未唯への手紙
未唯への手紙
戦争が終わると、必ず自由主義と共産主義の対立になる
『極秘指令 皇統護持作戦』より 肉親友人にも絶対に秘密を洩らすな ⇒ 未来からの発想
肉親友人にも絶対に秘密を洩らすな
八月十七日、横須賀飛行場から横須賀線で霞ケ関にある海軍省の軍令部地下作戦室に出向いた時の経緯から源田の話は始まった。
命にかえても徹底抗戦を唱えるつもりで肩を怒らせ作戦室に乗り込んだ源田を待ち構えていたのは、軍令部第一部長の富岡定俊少将たった。
前日の十六日にも、源田の上官である第五航空艦隊参謀長の横井俊之少将が乗り込んできていた。厚木航空隊の叛乱で混乱している中、最有力の三四三空まで叛乱を起こされると、天下の動乱になる。富岡は何としても源田を説き伏せなければならなかった。
「御詔勅が果たして陛下の真意であらせられるか、それとも君側の奸のなせる策か。われわれ前線の将士は態度を決しかねる」
怒鳴るように問う源田はいまにも腰の軍刀を抜きかねない勢いだ。
「申すまでもなく陛下の御真意です。終戦は断じて君側の奸の仕業ではない。われわれ軍人には悲憤やる方ない気持ちであるが、大御心には従わなければならない」
「だが、このままでは収まりません。私も収める自信がない。まだ停戦命令が出ていないため、今朝も索敵を命じてきた。敵機を発見すると、進撃する気概であります。事と次第によれば全員で特攻する覚悟でいます」
富岡が「決して君側の奸の仕業ではない」と言ってもどうしても源田は受け入れない。八月九日と十日の御前会議の記録を手渡した。
--朕の股肱とたのむ陸海軍人より武器を奪い、朕が杖柱とたのんだ重臣たちを戦犯として連合国法廷に送ることはまことに堪え難い所であるが--
その後にこう続いた。
--のお言葉の後(御涙)--
ここまで読むと、源田は軽く目を閉じ、うつむいた頬に涙がつたう。陛下がそこまでお心を痛めておられた。
「軽々に判断したものではない。このたびの処置は国体の破壊になるか、しからず敵は国体を認めると思う。これについては不安は毛頭ない。敵に我が国土を保障占領された後にどうなるか、これについて不安はある。しかし戦争を継続すれば、国体も何もみななくなってしまい玉砕あるのみだ。忠勇なる日本の軍隊を、武装解除することは堪えられぬことだ。しかし国家のためにはこれを実行せねばならぬ。賛成してくれ」
「よくわかりました。部下を収めることができそうです」
「戦争が終わると、必ず自由主義と共産主義、つまり米ソの対立になる。その谷間に日本の立ち直る機会ができる。幸い民族は残った。そこから新しい日本を育てよう」
普段の鋭い眼光が消え、悄然と書類を閉じ席を立とうとする源田に告げる。
「待て、密命がある」
この期に及んで密命とは何か。納得できない様子の源田を別室に招き入れる。
富岡は話を続けた。
「連合軍がどんな占領政策を取るかわかっていない。それが故、天皇陛下の運命がどうなるかもわからぬ。我々としては天皇家の血筋を守り通さねばならない。若宮様を隠匿して、万が一のために皇統を護持する」
占領軍によって天皇家が断絶させられた際、天皇家の血筋を引く幼い宮様を行在所に密かに隠して養育する皇統護持作戦であった。
すでに軍令部総長の豊田副武大将と海軍大臣の米内光政大将、高松宮宣仁親王の了承を取っており、大金益次郎宮内次官とも話し合いを持ち、機密費二十万円を用意したと説明した。米十キロ六円だから現在でいえば四、五千万円に相当する。
終戦の報に「天皇陛下は中国に流刑、皇太子はアメリカに連行され、残った皇族は全員死刑になる」という流言憶測が巷に飛び交っていた。
国体を護持しようにも武装解除された海軍にはその手立てはなく、占領軍に好きなように解体されるのを海軍は待つばかりだった。源田に限らず日本人は皇室の行く末を案じていた。皇室に万一の事があれば、靖国で会おうと死んだ者に顔向けができない。
安堵するとともに三四三航空隊が国運を賭けた密命を授かったことに源田の心身は奮い立った。
「謹んでお引き受け致します」
「この仕事は勇気だけでできる仕事ではない。四十七士の大石内蔵助、それが君の立場だ。連合軍がいつ進駐してくるかわからないが、その前にできるだけ早く展開してもらいたい。ただし若宮様の隠匿は最悪の場合が来た時だけ発動される。どなたを選ぶか、その直前まで決めない。皇女の場合もありうる。任務はいつまでとはいえないが、とりあえずは二年、いや三年位と思っている。しかし隊員諸君には無期限の覚悟でやってもらいたい」
はやる馬を諌めるかのように感情の起伏なく富岡は源田に言い含めた。
肉親友人にも絶対に秘密を洩らすな
八月十七日、横須賀飛行場から横須賀線で霞ケ関にある海軍省の軍令部地下作戦室に出向いた時の経緯から源田の話は始まった。
命にかえても徹底抗戦を唱えるつもりで肩を怒らせ作戦室に乗り込んだ源田を待ち構えていたのは、軍令部第一部長の富岡定俊少将たった。
前日の十六日にも、源田の上官である第五航空艦隊参謀長の横井俊之少将が乗り込んできていた。厚木航空隊の叛乱で混乱している中、最有力の三四三空まで叛乱を起こされると、天下の動乱になる。富岡は何としても源田を説き伏せなければならなかった。
「御詔勅が果たして陛下の真意であらせられるか、それとも君側の奸のなせる策か。われわれ前線の将士は態度を決しかねる」
怒鳴るように問う源田はいまにも腰の軍刀を抜きかねない勢いだ。
「申すまでもなく陛下の御真意です。終戦は断じて君側の奸の仕業ではない。われわれ軍人には悲憤やる方ない気持ちであるが、大御心には従わなければならない」
「だが、このままでは収まりません。私も収める自信がない。まだ停戦命令が出ていないため、今朝も索敵を命じてきた。敵機を発見すると、進撃する気概であります。事と次第によれば全員で特攻する覚悟でいます」
富岡が「決して君側の奸の仕業ではない」と言ってもどうしても源田は受け入れない。八月九日と十日の御前会議の記録を手渡した。
--朕の股肱とたのむ陸海軍人より武器を奪い、朕が杖柱とたのんだ重臣たちを戦犯として連合国法廷に送ることはまことに堪え難い所であるが--
その後にこう続いた。
--のお言葉の後(御涙)--
ここまで読むと、源田は軽く目を閉じ、うつむいた頬に涙がつたう。陛下がそこまでお心を痛めておられた。
「軽々に判断したものではない。このたびの処置は国体の破壊になるか、しからず敵は国体を認めると思う。これについては不安は毛頭ない。敵に我が国土を保障占領された後にどうなるか、これについて不安はある。しかし戦争を継続すれば、国体も何もみななくなってしまい玉砕あるのみだ。忠勇なる日本の軍隊を、武装解除することは堪えられぬことだ。しかし国家のためにはこれを実行せねばならぬ。賛成してくれ」
「よくわかりました。部下を収めることができそうです」
「戦争が終わると、必ず自由主義と共産主義、つまり米ソの対立になる。その谷間に日本の立ち直る機会ができる。幸い民族は残った。そこから新しい日本を育てよう」
普段の鋭い眼光が消え、悄然と書類を閉じ席を立とうとする源田に告げる。
「待て、密命がある」
この期に及んで密命とは何か。納得できない様子の源田を別室に招き入れる。
富岡は話を続けた。
「連合軍がどんな占領政策を取るかわかっていない。それが故、天皇陛下の運命がどうなるかもわからぬ。我々としては天皇家の血筋を守り通さねばならない。若宮様を隠匿して、万が一のために皇統を護持する」
占領軍によって天皇家が断絶させられた際、天皇家の血筋を引く幼い宮様を行在所に密かに隠して養育する皇統護持作戦であった。
すでに軍令部総長の豊田副武大将と海軍大臣の米内光政大将、高松宮宣仁親王の了承を取っており、大金益次郎宮内次官とも話し合いを持ち、機密費二十万円を用意したと説明した。米十キロ六円だから現在でいえば四、五千万円に相当する。
終戦の報に「天皇陛下は中国に流刑、皇太子はアメリカに連行され、残った皇族は全員死刑になる」という流言憶測が巷に飛び交っていた。
国体を護持しようにも武装解除された海軍にはその手立てはなく、占領軍に好きなように解体されるのを海軍は待つばかりだった。源田に限らず日本人は皇室の行く末を案じていた。皇室に万一の事があれば、靖国で会おうと死んだ者に顔向けができない。
安堵するとともに三四三航空隊が国運を賭けた密命を授かったことに源田の心身は奮い立った。
「謹んでお引き受け致します」
「この仕事は勇気だけでできる仕事ではない。四十七士の大石内蔵助、それが君の立場だ。連合軍がいつ進駐してくるかわからないが、その前にできるだけ早く展開してもらいたい。ただし若宮様の隠匿は最悪の場合が来た時だけ発動される。どなたを選ぶか、その直前まで決めない。皇女の場合もありうる。任務はいつまでとはいえないが、とりあえずは二年、いや三年位と思っている。しかし隊員諸君には無期限の覚悟でやってもらいたい」
はやる馬を諌めるかのように感情の起伏なく富岡は源田に言い含めた。
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