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格差の減らし方--税金という接着剤について

『世界の貧困と格差ってなに?』より 格差の減らし方--税金という接着剤について ⇒ 北欧型ならば、税金もあり、と思えるけどね。

税金はない方がいいのか?

 --税金って、一般的に、払わないに越したことはないと考える企業や人が多いよね。

  「確かに、企業や大金持ちのなかにも、専門家に頼んで税をなんとかして払わないようにしようと、並々ならぬエネルギーを割いている場合があるね。普通の人びとだって、税金が増えることは喜ばないさ。」

 --確かに増税を喜ぶ人ってあまリ聞いたことがない。コンビニの値段ラベルを見て、お買い得と思っても、払うとき「消費税」といって多く払う。憲法でも納税の義務(第三〇条)が書いてあるけど、そもそもなぜ払わなければいけないかよくわからない。

  「「なぜか」、大事な疑問だ。たとえば誰もが利用する普通の道路とか、火事のときの消防署などは税金によって維持されている。儲けることを目的とする民間企業に任せたら、お金が払える人にしかそのサービスを提供しない。困るのはお金のない人びとだ。そういうことが起きないように、人びとからいったん国がお金を集めて、そのお金で人びとに無料サービスをする。

  昔は「火の用心」と言って住民が近所を回ったりした。

  また火事のときはみんなで消火したりしてきた。その維持費のために会費もあった。」

 --要するに、税金とはみんなの生活の安全のための参加費と考えればいいのね。

  「そうだ。日本の田舎ではまだ火の見やぐらが残っているのに気づいたことがある? 消防署がなかったころは、火事が起こると近所の家々も被害を受けるから、地域の住民が交代でこのタワーに登って、火事をチェックしたり、協力し合って火事を減らそうとしてきたんだ。

  ここで、現代世界でなぜ税を払うのかの根拠について改めて考えておこう。昔は王様や、人びとが選んだわけではない権力者が、支配下に置いた人びとから、勝手に、力ずくでお金や農産物などを集めた。年一回納める場合は年貢とも呼ばれた。人びとはこの税の根拠を王様たちに聞くこともできず、使い道もチェックできなかった。しかし、いまの世界では王様ではなく、人びとこそが国のモノゴトを決める主権者だから、自分たちが負担した税の使い道を尋ねだり、議会を通じて提案もできる。格差という社会問題についても税の出番であると訴えることができる。主権者であるわたしたちの間に社会での大きな格差や貧困が生まれると、社会や国の一員であるという一体感が崩れてしまう。税には、それを防ぐ働きがあるんだ。」

 --社会の一体感が崩れるとはどんなこと?

  「日本国内を見てみよう。一方で、たとえば株やビシネスで大儲けした人やその家族がいる。他方で、たとえば会社がつぶれて失業したりして苦しい生活を日々送っている人やその家族がいる。すると一つの社会に経済的に異なる二つの社会層が生まれてしまい、「僕たちの社会」という一体感がなくなるんだ。繰り返しになるけど、市場は競争を通じて勝ち組と負け組を生むが、国が集める税金は、余裕のあるところから多めにもらい、余裕がなくなって困っている人びとも、同じ人間として生活できるように使われる。社会の中で、人びとを互いに引き離すのではなく、逆にくっつける接着剤のようなものだ。」

市場と社会の違いを見つけよう

 --市場と社会の違いね。その二つをくっつけて考えるキーワードが税金なのね。

  「その通り。市場のルールではお金がチカラをもっけど、格差や貧困のような社会問題については、政治参加という誰もがもつ権利と結びつくと、格差社会を変えるチカラをもつ。」

 --税金は政治が決めるのね?

  「その通り。繰り返すように、社会の一体感を保つための税金は議会で決めることになっている。その時々の政府と議会のやり取りから、政治的に決定されるからね。政府と議会は僕たちが国政選挙で選ぶ。だから税に関しても、どんな目的でどのくらい税を集めるか、正しく使われたかは最終的には国民一人ひとりの問題だ。」

 --いま日本では子どもの六人に一人が貧困状態にあることを新聞インタビューで読んだことがある。この子どもとは一八歳以下の子どもたちのこと。そういえば、そこで、児童養護施設に預けられ、大人になって政治家になった人が、当事者の子どもは選挙権がないだけでなく、その親も余裕がなくて、結局子どもたちの声は政治的に反映されない、と訴えていた。それに、シングルマザーの世帯となると、食費さえこと欠く貧困に苦しむ世帯がその半分ぐらいに達している、ということもネットで知ってる。

  「よく気づいたね。」

グローバル経済にグローバルな税金を

 --「南」にも大金持ちがいるのを見たけど、南の国の中の格差を減らすために税金をもっと取れないの?

  「もちろん、「南」の国も人びとから税金を取ってるさ。ただ政府には経済的にまだ余裕がない。前にも言った通り、国内の個人や会社の稼ぐ収入額や持っている資産額も、統計が未発達で正確に把握できないし、政府にわいろを払って税を負けてもらうこともよくある。だから自国の税だけで国内の格差や貧困を減らすには不十分だ。そこで考えられたのが、グローバル経済で活躍する国際企業からのグローバル税という考えだ。」

 --確かに、個人の場合、世界中のお金持ちは自分の国にそれなりの税金を払うことを嫌い、しばしば税金がほとんどない外国を見つけて、その国の銀行にお金を預けたり、マンションを買ったりするって、海外ニュースで報じられていたことがあった。

  「グローバル企業にもそういう企業がある。地球規模の南北格差を考えるとき、グローバル化時代にお金が国境を越えたら払わなくて済むというのは、地球を一つの社会にたとえたらそのメンバーとして余裕のあるお金持ちが他の余裕がない人びとを助ける必要はない、ということになってしまう。」

 --グローバル・ビジネスにも税を課すということね。具体例は?

  「すでに実験というか、具体例として、規模はまだ小さいけどある。たとえば先進国や中進国約一〇カ国は、自国から海外に出発する乗客の航空券に税金をかけ、南の国の感染病の予防や治療のお金をねん出している。一回一〇〇円ぐらいだそうだ。またクリックひとつで大儲けできる株や為替の取引に税をかけようと、日本を含めた北の政府に呼びかける動きもある。その収入を南の保健医療や貧困対策に使う構想を国際市民団体などが各国政府や国際社会に対してキャンペーンしている。国境を越えた経済活動に対して課税して、貧しい国への支援に充てる国際連帯税という構想もある。」

 --ところで聞き忘れたけど、誰が税を取って、どのように使い道のチェックをするの? いまだ世界政府も世界議会もないんでしょ?

  「確かにいまの世界の仕組みないし国際関係では世界政府がないから難しい。脱税も減らすことはできるかもしれないが、すぐにはゼロにはできないだろう。いまのところ、このアイデアを共有するいくつかの北の政府が自主的に単独か数カ国でまとまって実施している。でも、できない理由を一〇〇準備するよりも、できる国ができるところから一つでも、二つでも踏み出し、小規模でも実績を積み重ねることだ。地球社会がつくられようとしているいま。その社会の抱える格差や貧困にたいして、税金という再分配の面でイニシアチブをとるのは地球市民としてごく当然の成り行きだろう。」

税金だけでは格差をつくる仕組みは治せない

 --国内格差や南北問の格差を減らす手段として、税というお金を政府が集めて、困っている人びとのために使う原理は少しわかってきた。でも格差って、税というお金の移転だけで減らすことができるの? というのは、格差は放っておくと大きくなるとしたら、そもそも格差を大きくしないような社会の仕組みというのがあるのかどうか、わたしは知リたい。

  「とても重要な点だ。実際、国を通して、余裕のあるところからお金を集めて、余裕のないところへ回すだけでは、格差を根本的に減らせないだろう。もともとグローバル・タックスのアイディアは、前回話し合ったような、金融ビジネスのアクセルを踏みっぱなしにして暴走するといった事態を引き起こさないために生まれたものだ。この税に、暴走を抑制するブレーキ役が期待されたんだ。実際、富を偏在させてしまう仕組みから、逆に格差の生まれにくい、言い換えれば、誰もがそれなりに誇りと個性を持って生活できる仕組みにどう変えていくかは、グローバル化時代にますます重要なテーマとなる。Fと話し合っている「僕たちがどんな世界に住みたいか」というテーマだって、どんな世界の仕組みが貧困と格差を生みにくくするのか、というFの問いに行きつくね。」
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