蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

イニシエーション・ラブ

2008年01月05日 | 本の感想
イニシエーション・ラブ(乾くるみ 文春文庫)

「絶対二回読みたくなる」という文庫版のオビの惹句を見ただけでは読もうとしなかったと思います(この頃オビのウリ文句と内容が乖離している例が多いので)が、ハードカバーの方を読んだ知り合いの人が「確かに二回読みたくなる」と言うので、読んでみました。

その結果、オビの文句も知り合いの人が言うことも間違っていませんでした。
叙述ミステリ(?)としてももちろん見事な出来なのですが、sideA、sideBに分けられて二つの話が進む(後から見るとわかるのですが)緻密な構成(著者が理系であることがうなずけます。ちなみに男性だそうです)がさらに素晴らしくて、最後に「ああ、うまく(著者に)だまされた」と思ったあと、sideAを読み直したくなること請け合いです。

舞台設定が80年代。その頃の記憶がある人にとっては、当時の風俗がキーになっているので、トリックの一部はけっこうすぐにわかると思いますが、全貌を見破るには伏線にかなり注意しながら読み進む必要があると思います。
もっとも本書はトリックを見破ろうと一字一句に注意しながら読むより、サクサク読み進んで(実際、ストーリーそのものはありがちな恋愛モノなので内容はあまりありません)最後にスカッとだまされて「クヤシー」なんて叫ぶ方が楽しめます。

そういう意味では、本書に対して全く何の予備知識もなく読み始めるのが一番良いので、文庫のオビやこうした感想文は読まない方がいいのですが・・・

なお、文庫版の大矢博子さんの解説がとても親切でわかりやすいものになっています。この本を読んでも仕掛けがよくわからなかった、という方(叙述ものに慣れていない人)がけっこういらっしゃるという噂も聞きましたが、この解説を読めば全く問題なく理解できると思います。
コメント
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