蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

100年の難問はなぜ解けたのか

2011年06月16日 | 本の感想

100年の難問はなぜ解けたのか(春日真人 新潮文庫)

有名な難問:ポアンカレ予想をめぐる数学界の流れを解説した本。          

やはり有名な難問であったフェルマーの最終定理は、一見簡単そうに見えるし、私たちが学校で習ったような数学に近そうだな、と思われるものがあるが、ポアンカレ予想は、その内容自体が数学とは思えない(一休さんの頓知問答みたいな感じがした)ものだし、この本の中でも解き方を少しだけ解説しようとしているが、もちろん理解できない。

ポアンカレ予想には、アメリカの研究所によって(解法を発見した人に100万ドルあげるという)懸賞がかけられていた。ところがポアンカレ予想を解決したロシアの(経済的には貧しい)数学者ペレリマンは、数学界最高の栄誉のフィールズ賞を辞退したばかりか懸賞金も受け取ろうとはせず、世間から身を隠してしまった(結果的にこの俗人離れした行為によってペレリマンは世界中から注目されるという、本人の意図とは逆の状態になってしまうのだが)。

数学の問題に懸賞をかければ、数学者をめざす人が増えるだろうというアメリカらしい発想に対して、もともとペレリマンは、数学という学問が汚されたように感じていたという。本当の数学者の喜びは金銭でも名誉でもなくて、問題が解けたという喜びにしかないから、というのがその理由。

なかなか解けないパズルがあって、どれだけ考えても解けないのに、翌日になってパズルとは関係がないことをやっている時にふと解答(やヒント)が頭に浮かんだりすることがあるが、その瞬間は確かに快感がはしる。だから、あらゆる学者が束になっても解けない難問が解けた時(あるいは解けそうになった時)の気持ちよさは想像を絶するものがあるのだろう。

しかし、その快感を求めて何年も、へたしたら何十年も一つの問題にかかりきりになって数学者としてのキャリアを棒にふってしまう人もあるのだとか。

著者は、NHKのディレクターとしてポアンカレ予想を解いたペレリマンを探す番組を制作したのだが、結局ペレリマンには会えずじまい。本の中でのポアンカレ予想の解説もあまりうまくいっているとはおもえなかったが、それでも本書は、謎に挑む数学者たちの情熱みたいなものをうまく表現していてとても楽しく読めた。

蛇足だが、あとがきで紹介されている、数学者の服装がとてもラフ、という話が印象に残った。

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