■松田美智子著『越境者 松田優作』
http://www.shinchosha.co.jp/book/306451/
二十回忌を迎える今年、元妻松田美智子がこの時間だからこそ語れる死の真相と、等身大の彼の姿を残しておきたいという思いで書いた評伝。
没後18年が過ぎたわけだが、この評伝はとても生々しい。松田美智子さんは優作と離婚後、シナリオ・ライターの勉強を始めたという。これまで多数のノンフィクション作品を手がけてきたそうだ。代表作に『完全なる飼育』という映画になった『女子高生誘拐飼育事件』がある。映画には相当の知識があるらしく、この評伝もプロットがしっかりしていて、まるで映画を観るようであった。
優作と交流のあった人たちの中に今も優作は生きている。熱い激情と繊細さを同時に持ち合わせた優作に愛憎半ばの気持ちを抱えたままで。しかし、それも時の経過とともに失われてゆく。多くの人たちは冷静に生前の優作を振り返っていた。
優作の長兄東さん、主治医の山藤医師をはじめ他界した関係者も多い。取材拒否した座禅道場のI氏は優作が「心の師」としてその教えに救いを求めていた。彼の証言がほしかった。胡散臭い新興宗教を信仰していたこと、そのせいで家族との絆が途切れたままで最期を迎えたこと、松田美智子さんはそれが残念でならなかった。その気持ちは同じように突然その死を知らされた僕にもわかる。
離婚直後、映画『誘拐報道』への出演オファーを断った理由に泣けた。村川透監督が製作サイドのクレームでカットした『野獣死すべし』の列車の中の優作の美しい殺戮シーンは、いつかディレクターズ・カットで公開してほしいものだ。