shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Cool Struttin' / Sonny Clark

2009-07-15 | Jazz
 モダン・ジャズの世界においてブルーノートというレーベルは抜群の人気を誇るいわば別格の存在で、ブルーノートと言うだけで中古盤価格が高騰することもザラである。まさに猫も杓子もブルーノート、みたいな雰囲気なんである。確かにリハーサルを執拗に重ね、満足いかないセッションは丸ごとボツにして完璧な音源だけを製品化するという徹底したプロフェッショナリズムといい、名録音エンジニアであるルディ・ヴァン・ゲルダーが録った迫力満点のサウンドといい、ブルーノートでは他のレーベルとは激しく一線を画すポリシーが貫かれていた。更にレコード・ジャケットに関しても、天才デザイナー、リード・マイルスの斬新な意匠は、中身の音楽を表現しながらそれ自体が独立したアートとして鑑賞に耐えうるほど素晴らしいもので、私なんかブルーノートと言えば中身の音楽よりもジャケットの方が好きなくらいなのだ。
 このようにいいことずくめに見えるブルーノートだが、だからと言って何でもかんでも全ての作品が傑作なワケがない。ブルーノートには “1500番台神話” というのがあって、レコード番号が1500番台(大体53年~58年ぐらいまでの間に録音された盤)のレコードを過大評価する傾向があるが、中には毎回似たようなメンバーでテーマ部分だけをテキトーに決め、後は各自のソロ回しで長尺曲をでっち上げてお茶を濁しているように聞こえる “ナンジャラホイ盤” もある。そんなものまで十派一絡げにしてあれも名盤これも名盤だなどという無責任極まりない音楽ジャーナリズムに踊らされてはいけない。又、新主流派やモード・ジャズが大嫌いな私にとっては62年以降(大体4100番以降かな...)の盤はグラント・グリーンやアイク・ケベックのような一部の例外を除けば聴きたいとも思わないし、第一持っていない。つまり私は他のジャズ・ファンほどブルーノートを神格視してはいないのだ。
 しかしそんな私でも思わず “まいりました!” と平伏すしかないくらい圧倒的に、超越的に素晴らしいレコードがこのレーベルには数十枚(←めちゃくちゃ多いやん!)存在する。その代表格とも言うべき傑作がソニー・クラークの「クール・ストラッティン」なのだ。
 まずはこの洒落たジャケット・デザインに注目である。ロングタイトのスリット入りスカートから覗くスリムな脚はニューヨークの街を気取って歩く、つまりクールにストラットするキャリア・ウーマンを想わせる。これこそまさに “音が聞こえてきそうなジャケット” ではないか!音楽だけでなくジャケットをも含めたトータルなパッケージ商品としてLPレコードを捉えていたブルーノートならではの逸品だ。
 このアルバムを聴いて一番インパクトがあるのはジャッキーマクリーンの泣きのアルトだろう。どの曲を聴いてもリーダーのクラークは脇役に回っているように聞こえるが、アルバム全体を支配するこの黒々とした空気は紛れもなくクラークの世界。オーバーファンクに堕すことなく、独特の哀愁を帯びたタッチの中に適度に洗練された黒っぽさを感じさせるプレイこそが彼の真骨頂なのだ。
 タイトル曲の①「クール・ストラッティン」は曲調が “まるで誰かが気取って歩いている感じ” ということでこの名が付いたというミディアム・テンポのナンバーで、ジャッキー・マクリーンとアート・ファーマーが奏でるユニゾンのテーマからファンキーな薫りがプンプン漂い、冒頭の数フレーズでもうクラーク独自の黒い世界に引き込まれてしまう。ジャズ喫茶で大いにウケたのも十分頷ける1曲だ。
 ②「ブルー・マイナー」は日本人好みのする哀愁を湛えたマイナー調のナンバーで、どこか翳りを秘めた華やかさはファンキー・ジャズそのものだ。熱気溢れる演奏で煽りまくるリズム・セクションと共に、身をよじるようにして入魂のソロを聴かせるマクリーンが圧巻だ。サビがもろビギン・リズムなのはご愛嬌。
 ③「シッピン・アット・ベルズ」はマイルス・デイビスのオリジナル曲で、フロント陣を気持ち良く歌わせるクラークのバッキングが絶妙だ。ただ、他の曲が素晴らしすぎるせいもあるが、テーマ・メロディーの旋律性が薄く曲としての魅力に乏しいので、その分各ソロイストの手腕に頼らざるを得ないように聞こえる。
 私が最も好きな④「ディープ・ナイト」のみスタンダード・ソングで、ブラッシュを基調にしたピアノトリオでスタートし、やがてそこにファーマーのペットやマクリーンのアルトが絡んでいくというこれ以上ないハードバップの理想的なスタイルで演奏が進行していく。特にフィリー・ジョーのスリリングなブラッシュ・ワークが圧巻で、彼の大ファンである私としてはもう嬉しくてたまらない(^o^)丿 又、クラークのシングル・トーンを中心にしたコロコロ転がるようなピアノといい、ファンキーな黒っぽさを見事に演出するファーマーとマクリーンのフロント陣といい、この1曲にハードバップのエッセンスがギュッと凝縮されている。個人的には全ブルーノート曲の中で一番好きな演奏かもしれない。
 彼はわずか31才で亡くなってしまった夭折のピアニストだが、彼の名はこの「クール・ストラッティン」と共にジャズの歴史に燦然と輝いている。ジャズという音楽が存在し続ける限りその輝きを失わない、永遠に色褪せぬ傑作中の傑作だ。

Sonny Clark: Deep Night

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2 コメント

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はじめまして♪ (shiotch7)
2009-09-13 19:04:34
bi-te-kiさん、はじめまして♪
どうぞよろしくお願い致します。

このブログは自分が気に入った盤を
ただ本能の趣くままに激賞してるだけなんですが
私の駄文で興味を持っていただけたのなら
こんな嬉しいことはありません。

「クール・ストラッティン」は
ジャズ・ファンじゃなくても楽しめる
懐の深い名盤だと思います。
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Unknown (bi-te-ki)
2009-09-13 11:14:33
解説を読ませていただいて、ぜひ聴いてみたくなりました。ジャケットも素敵ですね。
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