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てらまち・ねっと



 介護が個人にとっても、社会にとっても重大な問題、との認識はほぼ誰しも共通。「認知症」についても、同じ。
 認知症で徘徊(はいかい)している人が起こした事故の、家族らの賠償責任の有無を問う裁判。東海地方の事件なので、今までも時々報道されていた。
 昨日、最高裁の判決が出て、大きな全国ニュースになっている。
 ネットで報道などを見て、次に最高裁の判例のページにアクセスしたら、≪現在,裁判例情報のページがつながりづらい状態となっておりますので,一時的にこちらでご案内しております。≫と、まず出た。こんなことは私は初めてなので・・・ふむふむと思った。
 ≪裁判要旨 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定された事例≫
 通常のページにもアクセスできたので、ブログ末で判決にリンク、抜粋して記録しておいた。

 「家族の責任」を否定したケースではあるけど、一律に「家族の責任」を否定したわけではない。裏返せば、「家族の責任」を認めることある、ということだろう。
 一般的な評価は、報道などを見るとして、私が特に興味を持ったのは次。(今のところ「認知症」でもなく、「介護」現場でもないからかも)
 ≪判決 4-(1)-イ  民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定しているが,これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,しかも,同居の義務についてはその性質上履行を強制することができないものであり,協力の義務についてはそれ自体抽象的なものである。また,扶助の義務はこれを相手方の生活を自分自身の生活として保障する義務であると解したとしても,そのことから直ちに第三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。そうすると,同条の規定をもって同法714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めたものということはできず,他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとする実定法上の根拠は見当たらない。≫

 なお、ブログを開始してから12年目になったこのブログ、gooブログの管理者からの今朝の通知は、「ブログの開設から4.028日
3月1日のアクセス数 閲覧数4.206 訪問者数1.063」だった。

●認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決/朝日 2016年3月1日
●徘徊事故、家族の責任限定 認知症賠償訴訟、JR東海が最高裁で逆転敗訴/北海道 03/01
●認知症徘徊の電車事故、家族に責任問わず 最高裁/日刊スポーツ 3月1日
●【認知症事故訴訟】「介護の過酷さ知って」 誰もが可能性、終わり見えぬ現場/産経 3.2
●「画期的な判決」=認知症事故訴訟で家族側弁護団/時事 3/01

◆最高裁 【臨時掲載・最高裁判例】/※現在,裁判例情報のページがつながりづらい状態となっておりますので,一時的にこちらでご案内しております。
 ★裁判要旨
 ●平成28年3月1日 第三小法廷判決 全文(PDF)

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●認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決
    朝日 2016年3月1日
 愛知県大府市で2007年、認知症で徘徊(はいかい)中の男性(当時91)が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日、介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示した。

 そのうえで今回は、妻(93)と長男(65)は監督義務者にあたらず賠償責任はないと結論づけ、JR東海の敗訴が確定した。高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうだ。

 民法714条は、重い認知症の人のように責任能力がない人の賠償責任を「監督義務者」が負うと定めており、家族が義務者に当たるのかが争われた。JR東海は、男性と同居して介護を担っていた妻と、当時横浜市に住みながら男性の介護に関わってきた長男に賠償を求めた。

 民法の別の規定は「夫婦には互いに協力する義務がある」とも定めるが、最高裁は「夫婦の扶助の義務は抽象的なものだ」として妻の監督義務を否定。長男についても監督義務者に当たる法的根拠はないとした。

 一方で、監督義務者に当たらなくても、日常生活での関わり方によっては、家族が「監督義務者に準じる立場」として責任を負う場合もあると指摘。生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ、との基準を初めて示した。

 今回のケースにあてはめると、妻は当時85歳で要介護1の認定を受けていたほか、長男は横浜在住で20年近く同居していなかったことなどから「準じる立場」にも該当しないとした。

 結論は5人の裁判官の全員一致。ただ、うち2人は長男は「監督義務者に準じる立場」に当たるが、義務を怠らなかったため責任は免れるとの意見を述べた。

 一審・名古屋地裁判決は妻と長男に請求全額の賠償を命じ、二審・名古屋高裁判決は妻に約360万円の賠償を命じていた。

 JR東海は「最高裁の判断なので、真摯(しんし)に受け止める」とのコメントを出した。(市川美亜子)

●徘徊事故、家族の責任限定 認知症賠償訴訟、JR東海が最高裁で逆転敗訴
     北海道 03/01
 愛知県の認知症の男性=当時(91)=が徘徊(はいかい)中に列車にはねられ死亡した事故をめぐり、JR東海が男性の家族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が1日あり、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は男性の妻(93)に約360万円の賠償を命じた二審判決を一部破棄し、JR側の請求を棄却した。今回の事故では家族に賠償責任はないと判断し、JR側の逆転敗訴が確定した。

 認知症患者が起こした事故の責任を家族がどこまで負うべきかについて、初めて判断を示した。裁判官5人全員一致の結論。ただ、介護する家族の一般的な賠償責任を完全に否定したわけではなく、事案によっては今後、賠償を命じる判決が出ることもあり得る。

 民法714条は、子どもや精神障害者(認知症患者を含む)など責任能力がない人の賠償責任は、親や家族らが「監督義務者」として負うと規定。監督義務があっても、義務を果たしていれば責任は免れる。

 今回の訴訟では《1》誰が監督義務者に当たるか《2》監督義務者がいた場合、義務を果たしていたか―の2点が争点となった。

●認知症徘徊の電車事故、家族に責任問わず 最高裁
      日刊スポーツ 2016年3月1日
 認知症の男性患者が徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した事故をめぐり、家族が鉄道会社への賠償責任を負うかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日、「家族だからといって監督義務があるわけではなく、介護の実態などを総合的に考慮し、監督の困難さから賠償責任の有無を判断すべきだ」との初判断を示し、今回は困難で家族に責任はないとしてJR東海の請求を棄却した。

 民法は責任能力のない人が与えた損害は「監督義務者」が賠償すると規定しているが、防ぎ切れない事故の賠償責任までは負わないとする今回の判断は、在宅介護の現場に影響を与えそうだ。

 事故は2007年12月、愛知県大府市で発生。認知症で「要介護4」だった男性(当時91)が、当時85歳だった妻(93)がうたた寝をした隙に外出、駅構内で電車にはねられた。JR東海が賠償を遺族に求め提訴。最高裁は、2審名古屋高裁判決を破棄し、妻と当時横浜市に住んでいた長男(65)の責任を認めず、JR東海の敗訴が確定した。5人の裁判官全員一致の結論。

 最高裁は判決で「同居の配偶者というだけで監督義務があるとはいえない」とする一方、「家族と患者の関係、患者本人の状況などを総合的に考慮し、加害行為を防ぐための監督が容易かどうかという観点で賠償責任を検討すべきだ」と指摘した。

 その上で、妻は高齢で自身も介護が必要だったことから、男性の監督が可能な状況ではなかったと認定。長男についても「20年以上も別居しており、監督を引き受けていたとはいえない」と判断し、それぞれ免責した。

 1審名古屋地裁は、妻の過失を認めた上で、長男に事実上の監督義務があったとして2人に請求全額の約720万円の支払いを命令。2審名古屋高裁は、長男の監督義務を否定する一方で「夫婦に協力扶助義務がある」とする民法の別の規定を引用し、妻にだけ監督義務を認めて約360万円の支払いを命じた。

 認知症患者の事故は増加傾向にあり、14年度の鉄道事故758件中28件が認知症患者が関わっていた(国土交通省調べ)。鉄道各社は原則的に家族に賠償を求めるが、示談などで解決するケースが多いとされ、裁判で最高裁まで争ったケースは今回が初めてだった。

 判決後、長男は「大変温かい判断だ。良い結果に父も喜んでいると思う」とコメントした。(共同)

●【認知症事故訴訟】「介護の過酷さ知って」 誰もが可能性、終わり見えぬ現場
      産経 2016.3.2
 責任能力がない認知症男性=当時(91)=が徘徊(はいかい)し電車にはねられた事故。1日の最高裁判決は、自らも介護認定を受けながら男性の介護を続けていた妻に、賠償責任はないとの判断を示した。「介護の実態が伝わった」。高齢者の介護を続ける人々からは喜びの声が上がる一方、判決は介護の現場が抱える課題も浮き彫りに。高齢化が進む中、誰もが直面する可能性がある認知症介護のあり方に一石が投じられた。

「がんばりに敬意」
 「介護の大変さ、認知症の実態を知ってほしいと訴えてきた。それが通じたのだと思う」。公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都市)代表理事の高見国生(くにお)さん(72)は判決後会見に臨み、「本当に良かった」と涙を浮かべた。

 「防ぎきれないものを家族の責任にするのは絶対に認められないと思ってきた」と高見さん。妻の責任を認めた高裁判決後、死亡した男性の長男(65)から「(2審)判決を残したら、全国で介護しているみなさんに申し訳ない」と言われたと明かし、「がんばってくれたことに敬意を表している。本当に立派だ」とねぎらった。

徘徊した高齢者が踏切などから線路内に侵入し、発生する事故は今後も起こりうる。高見さんは「家族に損害賠償を求めるのは間違っているが、鉄道会社側が損害を負担するのもよくない」と指摘。「全額公費での社会的な救済制度をつくるべきだ」と提言した。

「同種の裁判続く」

 介護の現場も今回の判決を注目していた。

 「当たり前の判決。責任問題になること自体、理解がない」。こう憤る宇都宮市の無職、長野洋さん(70)は、5年前に若年性アルツハイマー病と診断された妻、静江さん(66)の介護を続けている。

 静江さんは現在、「要介護3」の認定。40年間にわたって住んでいる自宅から約50メートル離れたゴミ置き場に行ったまま戻れなかったり、家の中でトイレが分からなくなったりする。常に隣にいるよう心がけているが、今回の被告同様、ふと居眠りしてしまうことも。「終わりの見えない介護の過酷さを分かっていない」と理解を求めた。

 「今回の被告家族はJR東海からスケープゴートに選ばれたような感じがしていた」と話すのは、横浜市港北区の小林俊一さん(75)だ。認知症を患った妻(69)を6年前まで介護してきた経験を持つ。

 「道路を車が通過する数秒間だけしか目を離してないのに、どこかに行ってしまう」。外出時には、常に妻の手をつないで歩いた。「夫婦仲がいいね」。周囲からはやし立てられると、笑顔を浮かべて対応したが「そんなんじゃないんだ」と心の中で毒づいた。

 その後、小林さん自身ががんになり、妻は特別養護老人ホームに入所。約7年間の介護の日々は終わり、今は毎日ホームに通う。

 今回の判決を歓迎するものの、「現在の認知症介護は『老老介護』がほとんど。現状が変わらない限り、同種の裁判は続くのでは」と懸念も示した。

「安心できない判決」

 一方、アルツハイマー型認知症の母、貴恵さん(78)を自宅で介護する千葉県市原市の無職、上原佐恵子さん(45)は、「介護者の健康状況など条件つきの判決で、全ての患者家族が安心できる内容ではない」と、判決に複雑な思いを吐露する。

 介護の現場では若く体力のある人でも、認知症患者を常に見張るのは無理がある。「患者も家族も、そうした立場になりたくてなったわけではない。先の見えない介護で精神的に追い詰められる中、高額な損害賠償を求められたら行き場を失ってしまう」。こう話す上原さんは、改めて周囲の理解や支えが欠かせない家族の実情を訴えた。

●「画期的な判決」=認知症事故訴訟で家族側弁護団
       時事 2016/03/01
 「何の異論もない。画期的な判決だ」。認知症事故賠償訴訟の最高裁判決を受け、家族側の弁護団は東京都内で会見し、喜びの声を上げた。
 浅岡輝彦弁護士は、配偶者や家族というだけでは直ちに監督義務者に当たらないと判決が指摘した点を挙げ、「全面的に主張が認められた」と満足した表情。認知症患者の家族だけでなく、判断能力が不十分な人の財産管理などを行う成年後見人の賠償責任にも影響するとし、「素晴らしい判決だ」と評価した。

 判決は責任が認められる余地も残したが、畑井研吾弁護士は一定の歯止めをかけたと指摘する。初めて示された基準について、「ただ面倒を見ているだけでは責任はない。大変良い判断だ」と述べた。

 事故で死亡した男性の長男(65)は弁護団を通じ、「父も喜んでいると思います。8年間いろいろなことがありましたが、肩の荷が下りてほっとした思いです」とコメントした。

 (翌日追記・もうリンクが切れている)  ◆最高裁 【臨時掲載・最高裁判例】
※現在,裁判例情報のページがつながりづらい状態となっておりますので,一時的にこちらでご案内しております。

【事件番号】平成26(受)1434等
【事件名】損害賠償請求事件
【裁判年月日】平成28年3月1日
【法廷名】最高裁判所第三小法廷
【全文】全文(PDF)

   ★裁判要旨
事件番号 平成26(受)1434 事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成28年3月1日法廷名 最高裁判所第三小法廷
原審裁判所名 名古屋高等裁判所 原審事件番号 平成25(ネ)752
原審裁判年月日 平成26年4月24日
裁判要旨 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定された事例


    ●全文(PDF)
平成26年(受)第1434号,第1435号 損害賠償請求事件
平成28年3月1日 第三小法廷判決
主 文
1 平成26年(受)第1434号上告人の上告を棄却する。
2 原判決中,平成26年(受)第1435号 上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
3 前項の部分に関する平成26年(受)第1435号 被上告人の請求を棄却する。
4 第1項に関する上告費用は,平成26年(受)第1434号上告人の負担とし,前2項に関する訴訟の総費用は,平成26年(受)第1435号被上告人の負担とする。

理 由
平成26年(受)第1434号上告代理人三村量一ほかの上告受理申立て理由
(ただし,排除されたものを除く。)及び同第1435号上告代理人浅岡輝彦ほか
の上告受理申立て理由について

1 本件は,認知症にり患したA(当時91歳)が旅客鉄道事業を営む会社であ
る平成26年(受)第1434号上告人・同第1435号被上告人(以下「第1審
原告」という。)の駅構内の線路に立ち入り第1審原告の運行する列車に衝突して
死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し,第1審原告が,Aの妻である
平成26年(受)第1435号上告人(以下「第1審被告Y1」という。当時85
歳)及びAの長男である平成26年(受)第1434号被上告人(以下「第1審被
告Y2」という。)に対し,本件事故により列車に遅れが生ずるなどして損害を被
ったと主張して,民法709条又は714条に基づき,損害賠償金719万774
0円及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。第1審被告らがそれぞれ同条
所定の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者に当たるか否か等が争われている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
・・・・・・(略)・・・

3 原審は,次のとおり判断して,第1審原告の第1審被告Y1に対する損害賠
償請求を一部認容し,第1審被告Y2に対する損害賠償請求を棄却した。

(1) 一方の配偶者が精神上の障害により精神保健及び精神障害者福祉に関する
法律5条に規定する精神障害者となった場合には,同法上の保護者制度(同法20
条(平成25年法律第47号による改正前のもの)参照)の趣旨に照らしても,そ
の者と現に同居して生活している他方の配偶者は,夫婦の協力及び扶助の義務(民
法752条)の履行が法的に期待できないような特段の事情のない限り,夫婦の同
居,協力及び扶助の義務に基づき,精神障害者となった配偶者に対する監督義務を
負うのであって,民法714条1項所定の法定の監督義務者に該当するものという
べきである。そして,Aと同居していた妻である第1審被告Y1は,Aの法定の監
督義務者であったといえる。
第1審被告Y1は,Aが重度の認知症を患い場所等に関する見当識障害がありな
がら外出願望を有していることを認識していたのに,A宅の事務所出入口のセンサ
ー付きチャイムの電源を入れておくという容易な措置をとらなかった。このこと等
に照らせば,第1審被告Y1が,監督義務者として監督義務を怠らなかったとはい
えず,また,その義務を怠らなくても損害が生ずべきであったともいえない。

(2) 第1審被告Y2がAの長男として負っていた扶養義務は経済的な扶養を中
心とした扶助の義務であって引取義務を意味するものではない上,実際にも第1審
被告Y2はAと別居して生活しており,第1審被告Y2がAの成年後見人に選任さ
れたことはなくAの保護者の地位にもなかったことに照らせば,第1審被告Y2
が,Aの生活全般に対して配慮し,その身上を監護すべき法的な義務を負っていた
とは認められない。したがって,第1審被告Y2は,Aの法定の監督義務者であっ
たとはいえない。また,第1審被告Y2は,20年以上もAと別居して生活してい
たこと等に照らせば,Aに対する事実上の監督者であったともいえない。

4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は結論において是認することができ
るが,同(1)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)ア 民法714条1項の規定は,責任無能力者が他人に損害を加えた場合に
はその責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が損害賠償責任を負うべきもの
としているところ,このうち精神上の障害による責任無能力者について監督義務が
法定されていたものとしては,平成11年法律第65号による改正前の精神保健及
び精神障害者福祉に関する法律22条1項により精神障害者に対する自傷他害防止
監督義務が定められていた保護者や,平成11年法律第149号による改正前の民
法858条1項により禁治産者に対する療養看護義務が定められていた後見人が挙
げられる。しかし,保護者の精神障害者に対する自傷他害防止監督義務は,上記平
成11年法律第65号により廃止された(なお,保護者制度そのものが平成25年
法律第47号により廃止された。)。また,後見人の禁治産者に対する療養看護義
務は,上記平成11年法律第149号による改正後の民法858条において成年後
見人がその事務を行うに当たっては成年被後見人の心身の状態及び生活の状況に配
慮しなければならない旨のいわゆる身上配慮義務に改められた。この身上配慮義務
は,成年後見人の権限等に照らすと,成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成
年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって,成年後見人に対
し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監
督することを求めるものと解することはできない。そうすると,平成19年当時に
おいて,保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当す
るということはできない。

民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定している
が,これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務であって,第三者との
関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではなく,しかも,同居の義務
についてはその性質上履行を強制することができないものであり,協力の義務につ
いてはそれ自体抽象的なものである。また,扶助の義務はこれを相手方の生活を自
分自身の生活として保障する義務であると解したとしても,そのことから直ちに第
三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。そうすると,
同条の規定をもって同法714条1項にいう責任無能力者を監督する義務を定めた
ものということはできず,他に夫婦の一方が相手方の法定の監督義務者であるとす
る実定法上の根拠は見当たらない。

したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法7
14条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとする
ことはできないというべきである。

ウ 第1審被告Y1はAの妻であるが(本件事故当時Aの保護者でもあった(平
成25年法律第47号による改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律2
0条参照)。),以上説示したところによれば,第1審被告Y1がAを「監督する
法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。
また,第1審被告Y2はAの長男であるが,Aを「監督する法定の義務を負う
者」に当たるとする法令上の根拠はないというべきである。

(2)ア もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者
との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防
止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の
監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められ
る場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法
714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このよ
うな者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用さ
れると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日
第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。
その上で,ある者が,精神
障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その
者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃
淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状
況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活
における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態
など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるい
は監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者
の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観
点から判断すべきである。


イ これを本件についてみると,Aは,平成12年頃に認知症のり患をうかがわ
せる症状を示し,平成14年にはアルツハイマー型認知症にり患していたと診断さ
れ,平成16年頃には見当識障害や記憶障害の症状を示し,平成19年2月には要
介護状態区分のうち要介護4の認定を受けた者である(なお,本件事故に至るまで
にAが1人で外出して数時間行方不明になったことがあるが,それは平成17年及
び同18年に各1回の合計2回だけであった。)。第1審被告Y1は,長年Aと同
居していた妻であり,第1審被告Y2,B及びCの了解を得てAの介護に当たって
いたものの,本件事故当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受
けており,Aの介護もBの補助を受けて行っていたというのである。そうすると,
第1審被告Y1は,Aの第三者に対する加害行為を防止するためにAを監督するこ
とが現実的に可能な状況にあったということはできず,その監督義務を引き受けて
いたとみるべき特段の事情があったとはいえない。したがって,第1審被告Y1
は,精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはで
きない。

ウ また,第1審被告Y2は,Aの長男であり,Aの介護に関する話合いに加わ
り,妻BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながら第1審被告Y1によるAの介護を
補助していたものの,第1審被告Y2自身は,横浜市に居住して東京都内で勤務し
ていたもので,本件事故まで20年以上もAと同居しておらず,本件事故直前の時
期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないというのであ
る。そうすると,第1審被告Y2は,Aの第三者に対する加害行為を防止するため
にAを監督することが可能な状況にあったということはできず,その監督を引き受
けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。したがって,第1審被告
Y2も,精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということ
はできない。

5 以上によれば,第1審被告Y1の民法714条に基づく損害賠償責任を肯定
した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判
決のうち第1審被告Y1敗訴部分は破棄を免れない。この点をいう第1審被告Y1
の論旨は理由がある。そして,以上説示したところによれば,第1審原告の第1審
被告Y1に対する民法714条に基づく損害賠償請求は理由がなく,同法709条
に基づく損害賠償請求も理由がないことになるから,上記部分につき,第1審判決
を取り消し,第1審原告の請求を棄却することとする。

他方,第1審被告Y2の民法714条に基づく損害賠償責任を否定した原審の判
断は,結論において是認することができる。この点に関する第1審原告の論旨は理
由がないから,第1審原告の第1審被告Y2に対する同条に基づく損害賠償請求を
棄却した部分に関する第1審原告の上告は棄却すべきである。
なお,その余の請求に関する第1審原告の上告については,上告受理申立て理由
が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

なお,裁判官木内道祥の補足意見,裁判官岡部喜代子,同大谷剛彦の各意見がある。
裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は・・・・・・・(略)・・・

裁判官岡部喜代子の意見は,次のとおりである。
私は,・・・・・・・(略)・・・
4 ここで,結論を同じくする大谷裁判官の意見について若干述べておきたい。
大谷裁判官の意見については利害の調整という観点から共感を覚えるものである。
しかし,・・・・・・・(略)・・・

5 以上のとおりであるから,第1審被告Y2は法定の監督義務者に準ずべき者
に該当するものの民法714条1項ただし書にいう「その義務を怠らなかったと
き」に該当し,その責任を負わないものである。なお,第1審被告Y2が法定の監
督義務者に準ずべき者に該当することは上記1において述べたとおりの諸般の事情
に基づくものであって一般的に長男であることないし長男という立場に基づくもの
ではないことを注意的に付言する。

裁判官大谷剛彦の意見は,次のとおりである。
1 私は,・・・・・・・・・・・(略)・・・

8 次に,第1審被告Y2において,監督義務者としての義務を怠っていなかっ
たかどうかの免責要件について検討するが,この主張,立証責任は,条文の構成か
らみて被告側が負うこととなる。
この点についても,・・・・・・(略)・・・

高齢者の認知症による責任無能力者の場合について
は,対被害者との関係でも,損害賠償義務を負う責任主体はなるべく一義的,客観
的に決められてしかるべきであり,一方,その責任の範囲については,責任者が法
の要請する責任無能力者の意思を尊重し,かつその心身の状態及び生活の状況に配
慮した注意義務をもってその責任を果たしていれば,免責の範囲を拡げて適用され
てしかるべきであって,そのことを社会も受け入れることによって,調整が図られ
るべきものと考える。

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官
木内道祥 裁判官 山崎敏充)


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