かつてわが国には、寺院に属せず、宗派も定めず全国を修行して歩く遊行僧という坊主たちがいました。
乞食坊主と言ったほうが実態に近いかもしれません。
そんな中、木喰(もくじき)上人と呼ばれる、彫刻家にして和歌というより狂歌にちかいユーモラスな歌を詠んだ僧がいます。
仏法に こりかたまるも いらぬもの 弥陀めにきけば 嘘のかたまり
仏教者の作るものではありませんね。
仏法にこだわったって仕方ない、仏は嘘ばっかりついている、ということでしょうか。
相当なひねくれ者だったと見えます。
そして彫るものはというと、こんな感じです。
歌と一緒で、ユーモラスですね。
念仏に 声をからせど音もなし 弥陀と釈迦とは 昼寝なりけり
大胆で豪快な歌ですね。
鬼面人を驚かすが如き行いを好んだようです。
歌や仏像を見ていると、この人は宗教家というよりは、やんちゃな芸術家だったのではないかと思います。
リベラル・アートとしての芸術という概念は、明治時代に至るまでわが国には存在せず、西周がこれを藝術と訳してから、職人とは違う、おのれの魂に忠実な芸術家というものが生まれたわけで、木喰上人のごときはおそらくおのれのアイデンティティをうまく発見できなかったのではないでしょうか。
木喰仏 | |
木喰,寺島 郁雄 | |
東方出版 |
木喰―庶民信仰の微笑仏 生誕二九〇年 | |
大久保 憲次,小島 梯次,神戸新聞社 | |
東方出版 |