蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ビートルズを呼んだ男

2018年01月15日 | 本の感想
ビートルズを呼んだ男(野地秩嘉 小学館文庫)

1967年のビートルズ来日をアレンジし、外国人タレントのプロモーターの草分けとなった永島達司さんの評伝。戦後日本の、外国人タレントの興行業界の発展史にもなっている。
丹念な取材に基づくノンフィクションなのにエンタテイメント小説のように楽しめた。また文章もとても読みやすい。もともと1999年に刊行された本で、絶版となっていたらしい。復刊してくれた小学館文庫に拍手したいし、もっと多くの人に読んでもらいたい本。

本書の中心でもある、ビートルズ招聘と日本社会全体を巻き込むほどの影響力を持った日本公演に関する部分も大変に面白いのだが、それ以上に戦後の興行業界の色々なエピソードが紹介された前半部分も非常に興味深かった。
特に、後にエージェンシー会社の社長となる菊地哲榮さんが早大時代に企画した伊東ゆかりのコンサート(舞台装置の電飾が巨大すぎて本番直前に停電してしまうが、菊地は真っ暗闇の中、乾電池式のマイクで歌ってくれと懇願する。実際やってみると大ウケで、3曲目あたりで偶然に復電した際にはたいそう盛り上がったそうである)の挿話がよかった。

そのほか、印象深かったのは・・・

・永島さんは(両親とも日本人だが)日本人離れした容姿で、ネイティブも感心するほど上品な英語をしゃべった。プロモーターという職業かれ連想されるような押しの強さはなく、むしろギャラを前金キャッシュで支払うなど、タレント側が驚くほど誠実だった。招聘したタレントの誕生日にはバースデーカードを毎年贈ることを欠かせなかったという。
また、来日したタレントを美食でもてなす(例えば楽屋に冷えたシャンパンを用意するとか)ので、帰国したタレントが「もっとうまいもの食わせろ」的なクレームを言うようになったそうである。

・戦後の日本で大ブームとなったボリショイサーカスの招聘に携わった日本側のコネクションは実はソ連のスパイだったらしく、そのスパイを顧問にしていた会社のプロモータ(神彰)が独占的に興行することができた。

・外国人タレントのギャラは(たいていの場合)ドルで支払う必要があったが、当時は為替管理が厳格で正規ルートでドルの大金を用意することは難しく、プロモーターたちは商社などで余った闇ドルをかき集めて払っていた。このため、外為法違反に問われるリスクを常に負っていたうえ、闇ドルで払った分を経費として申告するわけにはいかないので帳簿上は(興行で)大幅な利益がでていることになってしまい、税当局から追求にも脅えなければならなかった。

・正力松太郎の腹芸(ビートルズ公演直前に(右翼とかの)来日反対勢力のガス抜きをするため、武道館は使わせないなどと言い出すが、実際には使用を認めた)の見事さ。

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