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シェアハウス

『シェアハウス』より

「所有」しない暮らし方

 また、「THE SHARE」へのインタビューでは、二人でいろいろなものを所有するよりも、人とシェアする方が効率的」(段原さん)、「引っ越すたびに荷物が少なくなる」(並木さん)など、さまざまな備品や設備をシェアして暮らすことで、所有への意識がなくなったという発言もいくつか見られた。このような意見を見ると、多くの若者論で出てくる「所有への意欲がなくなった」という議論が持ち出されるかもしれない。いわゆる「車や家なんて興味がない若者」というアレだ。実際に、私の同期が40代の上司に「車とか興味ないんですよね」と言ったら信じられないという顔をされたと聞いて、逆に私もびっくりしたこともある。私だって、自動車を持とうとは思わない。もちろん、かわいいデザインの車を見て欲しいなと思うこともあるけれど、JRや地下鉄が発達し、車道は都心に近づけば近づくほど渋滞しているこの東京で、車を個人で買うメリットなんてほぽないと思っているのだ。

 しかし、これらの発言はイコール「若者はモノを所有する意欲がまったくない」ということではない。同じ「THE SHARE」内の会話ではこの段原さんの発言の後、奥さんが「私は、所有欲あるなあ……」と続けた。リビングやキッチンなど共用できる設備を、個人で所有する必要がないと気づいたものの、自分の欲しいものについては個人での所有欲はあるということのようだ。『絶望の国の幸福な若者たち』(古市憲寿著、講談社)で古市氏は、若者はお金を使わなくなったのではなく、車などの購入に使わなくなっただけで、衣食住や通信費などの必要なモノにはお金をかけていると指摘している。つまり、シェアハウスに住む私たちは、家に対する価値観が変わっただけなのだ。「一人で所有(占有)する」ことよりも「所有(占有)しなくても、生活が豊かである」ことの方が、家においては重要と判断し、シェアハウスというスタイルを選んだのだ。

「つながり」を求める私たち

 では、話を「日常型」に移そう。インタビューから、人がいることに安心したり、居住者・訪問者を含めた多くの人とのコミュニケーションが刺激になるという、人との関わりを重視するシェアハウス住民の姿が見えてきた。この人との関わりは、シェアハウス住民だけではなく、昨今の若者全体が求めていることではないかと思う。その欲求がもたらした最たる社会現象が「つながり」の広がりだろう。象徴的なものは、ケータイの普及だ。

 携帯電話の普及は2000年頃から本格化し、今では一人が一台以上の携帯電話を持つところまでに至った。さらに2004年には、ソーシャルーネットワーキングーサービス(以後、SNS) mixiがサービス提供を開始。そして、2007年5月には利用者が1000万人を超えるなど劇的な拡大を見せた。近年ではTwitter、Facebookも急速に普及し、2012年にはFacebookが1700万人を超える訪問者数を記録するなど、10~30代を中心にSNSの一般的な普及が見られる。2012年にはチャットや無料電話がより気軽に楽しめるスマートフォンーアプリ「LINE」が爆発的ヒットを飛ばして話題となった。こういった若者層における「つながる」ツールの普及からも、人との関わりに飢える若者の気持ちを垣間見ることができるのではないだろうか。

 さらに、そんな若者の飢えは、こんなデータからも見ることができる。図表9は、博報堂生活総合研究所の「生活定点」からの抜粋だ。実は20代の男女が最も「人と交際する時には、深く付き合いたい方だ」という割合が高く。いかに若者が人との関わりに重点を置いていることがわかるだろう。さらに、この項目の数年間の推移を見ると同項目の回答率は年々高まっており、人との関わりを重視する若者が増え続けていることがわかる。

 また「国民生活選好度調査」(内閣府)を見ると、充実度や生きがいを感じる時に「友人や仲間といる時」と回答した若者も1970年代には58.8%だったのが1998年以降は74%前後となっている。こういった動きを受けて、「ユルい」新たな若者像を描き話題となった『絶望の国の幸福な若者たち』で古市氏は、1990年以降、若者たちのなかで「友人」「仲間」の存在感が増し始めたことを指摘している。若者が人との関わりに飢えていることはわかるものの、携帯電話もSNSツールも発達し、さらに何か不足なんだと疑問に思う人も多いだろう。mixi、Twitter、Facebookなどの流行で、身近な人だけでなく小中学校時代の旧友ともつながり、投稿で近況を知ることができるようになったことに加え、チャット機能が使いやすいLINEも普及し、なにげない気分や報告を気軽に送れるようになった。すでに友達とつながるには充分すぎるほどのインフラが整っているのが、若者の今である。
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