大滝村にある道の駅「フォーレスト276おおたき」がそのトイレのある場所なのだが、往時の大滝村では、村おこしの一環として、ふるさと創生金の1億円を投じてトイレを作ったとのこと。その1億円のトイレを初めて見る前は、どんなものなのかと興味津々だった。行って見ると、今回の大任町の道の駅と同じように、入り口に自動演奏のピアノが設(しつら)えてあった。こちらは確か黒い色ではなかったかと思う。その演奏の音が、大勢押し寄せる来訪者とは何だかアンマッチに思えて、違和感を覚えたのを思い出す。肝心のトイレの方の設備は、普通のトイレと大して差がなく、さほど印象に残るほどのものではなかった。なあんだという思いで、用を済ませたのを覚えている。

その翌年にも大滝村の道の駅を訪ねたのだが、覗いたその時は、自慢の自動演奏ピアノは故障中で、沈黙したままだった。その何年か後、大滝村は伊達市と合併して、一気に区に昇格(?)したのだが、久しぶりで道の駅を訪ねた時には、隣接して新しく建てられたきのこを売り物とする「きのこ王国」という巨大な施設に圧倒されて、見る影もなく廃れていた。何だか気の毒になってしまって、トイレに行くのを遠慮したのだが、果たして1億円をかけたトイレの看板的存在である自動演奏ピアノが健在だったのか、それは判らない。1億円の投資を回収できたのかどうかも判らない。解っているのは、人間の気紛れ、一過性の興味の犠牲になったピアノが可哀想だったということだけである。

大任町の1億円トイレは、まさかこの旧大滝村のそれをモデルとしたわけではないのだろうけど、どうしてそのような大金をトイレに投じたのか。ふるさと創生金などの大盤振る舞いのできない今の財政難時代のこの投資には、その決断に不思議さを覚えるばかりである。合わせて、ここのトイレや自動演奏ピアノが、人間どもの一過性の興味や気紛れの犠牲とならぬよう祈るばかりである。

なお、余談だけど、家内の話によれば、1億円のトイレを凌駕する最高のトイレは、今までの経験では、道の駅にあるのではなく、高速道は伊勢湾岸道の刈谷SA内にある、女性専用のトイレだとのこと。ここには豪華な休憩室やまさに個室というにふさわしい雰囲気の用を足す部屋が設けられているとのこと。男である自分が、そのような所に入ったことはなく、見たこともないのは勿論のことである。   (2012年 九州の旅から 福岡県)

コメント (2)
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