shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

George Wallington Quintet at the Bohemia

2018-06-16 | Jazz
 先日、仕事の関係で久々に神戸に行く機会があった。仕事といってもただクライアントを三宮まで連れて行き、用事が済めば連れて帰ってくるだけというラクチンなミッションで、しかもありがたいことに3時間ほどの自由時間があったので、これ幸いとばかりにレコ屋巡りをすることにした。
 神戸のレコ屋と言えば何はさておきハックルベリーである。このお店では過去に何度も掘り出し物を見つけてオイシイ思いをしているし、値段設定も極めて良心的なので秘かに期待していたのだが、残念ながら今回は目ぼしいブツは無し。以前と比べると店内在庫における国内盤の比率が高くなっているようだ。やはり今の時代、オリジナル盤が欲しければネットオークションで手に入れるしかないのだろうか?
 一番期待していたハックルベリーで収穫が無かったので、他に予定していたワイルドハニーパイやりずむぼっくすも多分アカンのちゃうかという不安が頭をよぎる。脚を棒にして雨の中を歩き回って収穫ゼロではやりきれない。しかし時間はまだ2時間ほど残っている。そこで “ほんならいっそのこと梅田まで足を延ばしてディスクユニオン行ったろか...” という大胆なアイデア(笑)が思い浮かんだ。もし何かのアクシデントがあって2時間以内に戻ってこれなければエライことになるが(←一応仕事で来てるのでね...)不測の事態が起きなければ往復1時間半を差し引いてもギリギリ間に合う計算だ。ユニオン行ったら何かあるんちゃうか... という直感に背中を押されるように私は梅田行きの特急に飛び乗った。
 電車を降りて降りしきる雨の中を急ぎ足で歩き、ディスクユニオン大阪店に到着。最近ネットでしかレコードを買ってないのでここにくるのはホンマに久しぶりだ。まずビートルズのコーナーに直行するが、ハッキリ言ってロクなものがない。稀少盤は“ビートルズ廃盤セール”のために取ってあるんかな... などと考えながら他のロックの棚も見てみたがやはりダメ(>_<)  せっかく梅田くんだりまで来たのに収穫なしか... と半ば諦めモードに入りなりながら、最後に一番奥のジャズのコーナーに足を踏み入れた。
 壁にはマイルスの「クッキン」やガーランドの「グルーヴィー」といったモダンジャズのオリジナル盤が所狭しと飾られており、 “ネットの時代になってもやっぱりユニオンだけはオリジナル盤天国やなぁ...” などと感心していたのだが、そんな中の1枚に私の目は釘付けになってしまった。それが「ジョージ・ウォーリントン・クインテット・アット・ザ・ボヘミア」で、もちろん赤白プログレッシヴ・レーベルのオリジナル盤。ずーっと欲しかったけど値段が高くて手が出なかったこのレコードが何と44,000円の値札を付けて目の前の壁に掛かっているのだ!
 ウォーリントンの「ボヘミア」はプログレッシヴというマイナー・レーベルのせいで “幻の名盤” 扱いされており、EX盤ならeBayで $500以上、ヤフオクでも7万円前後で取り引きされている超稀少盤である。ネットオークションにはだいたい年に数回ぐらいの頻度で出品されており、そのたびにウォッチリストに入れてはみるものの、ラスト数分のビッドの応酬による値段の爆上げに毎回戦意喪失して苦汁をなめ続けてきた恨めしい盤なのだ。そんな垂涎盤が今、“私を手に取って! ” とばかりに抗しがたいオーラを放ちながら誘惑してくるのだからこれでコーフンしない方がおかしい。
 状態は“中古品B”で、“ジャケ傷み、盤スレキズ(チリノイズ箇所有り)”となっているが、ジャケットの方は右上隅の部分がわずかに傷んでいるぐらいで全く気にならない。問題は盤質、それも見た目のヴィジュアル・グレードではなく実際に音を鳴らした時のプレイ・グレードだ。私はチリノイズの程度を知りたかったので早速試聴コーナーで盤質をチェック。確かにそこかしこに軽いスリキズはあるが、実際に聴いてみると微かにチリパチいう程度で、一般的なコンディション表記なら VG++ か EX− といったところ。先月ゼップの青ロゴ盤を購入して緊縮財政を余儀なくされてはいるものの、この千載一遇のチャンスを逃せば次は無いかもと考えた私は “カード2回払い” という伝家の宝刀を抜き(←手数料ゼロやもんね...)、ついにこのレコードを手に入れることができた。リスクを冒して梅田まで来た甲斐があったというものだ(^.^)
 その日の晩、ルンルン気分で仕事を済ませて帰宅した私は、シャワーも晩メシも後回しでレコードをターンテーブルに乗せた。スピーカーから飛び出してきたサウンドは、さすがはルディ・ヴァンゲルダー録音!と言いたくなるような野太い音で、ユニオンの試聴用ヘッドフォンでは気付かなかった中低域の張り出しがライヴ会場にいるようなリアリティーを感じさせてくれる。とにかく今まで聴いてきたCDの「ボヘミア」とは激しく一線を画す、臨場感溢れるダイナミックなサウンドが気持ち良くて、これなら44,000円の価値は十分にあると思った。
 このレコードの一番の魅力は何と言ってもジャッキー・マクリーンのせっつくようなアルトのプレイだろう。中でも特に気に入っているのがB②の「ジェイ・マックス・クリブ」で、原曲の「朝日のように爽やかに」を絶妙にひねった旋律を “ペック奏法” で一気呵成に吹き切るその哀愁舞い散るプレイに涙ちょちょぎれる。続くB③「ボヘミア・アフター・ダーク」でドナルド・バードと繰り広げる二管ジャズのお手本のようなノリノリのプレイも聴き応え十分! ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」と同じく、マクリーンの存在こそがこのレコードをハードバップの名盤たらしめているのだ。
 このレコードはブルーを基調としたジャケットも素晴らしく、ワシントン広場の凱旋門の下にクインテットのメンバーが佇んでいる写真が雰囲気抜群だ。見ただけで音が聞こえてきそうなジャケットとはこういうのを言うのだろう。ウォーリントンの顔のアップ写真(←それも目ぇ瞑っとるで...)を使った初CD化時のジャケは私的にはNGだ。モダン・ジャズのオリジナル盤は色使いや構図も含めてジャケット・アートとして愉しめるところが良いのであり、オリジナル・デザインを改悪したり差し替えたりした再発盤の偽物ジャケは作品に対する冒涜以外の何物でもない。
 ウォーリントンの代表作というとプレスティッジの「ジャズ・フォー・ザ・キャリッジ・トレード」を挙げているジャズ・ガイド本が多いように思うが、お上品なウエストコースト・ジャズみたいにカチッとまとまったアンサンブルが鼻につく「キャリッジ・トレード」なんかよりもライヴの熱気溢れるこの「ボヘミア」の方が断然カッコ良いと思う。ジャズはハードバップ、そしてハードバップは “熱盛!” に限るのである。
George Wallington Quintet at the Cafe Bohemia - Jay Mac's Crib

George Wallington Quintet at the Cafe Bohemia - Bohemia After Dark