未唯への手紙
未唯への手紙
『戦争と平和』ナターシャのこと
100分で名著『戦争と平和』より
アンドレイ公爵の死から受けた精神的打撃からマリアもナターシャもなかなか回復することはできませんでした。しかしマリアは、父と兄を失い一家の長であり。甥の後見人であり養育者であるという立場から、ナターシャよりも先に「人生」に呼び返されます。ひとり残されたナターシャは、生きる意欲すら失って孤立します。十二月末、ヤロスラヴリにペーチャ戦死の知らせが届きます。母の伯爵夫人は半狂乱になりますが、ナターシャも恐ろしい痛みを身体にも心にも感じ、何かが彼女のなかでもぎとられ、自分か死んでしまいそうな感じがします。しかし痛みに続いて彼女は自分の上にのしかかっていた「生の禁圧」から解放されたと感ずるのです。母のあられもない叫び声を聞くと、瞬く間に自分の悲しみを忘れ、必死に母を看護することで「人生」に復帰できるようになります。
母の心の傷は治ることはありませんでした。しかし母を半ば殺してしまったのと同じ傷が、ナターシャを生へと呼び返したのです。心の傷は肉体の傷と同じく、内から湧き出る生命力によってはじめて治るのです。ナターシャは自分の人生が終わったと思い込んでいましたが、ペーチャの死が、母の悲しみへの共感を生み、愛が目覚め、そして生か目覚めたのです。アンドレイの最後の日々がナターシャをマリアと結びつけ、ペーチャの死という新たな不幸はよりいっそう二人を近づけることになりました。
一八一三年一月末、マリアはモスクワに戻りますが、ナターシャも父老伯爵の、医者に診てもらえという希望にそってマリアに同行することになります。
ピエールはパルチザン隊に救出されてから、初めてエレーヌが死に、アンドレイも死んだことを知らされます。解放されてからオリョールに行ったところで病気にかかり、三か月寝込んでしまいました。医者嫌いのトルストイは、ピエールは医者の治療を受けたが「それでもやはり」回復した、と皮肉っぽく書いています。
清潔な食卓に香りのいいスープが運ばれた時、寝室に入って柔らかな寝床に身をよこたえる時、フランス軍もエレーヌももういないのだと考えた時、「ああ、ほんとにいい、すばらしいなあ!」そして昔からの癖で思わず自問するのです。「で、それからどうなる? おれはこれから何をするのだろう?」そして即座に「何もない、生きるんだ。ああ、すばらしいなあ!」と自分で答えるのでした。
ピエールは戦災の処理のためモスクワに向かいますが、モスクワは見事な立ち直りかたをしています。モスクワのボルコンスキイ邸は焼失を免れ、マリアはそこに戻っています。ピエールはそれを伝え聞いてたずねて行くと、何とそこにはナターシャがいました。夜食をとりながら午前の三時まで話は尽きません。ピエールが帰った後、ナターシャは不意に、マリアが久しく見なかったいたずらっぽい微笑を浮かべて言うのでした。「ねえ、マリー、あの人なんだかきれいにつるつるに、さっぱりした感じになったわね、お風呂から出たばかりみたい、分かる? 精神的にお風呂から出てきたのよね、そうじゃない?」
再会の時、ピエールは誰だか分かりませんでしたが、ナターシャだと分かった瞬間、自分か愛しているのはこの人だと確信します。ピエールは求婚し、承諾されます。恋人の死、弟の死という不幸にうちひしがれていたナターシャはすっかり元気になります。マリアは兄のことを思いだし、一瞬心を傷つけられますが、「でも仕方がない! この人はこれ以外、できないのよ」と思い直します。
最後の「難問」マリアの結婚にはまだ多くの障碍が残されたままです。
アンドレイ公爵の死から受けた精神的打撃からマリアもナターシャもなかなか回復することはできませんでした。しかしマリアは、父と兄を失い一家の長であり。甥の後見人であり養育者であるという立場から、ナターシャよりも先に「人生」に呼び返されます。ひとり残されたナターシャは、生きる意欲すら失って孤立します。十二月末、ヤロスラヴリにペーチャ戦死の知らせが届きます。母の伯爵夫人は半狂乱になりますが、ナターシャも恐ろしい痛みを身体にも心にも感じ、何かが彼女のなかでもぎとられ、自分か死んでしまいそうな感じがします。しかし痛みに続いて彼女は自分の上にのしかかっていた「生の禁圧」から解放されたと感ずるのです。母のあられもない叫び声を聞くと、瞬く間に自分の悲しみを忘れ、必死に母を看護することで「人生」に復帰できるようになります。
母の心の傷は治ることはありませんでした。しかし母を半ば殺してしまったのと同じ傷が、ナターシャを生へと呼び返したのです。心の傷は肉体の傷と同じく、内から湧き出る生命力によってはじめて治るのです。ナターシャは自分の人生が終わったと思い込んでいましたが、ペーチャの死が、母の悲しみへの共感を生み、愛が目覚め、そして生か目覚めたのです。アンドレイの最後の日々がナターシャをマリアと結びつけ、ペーチャの死という新たな不幸はよりいっそう二人を近づけることになりました。
一八一三年一月末、マリアはモスクワに戻りますが、ナターシャも父老伯爵の、医者に診てもらえという希望にそってマリアに同行することになります。
ピエールはパルチザン隊に救出されてから、初めてエレーヌが死に、アンドレイも死んだことを知らされます。解放されてからオリョールに行ったところで病気にかかり、三か月寝込んでしまいました。医者嫌いのトルストイは、ピエールは医者の治療を受けたが「それでもやはり」回復した、と皮肉っぽく書いています。
清潔な食卓に香りのいいスープが運ばれた時、寝室に入って柔らかな寝床に身をよこたえる時、フランス軍もエレーヌももういないのだと考えた時、「ああ、ほんとにいい、すばらしいなあ!」そして昔からの癖で思わず自問するのです。「で、それからどうなる? おれはこれから何をするのだろう?」そして即座に「何もない、生きるんだ。ああ、すばらしいなあ!」と自分で答えるのでした。
ピエールは戦災の処理のためモスクワに向かいますが、モスクワは見事な立ち直りかたをしています。モスクワのボルコンスキイ邸は焼失を免れ、マリアはそこに戻っています。ピエールはそれを伝え聞いてたずねて行くと、何とそこにはナターシャがいました。夜食をとりながら午前の三時まで話は尽きません。ピエールが帰った後、ナターシャは不意に、マリアが久しく見なかったいたずらっぽい微笑を浮かべて言うのでした。「ねえ、マリー、あの人なんだかきれいにつるつるに、さっぱりした感じになったわね、お風呂から出たばかりみたい、分かる? 精神的にお風呂から出てきたのよね、そうじゃない?」
再会の時、ピエールは誰だか分かりませんでしたが、ナターシャだと分かった瞬間、自分か愛しているのはこの人だと確信します。ピエールは求婚し、承諾されます。恋人の死、弟の死という不幸にうちひしがれていたナターシャはすっかり元気になります。マリアは兄のことを思いだし、一瞬心を傷つけられますが、「でも仕方がない! この人はこれ以外、できないのよ」と思い直します。
最後の「難問」マリアの結婚にはまだ多くの障碍が残されたままです。
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