蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

そして、バトンは渡された

2019年05月28日 | 本の感想
そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ 文藝春秋)

森宮優子は高校生。産みの母を事故で亡くし、再婚した実の父は海外に赴任し、父の再婚(その後離婚)相手の梨花に連れられて(梨花の再婚相手で金持ちの)父と暮らしていたが、梨花はまた離婚して再々?婚し、また別の父ができる・・・という話。

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本屋大賞を始め、各種ランキングで高い評価を受けた作品で、今さら感想でもないのだが、本作のテーマの一つは、友達なんていなくても平気、だと思う。(もちろん、これがメインではないけれど)
客観的にみると苛烈な人生を生きてきた優子のようだが、(むしろそれゆえにか)自分の立場や状況をメタ的な視点から超然と眺めることができ、少々の苦難(同級生からのいじめとか)は、それを苦難として認識すらできない。
海外赴任した父について行かなかったのは、当時の小学校の友達と別れたくなかったからなのだが、そんな親友も今では年賀状を交換する程度のつきあいしかない。かけがえのない父との生活をそんな友達と交換してしまったことを優子は反省している。
優子の現在の父は東大出のエリートサラリーマンだが、友達がいない、と公言しそれを気にすることもない。

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本書で一番面白かった場面は、金遣いの荒い梨花と二人暮らしの時期に、食べ物を買うお金にも事欠いて、アパートの大家のおばあさんに自家栽培の野菜をもらいにいくところだ。これは私が貧乏くさい話が好きなせいもあるが、おばあさんが(介護施設に入所することになって)優子に託したものが重要な伏線になっていたからでもある。お金の有効な使い方を考えさせられるエピソードだった。

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