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カーシェアはビジネスモデルではない

『バカ売れ法則大全』より

都内の中心部でよく見かける「赤い自転車」が、倍々ゲームのように増えている

 ドコモ・バイクシェアという会社と各自治体が共同で実証実験を行っている自転車シェアリング。赤い色をした自転車のサドル後方には、ボタンとICカードをかざせるカードリーダーが設置されていて、利用の際はPCまたはスマートフオンからWebサイトにアクセスして、会員登録を行う(クレジットカードが必要)。

 サイト上で予約をすると、4ケタのパスワードをメータで受信。サドルの後方に設置されているパネルにパスコードを入力すると、自転車のカギが開錠する。返却するときは、手動でカギをかけ、パネルの「ENTER」を押せば終了である。

 料金は、1回30分で150円(超過した場合、30分:100円)、月額会員は月に2000円払うと、乗り始めの30分だけ何度でも無料になる(延長した場合、30分:100円)。利用回数を見ると、2014年は55万回だったが、2015年は100万回、そして2016年は220万回に達した。自転車の台数もポー卜の数も、2014年に比べて、現在はほぼ3倍に増えている。

 レンタサイクルとは異なる機能でメリットを生み出す

  「電動アシスト自転車(以下、自転車)には、どのような人が利用しているのかが分かるようにモジュールのほかに、位置情報を確認するためにGPSを搭載しています。また、自転車を返却するポートにはビーコン(小型無線装置)が備えられていて、ビーコンと自転車側のモジュールが通信することで、返却されたかどうかが分かります」(※取材当時ドコモーバイクシェアの井上佳紀さん)

  こうした機能を搭載することで多くのメリットがある。レンタサイクルなどを見ると、管理する人を配置していたり、専用の機械を設置していたりしているが、そうした必要がなくなる。それだけでなく、基本的に電源がいらないので、設置時の工事や配線も不要。従来タイプと比べて、コストは3割ほど削減することができたという。

  また、大規模工事が不要なので、柔軟に駐輪場を設置することができる。例えば、大きなイペントがあったとき、その周囲にはたくさんの自転車が並んでいることがあるが、そうした際にこの自転車シェアリングを活用することができる。

  自転車を設置するのに大規模な工事が必要ないので、自転車を移動させるだけで、利用することができるからだ。

 利用回数増加、3つの理由

  一般的なレンタサイクルは借りた自転車を元の位置に戻さなければいけないが、この自転車シェアリングの最大の特徴は〝乗り捨て〟ができること。さまざまなところに設置されているポート(自転車置き場)で原則24時間借りることができ(一部を除く)、好きなポー卜に返却することができる。

  「利用回数が増えている理由は3つあるのではないでしょうか。ぴとつめは、相互利用ができるようになったこと。2016年2月から、東京都内4つの区(中央区、千代田区、港区、江東区)で相互利用の実験を始めました。さらに、10月からは新宿区、2017年1月からは文京区も加わりました。それまでは相互利用ができなかったので、千代田区で借りたら千代田区で返す、港区で借りたら港区で返す、といった形でした。しかし、相互利用できるようになって、ものすごい勢いで利用回数が増えました。2つめは自転車台数とポート数が増えたこと。都内のポート数を見ると、2015年末時点で140ポートほどだったのですが、現在は280ポー卜ほど。数が増えているので、使い勝手がよくなっているのではないでしょうか。

  3つめは、時代の流れ。カーシェアリングなどさまざ圭なモノ・サービスをシェアする時代になってきているので、『ちょっと自転車を借りようか』という人が増えてきているのかもしれません」(井上さん)

  目的地へ行くのに駅から10分ほど歩かなければいけないので、「ちょっと赤い自転車を使ってみよう」となって、実際に乗る。一度乗ってみると、便利であることが分かって、その後も利用する人が増えているそうだ。

 鉄道を利用するより安くなるケースも

  「虎ノ門ヒルズで仕事をされて、新橋駅に移動する場合はどうするか。虎ノ門ヒルズから最も近い駅は、銀座線の虎ノ門駅。そこへ行くのに徒歩5分ほどかかります。虎ノ門駅から新橋駅まで2分ほどかかるので、鉄道の待ち時間を考えずに計算しても7分ほどかかってしまう。でも、虎ノ門ヒルズから新橋駅って近いんですよね」(井上さん)

  その距離を自転車で行くと、3~4分くらい。つまり、鉄道を利用するよりも、自転車のほうが速い。

  「虎ノ門ヒルズから六本木ヒルズヘ行くのも、鉄道を使えば時開かかかるんですよね。『どうやって行けばいいのか』と調べなければいけない人もいらっしやると思いますが、自転車だとそれほど時間はかかりません」(井上さん)

  虎ノ門駅から乗って銀座駅で乗り換えて六本木駅までは15分ほど。虎ノ門ヒルズから六本木ヒルズまで直線距離にして1・5キロほどなので、自転車で行くと、10分かからないくらい。目的地によっては鉄道で移動するよりも速く着くことができる。

力ーシェア事業で唯一黒字化できている「パーク24」の戦略

 クルマを所有せず、使いたいときに利用することができるカーシェアリング(以下、カーシェア)。スマホなどから予約して手軽に使えることから、利用者が増えている。現在カーシェア事業に参入しているのは30社前後。しかしその中で黒字化を達成しているのは時間貸し駐車場を運営している「パーク24」のみだ。

 会員を獲得する前にクルマと駐車場という莫大な資金が必要になる典型的な「先行投資型ビジネス」であるために、事業を黒字化するまでに長い年月がかかってしまう。

 黒字の世界に〝一番乗り〟できた

  「カーシェア事業を始めるには『駐車場』『会員』『クルマ』という武器が必要です。中でも最も確保するのが難しい駐車場は持っていました。そして、クルマという武器を手にしたので、他社よりも黒字化のスピードが速かったのではないでしょうか」(※取材当時カーシェア事業「タイムズカープラス」担当の内津基治さん)

  同社のビジネスモデルは、地主から土地を借りて、車室を貸す。大口で借りて、小口で貸すという形だが、いつも「満車」ではない。どこかの駐車場でいくつかの車室が空いているが、それではもったいない。駐車場としてスペースを貸すか、クルマを貸すか、それだけの違いであり、カーシェア事業は空いている土地の有効利用として始めたわけで、新しいビジネスを始めたという意識はないという。

  「当社は駐車場屋なので、駐車場は全国に約1万6000ヵ所持っています。そして、会員は約640万人います(2017年7月末現在)。でも、クルマを持っていませんでした。カーシェア事業に参入する企業が増えているなかで、『どうしたらいいのか』と悶々としていたところ、当時、マツダレンタカーがカーシェアを運営していました。しかし、クルマは多く保有していたものの、私だちと比べて駐車場の数は少なく、会員数も少なかったので、大きく展開することができてい圭せんでした。そこで、2つの会社が〝結婚″すれば、カーシェア事業を大きく展開することができるのではないか。ということで、マツダレンタカーをグループ化することにしました」(内津さん)

 秘密兵器「トニック」のチカラ

  黒字化達成には3つの武器に加え、パーク24にはもうぴとつの武器、駐車場オンライン「トニック(Times Online Network & Information Center)」を手にしている。

  「トニックを使って分かってきたのぱ『稼働状況』です。駐車場の稼働率が高ければ料金を少し上げて、稼働率が低ければ料金を少し下げる。利用されていない駐車場は空気を置いているようなものなのでもったいない。しかし、トニックを使えばリアルタイムで空いている駐車場が分かるので、効率よく運営できるようになりました。例えば、駐車場が満車なのに、そこにカーシェアのクルマを置くと、駐車場の売り上げを食ってしまうことになりますよね。カーシェアのクルマがなければ売り上げが伸びていたのに……といった話。そこでデータを分析して『この駐車場は稼働率が高いので、カーシェアのクルマを置かない』『この駐車場は稼働率が低いので、カーシェアのクルマを置く』といったことを決めています」(内津さん)

  また、このほかにもカーシェアの利用データから、駐車場に置いているクルマの車種を変えたことで売り上げが伸びたケースがある。

  例えば、商業エリアに小型のクルマを置いたところ、稼働率がものすごく低かった。そこでデータを分析すると、大きいクタマが必要なエリアや、小さなクルマが必要なエリアが分かってきた。一般的に商業エリアではビジネスパーソンが利用することが多く、大きな荷物を載せることが多いので大きいクルマが好まれる。

  さらにトニックは、駐車場には使えなくてカーシェアに使えるデータがある。

  「当社は『タイムズクラブ』という会員組織があるので、駐車場を利用するときにそのカードを使っていただければ情報を分析することができるのですが、すべての人が使うわけではありません。どういった人たちが使ったのか、細かい情報をなかなか分析できないのです。一方、カーシェアの場合、会員サービスなので入会するときには必ず個人情報をご登録いただきます。クルマを予約するときに情報が紐づいてくるので、どういった人たちが、いつ、どこへ行ったのかが見えてきました」(内津さん)

 人の移動が分かることでマーケティング活動に使えるように

  これまでカーシエアのターゲットは近隣の人たちだけだったが、利用者は近隣の人だけではないことも明らかになってきた。

  「地方に大手クルマメーカーの工場があるとします。自社の商品が採用されれば売り上げアップにつながるので、たくさんの部品メーカーがその工場を訪問しています。データをみれば、A社だけでなく、B社もC社もといった感じで。そうすると、そのほかの部品メーカーにもクルマを利用していただけるかもしれない。そこで、当社の営業が『カーシェアを利用しませんか?』とピンポイントで交渉することができるようになりました。結果、平日の稼働率がアップしました」(内津さん)

  カーシェア事業を始めて内津さんはちょっとびっくりしたことかあった。それはクルマを借りるものの、移動しない人が意外に多いことだ。どういう使い方をしているのかというと、〝部屋〟のように使っていることが分かってきた。クルマの中でPCを使ったり、スマホで電話をしたり、ホテル替わりに使っている人も。鉄道が何らかの原因で動かなくなったときには、カーシェアを利用する人が増えるそうだ。
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