蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

神の棘

2016年10月09日 | 本の感想
神の棘(須賀しのぶ 早川書房)

ヒトラー全盛期の頃、SSにあってカトリック教会弾圧で頭角をあらわしたアルベルトは、女優の妻とともにスパイの疑いをかけられ左遷され、アインザッツグルッペン(戦線の後方にあってユダヤ人虐殺やパルチザン撲滅に特化したSSの部隊)に配属される。ここでも能力を発揮するが、やがてイタリア戦線の最前線部隊に転属となり、モンテカッシーノなどの激戦地を転々とする。戦後、裁判にかけられ、死刑を言い渡される。
アルベルトの生涯を、幼なじみのマティアス(カトリック教会の修道士・司祭)の行動とからませながら描く。

紹介文に「歴史ロマン巨編」とあるが、その通り、久しぶりに「歴史ロマン」を読んだなあ、と思えるような、重量感もリアリティも波瀾万丈のストーリーも兼ね備えた、文字通り骨太な物語。読書の楽しみを満喫できる傑作だった。むしろ、本作がさほと評価されているとは思えないのが残念(本作を読むきっかけになったのは文庫本のランキング本での紹介だった)。

冷酷非情な殺人マシーン的組織として有名なアインザッツグルッペンの兵士も、多くのユダヤ人を連日銃殺して埋めるという作業には非常なストレスを感じており、定期的な交代が必要で、前線視察に訪れたヒムラーすら、一連の「作業」を見て嘔吐した(このため、ガス室など機械的に処理できる設備が検討されたという。なお、史実かどうかは不明)、というエピソードが印象に残った。
コメント
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