蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

自分はバカかもしれないと思ったときに読む本

2024年07月14日 | 本の感想
自分はバカかもしれないと思ったときに読む本(竹内薫 河出書房新社)

著者は小学校3年の時、親の仕事の関係で何の準備もなくアメリカの学校に通うことになる。英語が全くできなかったが、算数を手がかりにして(アメリカでは九九がなく、九九をマスターしていた著者は大きなリードがあったそうである)「バカ」を克服していく。その体験(だけではないが)をもとに「バカ」を克服するにはどうしたらよいのか?の具体論を書いた本。

ここでいう「バカ」とは純粋に学習能力に関するもので世間知とか要領の良さみたいなものとは関係ない。肝心の「バカ」の克服法は、有体にいうと平凡。「まあ、おっしゃる通りだけど、それができれば苦労しないよなあ」と感じてしまった。

世の中で、自分のことをバカだと思っている人はそんなに多くないと思う。例え学習能力が極端に低かったとしても多くの人は別の点でプライドを持っていて、第三者から見るとそうしたプライドはたいてい「イタイ」ものなのだが、本人は決してそうは思っていない。というかそういうものが皆無の人は生き続けていくのが難しいのではなかろうか。

「多様性を失うと、集団はバカになる」、覆面算(かなり考えたけど解けず)、フェルミ推定、フィードバックに鍛えられて著者はTVのナマ放送に対応できるようになった、という話が面白かった。
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宙わたる教室

2024年07月14日 | 本の感想
宙わたる教室(伊与原新 文藝春秋)

都立東新宿高校定時制に通う柳田は、ディスレクシア(難読症)だったが、計算や学習能力は高かった。教師で研究者でもある藤竹の指導で火星のクレーターの再現実験を始める。同じクラスのアンジェラ(40代の料理店経営者)、名取(保健室の常連)、長嶺(もと町工場の経営者。70代)とともに、火星の環境の再現性を高めるために「重力可変装置」を考案する・・・という話。

大阪の定時制高校が2010年代に滑車を利用した重力可変装置を開発して様々な実験を行ったという実話に基づいている。同校は、コンテストで受賞したばかりか、その開発した装置の原理はJAXAでの実験にも導入されたそうである。

数学の教師である藤竹の口癖は、「自動的にはわからない」。数学をマスターするには手を動かして式や図を書くことが重要、という意味合いなのだが、本作のテーマに通じるものがある。名誉や報酬を求めるのではなく、実験を成功させたいという一心から様々な工夫をして困難を克服していく柳田たちの姿は、勉強とか研究とかを超えて人生の一つの真実を顕現しているように見えた。

実は藤竹にはある隠された目的がある。アメリカに留学中に知った貧しいナバホ族の若者がラジエターを応用した太陽熱暖房機を開発したことに端を発するものなのだが、確か昔「理系の子」で読んだエピソードのことのようで懐かしかった。

ディスレクシアは字のフォントを変えるだけで読めるようになることがある、なぜ空は青いのか(レイリー散乱による)、火星探査機オポチュニティーが自ら作った轍を撮影した写真(すぐ検索してみた)などの、所々に挿入される理科的エピソードも楽しかった。
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