蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ペテロの葬列

2016年05月22日 | 本の感想
ペテロの葬列(宮部みゆき 文春文庫)

「誰か」「名もなき毒」に続く杉村三郎シリーズの3作目。

主人公の杉村三郎は巨大企業のオーナーの娘婿という設定なのですが、この設定に必然性・必要性がない(別に杉村三郎は最初から私立探偵とか警察官とかでいいのに・・・)と(前2作に続いて)思って読んでいたのですが、「ほーら、そうでもないでしょ」と作者に笑われたような結末が本作には用意されていました。

宮部さんの作品のうち、時代物はハッピーエンディングというか、人間の良い面を強調するような筋が多いのに対して、現代ものは人間の醜さとか悪意をえぐりだして読者の前にさらすような、あまり読後感が良いとはいえないストーリーが大半のような気がします。
思い起こしてみると「火車」「理由」「模倣犯」など、代表作といえるような作品はことごとくそうでした。(特に「火車」の図書館(で主人公実父の死亡記事を探す)シーンは、強烈に記憶に残っています)そうかといって、だから時代ものがいい、というわけでもなく、読書体験としては現代ものの方が圧倒的に印象深いのですが。

本作の後味の悪さも相当なもの(特に杉村の奥さんのアノ台詞は勘弁してほしかった)ですが、ある意味では主人公の杉村が望んでいた通りの結果を招いたとも言えます。ただ、このシリーズのファンにとっても重大な裏切り??とも言えそうな展開で、各種レビューでも(ことこの結末に関しては)酷評しているものが多いです。
出版すればベストセラー間違いなしの人気シリーズで、こうした展開をあえて選択できるのも宮部さんならではかもしれません。(宮部さんのような大家でない限り、編集者が大反対しそう・・・)

続編も間もなく出版されるようで、現実にはいそうもないほどの好人物の杉村が、この、作者の残酷な仕打ち?にあってどう変わっていくのか、とても楽しみです。(←すっかり作者の術中にはまっているなあ)

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