蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

いつか王子駅で

2007年02月08日 | 本の感想
いつか王子駅で(堀江敏幸 新潮社)

昨年、新潮文庫に入って話題になり知った作品。ハードカバーを図書館で借りて読みました。

前半は、「書斎の競馬」という雑誌に連載されたものとのことで、競馬や馬の話題が各章に登場します。しかし、ストーリーの大半は、尾久(田端の近く。広大なJRの操車場の端に小さな駅がある)の近くに住む大学講師の高等遊民的(我ながらワーディングが古くさい)日常を描くことに費やされます。

主人公は、時々思い出したように品川の大学へ授業に行くくらいで、後は倉庫の2階に借りた部屋で古本を読んですごします。近くの居酒屋で定食を食べるのがルーチンで、居酒屋のくせにネルドリップでたてる珈琲が自慢の店。この珈琲がなんともうまそうです。私は東北本線で通勤しているので、毎日尾久を通過します。もしモデルがあるなら是非一度飲んでみたいものです。

大家の娘の家庭教師をして、その家族と仲良くなって娘(陸上部)の競技会に行ったりします。

嫁さんも子供も愛人も仲のいい友人も登場しません。近所の人たちとの薄味な交際が淡々と描かれます。このような本が好評を得るのは、私も含め多くの人がこんな生活にあこがれているからでしょう。
もっとも、本当にこんな生活をしたら、退屈で、さみしくて、一週間ももたないような気がします。あくまで本の中の話だからこそ、憧れがわいてくるのだと思います。

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