蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アンチクリストの誕生

2018年10月08日 | 本の感想
アンチクリストの誕生(レオ・ベルッツ ちくま文庫)

ヨーロッパの歴史を題材として、史実とはちょっとだけ異なる筋立てにした短編集。

「主よ、われを憐れみたまえ」
ソ連成立初期、赤軍と白軍の内戦時代、旧軍の大佐:ヴォローシンは暗号解読の専門家だったが、赤軍への協力を拒んで秘密警察の長:ジェルジンスキーから銃殺を言い渡される。ロストフにいる家族への暇乞いを認められ、その後約束通りにモスクワに帰るがロストフで里心がついてしまい、ジェルジンスキーから重要な暗号を解けたら助命すると提案されてそれを受入る。しかし暗号解読は難航し・・・という話。
文庫本でわずか30ページほどの小品なのだが、
ある程度歴史の知識を持った読者を想定して説明を極力省いた緊密な叙述
軍人の意地、家族愛、秘密警察長官の狡猾、など数多くのテーマを過不足なく詰め込んだストーリ
そしてなんより暗号を解けない焦りと、意外な暗号鍵の存在
などなど、素晴らしい出来であった。

「アンチクリストの誕生」
悪人として知られるある有名な歴史上の人物の来歴をモチーフにした作品。自分の子が反キリスト者であると確信した父親の異様な執念の描写が出色。

「霰弾亭」
第一次世界大戦中のチェコ兵の思い出話。二重人格的なフワステク曹長(語り手の上官)のキャラが抜群で、曹長の恋人との写真のエピソードにはしびれた。

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