かっくりげえっちゃいました。
WEB版で、泉鏡花の「高野聖」の現代語訳なるものが大枚300円の値をつけて売っていたのです。
お気は確か?
泉鏡花といったら、明治から昭和初期にかけて活躍した近代作家で、当然現代語で書かれているのですよ。
わが国の近代幻想文学の親分みたいな人で、文体は独特の流麗なもので、それを読むとほとんど生理的快感をすら覚えるような、美しい文章です。
で、WEB版の「高野聖」、購入はしませんでしたが、あらすじがHPに書いてあったので、読んでみると、要するに「高野聖」の抜け殻のようなもの。
この調子で現代語訳をしてあるのだとすれば、本物のビールが飲みたいのにノン・アルコール・ビールを頼んでしまったようなもの。
http://www.dlmarket.jp/product_info.php/products_id/139464
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「高野聖」現代語訳の販売サイトです。
「高野聖」は高野山の一番下っ端の坊さんが、布教や勧進のため、全国を飛び回っているところ、飛騨の山中で謎の美女が住む家に一晩の宿を乞い、そこから美女の魔性に惑わされる様が、悪夢のような美しさで描き出される、幻想文学の名作です。
少々読みにくいと思っても、我慢して読んでいるうちに、必ず惹き込まれる類の作品で、しかもそう長くありません。
私はむしろ埴谷雄高とか、大江健三郎のような、それこそ西洋文学の翻訳文としか思えない、いわゆる悪文を読むほうが苦痛を感じます。
したがってこの二人の作品は、ほんの少しかじって、私には向かないと、敬して遠ざけることにしています。
わが国文学の豊饒な果実を味わうには、多少読みにくいと思っても、それに慣れる必要がありましょう。
せっかく日本語を母語にする国に生まれて、その果実に触れないのはあまりにももったいないというものです。
高野聖 (角川文庫) | |
泉 鏡花 | |
角川書店 |
死霊(1) (講談社文芸文庫) | |
埴谷 雄高 | |
講談社 |
死霊(2) (講談社文芸文庫) | |
鶴見 俊輔 | |
講談社 |
死霊(3) (講談社文芸文庫) | |
埴谷 雄高 | |
講談社 |
死者の奢り・飼育 (新潮文庫) | |
大江 健三郎 | |
新潮社 |