未唯への手紙
未唯への手紙
ギリシャの財政再建の困難性
『財政破綻は回避できるか』より
長期間にわたって支援が必要となる恐れ
タイや韓国、アルゼンチン、ロシアなど、過去に通貨危機に見舞われた国は多数あるが、いずれもIMFの資金援助によって解決してきた。IMFは、市場からの借入金利を大幅に下回る金利による貸し出しを行う見返りとして、緊縮財政と金融政策の引き締め、為替相場の切り下げ、経済構造改善などの政策を対象国に実施させてきた。また、こうした政策を確実に実行させるべく、監視しながら分割して貸し出しを行ってきた。
一方、通貨危機に陥った国々は、独自の通貨と中央銀行を持っていたため、為替相場を切り下げたり、独自の金利政策をとったりすることができた。通貨を切り下げることで国内産業の競争力を強め、輸出を拡大する。さらに、財政支出を削減して金融を引き締めれば、企業は運転資金を得るために輸出を拡大する。これにより、緊縮財政による景気落ち込みは短期間で終わり、通貨危機の後のV字型回復が可能となった。
しかし、ギリシャは、独自の通貨と中央銀行を持っていない。このため、通貨切り下げによる景気刺激策を採用することができなかった。財政支出を削減して税率を引き上げても、景気が悪化しているため大幅なマイナス成長となり、財政赤字削減目標を達成できない。こうして、ドイツなどのユーロ圏中心国は、長期間にわたり資金援助を続ける必要に迫られた。
今後もギリシャがユーロを自国通貨として使い続けるかぎり、長期間にわたってギリシャ産業は高コスト体質を引きずり、競争力を失った状況が続く可能性が高い。この結果、ギリシャの経常収支赤字は続き、さらなる金融支援が必要となるだろう。
こうしたギリシャ経済の長期的な停滞は、ギリシャ人の他国への移住を増加させるだろう。ドイツやオランダなどのユーロ圏中心国では、長期にわたる支援に対し、世論の反対が強まる可能性が高い。
さらには、ギリシャ国民が、こうした先の見えない経済状況に憤慨して、既存の中道政党を捨て、よりラディカルな経済政策の変更を訴える政党の支持に向かう可能性もある。その場合、ギリシャは、EFSFやIMFに課された財政引き締めの条件を無視した政策をとることになる。
ギリシャがEFSFやIMFからの借入条件である財政赤字削減を行わない場合、EFSFやIMFからの新規貸し出しが停止され、ギリシャ政府は絶対的な資金不足に陥る。たとえば、公務員給与や公的年金などを優先して支払うと国債の金利や元金を支払えなくなるなど、政府は、日々入ってくる税金や社会保険料の範囲でしか支払いができなくなる。
あるいは、ECB、EFSFやIMF、他のユーロ圏諸国政府などの公的機関を中心とした借り入れに対して債務不履行を宣言し、負債をカットしてしまう可能性もある。これは、2度目のデフォルト発生である。しかし、デフォルトするだけではコストを引き下げることにはならず、競争力回復にはつながらない。よって、経済の停滞は継続する。
ギリシャの経済停滞が続くと、ギリシャからドイツなどへの人口流出が著しく増える可能性が高い。すでに、経済危機に陥ったアイルランドから、同じ英語圏であるイギリスヘの人口流出が大幅に増加している。EU域内での人の移動は原則自由であり、医師や弁護士、会計士などの職業のライセンスもEU域内では単一となっている。ギリシャ経済の低迷が長期化し、公共サービスが大幅に悪化し続ければ、若年層を中心に多くのギリシャ人が他国に働きに出る可能性がある。
外国に移住したギリシャ人は、働いている国で納税を行う一方、国政選挙は母国で行うことになる。EU市民の投票権は、原則として地方議会については居住地で、国の選挙は母国で行うことになっている。したがって、多くのギリシャ人がドイツに出稼ぎに行くようになった場合、その税金はドイツ政府に入ることになる。EUの制度は、こうした矛盾もはらんでいる。
また、ギリシャによる、ECB、EFSF、IMF、ユーロ圏諸国に対する債務不履行は、将来の新規借り入れが、実際上、不可能になることを意味する。さらに、他のユーロ圏諸国に大きな損害を与えたギリシャは、ユーロ圏やEUそのものからの離脱を余儀なくされる可能性もある。
リシャによる独自通貨ドラクマの導入
ギリシャ経済を立て直すためには、2度目のデフォルトの前に、旧通貨であるドラクマを再導入したほうが有利だろう。ドラクマを導入することで、通貨切り下げによる競争力強化が可能になるからである。
ドラクマを再導入するために、まずギリシャ政府は、政府債務や銀行部門、企業・家計部門のユーロ建て債権債務をすべてドラクマ建てにI対Iの比率で強制転換する政令ないし法律を制定する必要がある。これにより、国内の貸出契約や雇用契約も強制的にドラクマ建てに切り替えられる。
政府債務の通貨を強制転換することはデフォルトに相当する。また、これは、民間契約を強制的に書き換える措置であり、ギリシャ憲法上の問題が発生するかもしれない。また、紙幣を印刷して使えるようになるまでには数カ月以上かかるため、それまではユーロで決済する必要がある。
次に、ドラクマ導入と同時に、ユーロに対してドラクマを大幅に切り下げる必要がある。ドラクマの切り下げによって、賃金・物価水準をユーロ圏よりも引き下げることが可能となり、国際競争力を回復することができる。
これに伴いインフレが発生するが、それは政府の税収を増大させ、財政バランスを好転させるだろう。インフレによる実質的な政府債務カットが発生する。これにより、ギリシャ国債や企業・個人向け債権を保有するギリシャ以外のEU金融機関や企業にとっては大きな為替差損を被ることになるが、ギリシャの企業や金融機関にとっては、国内債権・国内債務の両方がドラクマに切り替わってから切り下げが行われるため、対外債務のほうが対外資産より大きな主体が損失を被り、対外資産のほうが大きな主体は利益を得る。
しかし、海外の公的機関からの借り入れについては、大きな問題が残るだろう。ギリシャ政府債務の大部分は、EFSF、ECB、IMFなどの国際機関が保有している。それをドラクマ建てに切り替えたうえで切り下げることは、非常に困難だろう。それができない場合、ギリシャ政府は、公的債務について債務不履行に陥る可能性が高い。
長期間にわたって支援が必要となる恐れ
タイや韓国、アルゼンチン、ロシアなど、過去に通貨危機に見舞われた国は多数あるが、いずれもIMFの資金援助によって解決してきた。IMFは、市場からの借入金利を大幅に下回る金利による貸し出しを行う見返りとして、緊縮財政と金融政策の引き締め、為替相場の切り下げ、経済構造改善などの政策を対象国に実施させてきた。また、こうした政策を確実に実行させるべく、監視しながら分割して貸し出しを行ってきた。
一方、通貨危機に陥った国々は、独自の通貨と中央銀行を持っていたため、為替相場を切り下げたり、独自の金利政策をとったりすることができた。通貨を切り下げることで国内産業の競争力を強め、輸出を拡大する。さらに、財政支出を削減して金融を引き締めれば、企業は運転資金を得るために輸出を拡大する。これにより、緊縮財政による景気落ち込みは短期間で終わり、通貨危機の後のV字型回復が可能となった。
しかし、ギリシャは、独自の通貨と中央銀行を持っていない。このため、通貨切り下げによる景気刺激策を採用することができなかった。財政支出を削減して税率を引き上げても、景気が悪化しているため大幅なマイナス成長となり、財政赤字削減目標を達成できない。こうして、ドイツなどのユーロ圏中心国は、長期間にわたり資金援助を続ける必要に迫られた。
今後もギリシャがユーロを自国通貨として使い続けるかぎり、長期間にわたってギリシャ産業は高コスト体質を引きずり、競争力を失った状況が続く可能性が高い。この結果、ギリシャの経常収支赤字は続き、さらなる金融支援が必要となるだろう。
こうしたギリシャ経済の長期的な停滞は、ギリシャ人の他国への移住を増加させるだろう。ドイツやオランダなどのユーロ圏中心国では、長期にわたる支援に対し、世論の反対が強まる可能性が高い。
さらには、ギリシャ国民が、こうした先の見えない経済状況に憤慨して、既存の中道政党を捨て、よりラディカルな経済政策の変更を訴える政党の支持に向かう可能性もある。その場合、ギリシャは、EFSFやIMFに課された財政引き締めの条件を無視した政策をとることになる。
ギリシャがEFSFやIMFからの借入条件である財政赤字削減を行わない場合、EFSFやIMFからの新規貸し出しが停止され、ギリシャ政府は絶対的な資金不足に陥る。たとえば、公務員給与や公的年金などを優先して支払うと国債の金利や元金を支払えなくなるなど、政府は、日々入ってくる税金や社会保険料の範囲でしか支払いができなくなる。
あるいは、ECB、EFSFやIMF、他のユーロ圏諸国政府などの公的機関を中心とした借り入れに対して債務不履行を宣言し、負債をカットしてしまう可能性もある。これは、2度目のデフォルト発生である。しかし、デフォルトするだけではコストを引き下げることにはならず、競争力回復にはつながらない。よって、経済の停滞は継続する。
ギリシャの経済停滞が続くと、ギリシャからドイツなどへの人口流出が著しく増える可能性が高い。すでに、経済危機に陥ったアイルランドから、同じ英語圏であるイギリスヘの人口流出が大幅に増加している。EU域内での人の移動は原則自由であり、医師や弁護士、会計士などの職業のライセンスもEU域内では単一となっている。ギリシャ経済の低迷が長期化し、公共サービスが大幅に悪化し続ければ、若年層を中心に多くのギリシャ人が他国に働きに出る可能性がある。
外国に移住したギリシャ人は、働いている国で納税を行う一方、国政選挙は母国で行うことになる。EU市民の投票権は、原則として地方議会については居住地で、国の選挙は母国で行うことになっている。したがって、多くのギリシャ人がドイツに出稼ぎに行くようになった場合、その税金はドイツ政府に入ることになる。EUの制度は、こうした矛盾もはらんでいる。
また、ギリシャによる、ECB、EFSF、IMF、ユーロ圏諸国に対する債務不履行は、将来の新規借り入れが、実際上、不可能になることを意味する。さらに、他のユーロ圏諸国に大きな損害を与えたギリシャは、ユーロ圏やEUそのものからの離脱を余儀なくされる可能性もある。
リシャによる独自通貨ドラクマの導入
ギリシャ経済を立て直すためには、2度目のデフォルトの前に、旧通貨であるドラクマを再導入したほうが有利だろう。ドラクマを導入することで、通貨切り下げによる競争力強化が可能になるからである。
ドラクマを再導入するために、まずギリシャ政府は、政府債務や銀行部門、企業・家計部門のユーロ建て債権債務をすべてドラクマ建てにI対Iの比率で強制転換する政令ないし法律を制定する必要がある。これにより、国内の貸出契約や雇用契約も強制的にドラクマ建てに切り替えられる。
政府債務の通貨を強制転換することはデフォルトに相当する。また、これは、民間契約を強制的に書き換える措置であり、ギリシャ憲法上の問題が発生するかもしれない。また、紙幣を印刷して使えるようになるまでには数カ月以上かかるため、それまではユーロで決済する必要がある。
次に、ドラクマ導入と同時に、ユーロに対してドラクマを大幅に切り下げる必要がある。ドラクマの切り下げによって、賃金・物価水準をユーロ圏よりも引き下げることが可能となり、国際競争力を回復することができる。
これに伴いインフレが発生するが、それは政府の税収を増大させ、財政バランスを好転させるだろう。インフレによる実質的な政府債務カットが発生する。これにより、ギリシャ国債や企業・個人向け債権を保有するギリシャ以外のEU金融機関や企業にとっては大きな為替差損を被ることになるが、ギリシャの企業や金融機関にとっては、国内債権・国内債務の両方がドラクマに切り替わってから切り下げが行われるため、対外債務のほうが対外資産より大きな主体が損失を被り、対外資産のほうが大きな主体は利益を得る。
しかし、海外の公的機関からの借り入れについては、大きな問題が残るだろう。ギリシャ政府債務の大部分は、EFSF、ECB、IMFなどの国際機関が保有している。それをドラクマ建てに切り替えたうえで切り下げることは、非常に困難だろう。それができない場合、ギリシャ政府は、公的債務について債務不履行に陥る可能性が高い。
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