蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

福家警部補の挨拶

2013年10月20日 | 本の感想
福家警部補の挨拶(大倉祟裕 創元推理文庫)

刑事コロンボのオマージュを意図した完全倒叙形式のミステリ短編集。
コロンボとの関わりを紹介している解説「倒叙ミステリへの遥かな思い」がとてもいい。

著者や私と同年代(現在40代後半~50代くらい)のうちそこそこの数が、コロンボのノベライズを読んだことをきっかけにしてミステリファンになったのではないだろうか。そしてその年代が少し前までの日本におけるミステリブームを作ってきたと思われる、と考えるとコロンボこそ、日本ミステリ小説界の大恩人だといえるだろう。

私が育った家は、あまりテレビを見ない(子供にも見せない)ところだったので、コロンボの番組はほとんど見たことがないのだが、運よく、お金持ちの開業医の息子が同級生にいて、この子がコロンボのノベライズを全巻買ってもらっていたので、そのすべてを借りて読むことができた。
いやー、子供だったせいもあって印象が強烈すぎて、あれほどインパクトがあって次の本が読みたくてしかたなくなって、借りられたらその日のうち中に読んでしまうなんてミステリは、あれ以来出会ったことがない。


本書は、そのコロンボ的倒叙形式を忠実になぞっていて、その昔の興奮を呼び覚ましてくれた。惜しむらくは、(徹夜続きなど、フロスト刑事も多少意識したと思われる)福家警部補のキャラがほとんど描かれないことだろうか。
次巻では、シリーズもこなれてきて警部補の秘密みたいな部分を明かしてもらいたいなあ、と思った。
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書くことについて

2013年10月20日 | 本の感想
書くことについて(スティーブン・キング 小学館文庫)

前半1/3くらいが自叙伝で、残りが基本的な文章読本や小説作法といった感じの本。

面白いのは自叙伝部分で、私のように、キングの作品は数えるほどした読んだことがなくて、その人となりについてもほとんど知識のない者にとってはとても興味深い内容だった。

出世作である「キャリー」のペーパーバック化の版権が40万ドル(著者の取り分20万ドル)で売れた時(当時の20万ドルは現代日本でいうと1億円くらいか??)、著者はさえない学校の国語教師でトレーラーハウスに住む境涯だったので、望外の高値に狂喜する。その喜び度合いが衒いなく書かれた部分、
「ミザリー」など代表作ともいえるいくつかの作品を書いている当時、著者はアル中、ヤク中で(飲むものがないと(刺激を求めて?)洗口液まで飲んだというのがリアル)あったと告白した部分、
などが特に興味深かった。

私のような不熱心な読者であっても、どうも、その、アル中、ヤク中であった頃の作品の方が今より数段よかったよな・・・最近のはただ長いだけで・・・なんて感じられてしまう。クリエイティブであるためには、やはり、ある種のトリップ状態が必要ということなのだろうか。
それにしても、アメリカでは(大昔の話とはいえ)「コカイン中毒でした」と堂々と告白しても、案外平気?なもんなんですね。

文章読本部分で面白いな、と思ったのは、英語であっても表現したいことをダイレクトに言葉に表す(例えば、悲しいときに「悲しい」という言葉を使ってしまうこと)ことは避けるべきであって、会話や地の文から書いている人がいいたいこと(悲しい)が自然とたちのぼってくるような文章がよいのである、と、著者が言っていることだった。
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