蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

山月記・李陵

2008年03月29日 | 本の感想
山月記・李陵(中島敦 岩波文庫)

「李陵」など、おしゃべりな現代の作家の手にかかったら、上・中・下の大長編小説になってしまいそうだ。本作は、50ページほどでまとめられていても、余白が語るとでもいうのか、大河小説を読んだような読後感があった。

子路を描いた「弟子」で特に感じたのだが、あるところは司馬遼太郎の語り口を、あるところは浅田次郎の名調子を思い起こさせる。
偉大な作家はほんのわずかな作品しか残せなくとも後世のベストセラー作家にも影響をあたえることができるのだろう。

本書の中で最も印象に残った場面は、しかし、「山月記」の中でも「李陵」の中にでもなく、「「沙悟浄歎異」の一場面で、猪八戒がうつし世の素晴らしさを語るところだった。
なるほど彼がいうように退屈な天国で霞を食っているより、苛烈なこの世で肉を平らげていた方がよさそうな気がしてきた。

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