蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

第9地区

2011年06月05日 | 映画の感想
第9地区
DVDが出始めたころから、ちらほらと評判を聞いていたけど、パッケージデザインから想像するに品のないコメディなのかな~と思っていたので、なかなか手が伸びませんでした。

しかし、ちょっと前に日経夕刊のコラムで、ある人が「昨年見た中で一番面白かった」という旨のことを書いていたのにひかれてみてみました。

ヨハネスブルクの上空に巨大宇宙船が飛来して上空で停止したままになります。
いつまで待っても何の動きもないので、宇宙船に突入してみると、マシンが故障して支配層が失われてどうしようもなくなった漂流エイリアンたちが大量に発見されます。
エイリアンたちは人間に救助?され、ヨハネスブルク近郊で暮らし始めますが、エビに似た外見などから激しく差別されます。
第9地区という、エイリアンたちの居住区は人間のギャングが徘徊したりして無法地帯と化してきたので、別の地区へ強制移住させる計画が実施されつつある・・・という話。

最初のうちこそ、コメディっぽい軽い話という感じだったのですが、主人公(エイリアン移住計画の担当責任者にまつりあげられた人)が、エイリアンたちと立退き交渉をするうち変な液体を浴びて、自分自身がエイリアンに変身しはじめてしまうあたりから、シリアスタッチになってきます。
そうは言っても、最後まで続くこっけい味は、恒星間飛行が可能なテクノロジーを持ち、武器だけ見ても圧倒的なパワーがありそうなエイリアンが、人間に屈服しているという不自然さをカバーするためのものなのでしょうか。

差別していた側が差別される立場に転換した時の、不条理感とか、虚しさとか、道徳性への懐疑とか、といったものが主題なのかと感じましたが、主人公は、最後まで、あくまで自己中心的な行動を貫き通して、義理堅そうなエイリアンの科学者と対照をなしています。
そのせいか、最後まで彼には救いは訪れなかったのですが(いや、もしかするとこの結末は、実は彼にとって大いなる救済だった、という意味なのか?)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぼくのエリ

2011年06月05日 | 映画の感想
ぼくのエリ

中一くらいの感じの主人公は、(多分)両親は離婚して、母に育てられ、学校ではいじめられて友達がおらず、孤独である。

ある日、隣の部屋に引っ越してきた同い年くらいの少女とアパートの外で遊ぶようになる。しかし、彼女は実は吸血鬼だった・・・という話。

ホラーやスリラー的要素はほとんどなく、いじめられている(と、いっても、日本のTVとかに出てくるようなえげつないいじめシーンはないが)少年が夢想する美しいおとぎ話としてみる映画なのだろうが、やっぱりもう少しえぐみとかサスペンスがほしいところか。

一昔前と行った感じの北欧の美しい冬の風景には味わいがあった。
あとエリと同居している食料確保係(人間を殺してその血液を収集する係)のおじさんヴァンパイアがとてもドジなのが笑えた(笑うシーンではないのだが)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピース

2011年06月04日 | 本の感想
ピース(樋口有介 中公文庫)

近所のショッピングセンターでは、3カ月に1回くらい、ハウスカードでクレジット払いすると10%オフという企画をやっている。
このセンターに大型書店があるので、本はできるだけこの時期にまとめ買いするようにしている。
「10%オフだから・・・」というのを言い訳にしてついつい買うつもりがなかった本まで買ってしまい、お店の企画にまんまとはまっているのだが、本書もレジの前のワゴンに積まれていて、お店手作りと思われるオビとPOPが良かったのでつい買ってしまった。(文庫としても2年前くらいに出版された作品で、お店が発掘したらしい)

著者の作品を読むのは久しぶり。
見かけはミステリなのだけれど、やりたいこと、いいたいことは別にある、って感じの作品が多かった記憶がある。本書もそういった感じで、秩父で起こった連続バラバラ殺人を刑事が捜査する話。

動機がキーとなっているのだが、どんなに丁寧に読んでもテキストから動機と犯人を割り出すことはできないので、ホントはミステリとはいえないだろう。
たくさんの登場人物が出てきて、それぞれ謎めいた設定が用意されているが、ほとんどが謎のまま終わってしまう。

と、書くと、中途半端な作品なのかと思われてしまうが、動機はかなり意外感があるにもかかわらずそれなりに納得がいくように説明されており、小さな謎が謎のまま(というか読書の想像に任せたというべきか)終わるのもむしろ余韻を感じさせた。

特に謎だらけの登場人物、梢路がとても魅力的だった。
また、主な舞台であるスナック「ラザロ」も「実在するなら行ってみたい」と思わせるような素敵な描写だった。
(「ラザロ」は聖書の登場人物。本書はタイトルにもたくらみがあるのだが、内容としては「ラザロ」というタイトルが似合いそうなものがあった)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

君がいない夜のごはん

2011年06月02日 | 本の感想
君がいない夜のごはん(穂村弘 NHK出版)

このブログで何回も書いているように、穂村さんのエッセイを読むのは抜群に楽しい。最近、本屋で見かけて迷わず買う本は穂村さんのエッセイくらいになってしまった。

しかし、世間的に見ると、まあまあ一定の固定ファンをつかんでいる(そうでないとこんなに連載があったり、出版されないだろう)ものの、どんどん重版、というほどでもないようだ。

それでは、なぜ、私が穂村さんのエッセイを偏愛するようになってしまったのだろうか。私とほぼ同年代なので、昔の思い出話がでてくるとシンクロしやすいのだろう。
しかし、同年代の作家はそれなりにいるわけで、それだけではないだろう。
では、ひきこもり気味(食べ物をテーマにした本書でもたびたび出てくるように、著者は、幸せを感じるシチュエーションが、ベッドで菓子パンをかじってうだうだしてるみたいな、インドア?系(まあ、本職は歌人なのでいたしかたなかろうが))といったところが似ているからだろうか。

私が最も著者と似ているなあ、と思った点は別にあって、それは自尊心の高さ、かなあ、と思う。著者のどのエッセイでも、人付き合いがうまくいかない悩みが書かれている。読者の視点でみると、「それはあなたのプライドが高すぎるからでは?」と思えてしまうのだが、よく考えると、それはそのまま自分にあてはまっているのだった。

本書で特に面白かったのは、「ショコラティエとの戦い」(複雑化した食べ物の名前の話。カフェオレとカフェラテの違いに悩むあたりが面白い)、「「酔っ払い様の謎」(角田光代さんとの会話がいい)、「コンビニおにぎりの進化」、「完璧な朝食」(もう、これ、そっくりそのまま私のことです、って感じ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

作家の口福(恩田陸ほか 朝日文庫)

2011年06月02日 | 本の感想
作家の口福(恩田陸ほか 朝日文庫)

朝日新聞の土曜日版の付録には「be」というのが二種類はさまっていて、赤い「be」には、食べ物をテーマにした「作家の口福」という作家の連載コラム(一人が4回程度を担当)がある。

赤い「be」は、付録の中でも付けたしって感じの位置づけで、「作家の口福」もあまり目立たない位置にあるので、見逃している人も多いのではないかと心配なのだが、執筆者は、今が旬といった感じの若手人気作家ばかり。
さすが朝日の威光は衰えず、みたいな印象がある。
私は、主にこのコラムを読むために、普段は読んでない朝日新聞を、土曜日の朝だけ近所のコンビニに買いに行っている。

本書は、その「作家の口福」を収録した文庫。恩田陸、古川日出男、村山由佳、井上荒野、森絵都、三浦しをん、江国香織、角田光代、道尾秀介といった一流どころを集めているし、エッセイ自体の内容も充実したものが多い。
朝日に連載ということの他に、やはり、食べ物をテーマにするとエッセイが書きやすい、といった面もあるのだろう。

本書でよかったのは
朱川湊人さんの「父の弁当」(父子家庭に育った著者、父に弁当を作ってくれと懇願するが・・・)、
江国さんの「スパイスと言葉」(とても素敵なインドレストラン)、
中村文則さんの「命の糧」(食うや食わずのフリーター時代、勤め先で叱責された後に自分に許したささやかな贅沢の味)。

本書には収録されていないが万城目さんの連載は4回ともとても面白かった。引き続き、連載が書籍化されることを強くお願いしたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする