嫌われた監督(鈴木忠平 文春文庫)
落合博満が中日の監督だったのは2004年〜2011年。監督と関わることによって野球人生が好転した選手(森野、福留、吉見、和田、荒木など)を中心に周囲の人々の視点から落合の姿を描く。
私が週刊文春を読み始めたのは伊集院静の「あの娘のカーネーション」から始まったエッセイ連載を読みたかったからだが、それが終了してからも電子版(閲覧できる記事が制限されているサイト)で読み続けてきた。
電子版では、最後まで読める連載もあれば、全く掲載されないものもあり、途中までしか掲載されないものもある。本書は全12章のうち7章か8章(うろ覚え)まで掲載された。その後連載された同じ著者による「いまだ成らず」はすぐに掲載されなくなったのに比べると長目に掲載されていた。ために、本になっても読むのが後回しになってしまったが、文庫になって新章も追加されたので、やっとこさ最後まで読んだ。
連載当時も大変に面白く、当時は今ほどの知名度がなかった著者の出世作となった。
一度読んだ分も含めて、読み出すと止めるのが難しくなるほどなのだが、落合の指導やアドバイスで活躍しはじめた選手の成長と同時に落合のそばで8年を過ごすうちに”末席記者”、”雑感記者”だった著者も大物記者っぽく成長していくのがいい。
冒頭に書いたように、本書において落合を語る選手たちは、落合から好影響を受けた人たちが多く、立浪、谷繁、川上といった主力メンバーでも、落合と対立してたり、既に選手として出来上がっていた人たちは(語り手としては)登場しない。この点が本書の残念なところ。特に(多分落合とはとても仲が悪そうだが、守備型を指向した落合戦術の中心選手だったはずの)谷繁の視点でも語ってもらいたかった。
中継ぎ左投手:小林の章で、わずかに谷繁が登場するが、この場面に落合や谷繁のキャラ?がよく出ていてよかった。(以下、引用)
***
落合がベンチを立つのが見えた。
ああ、交代か・・・。小林はそう判断した。おそらく次に一点が勝敗を分ける。右の強打者を迎えた場面での降板は無理もないことのように思えた。
だが、マウンドにやってきた落合は予測とはまったく逆のことを言った。
「勝負だ」
抑揚のないその声を聞いて、小林はあえて右バッターの新井と勝負するのだと理解した。左殺しである自分への指示としては妙な気もしたが、落合が言うのであればそうするしかない。
すると、正捕手の谷繁がマスク越しに小林の目を見て言った。
「お前、わかってるか?新井を敬遠して、金本さん勝負ってことだぞ」
それを聞いて、小林は頭が真っ白になった。
***
落合博満が中日の監督だったのは2004年〜2011年。監督と関わることによって野球人生が好転した選手(森野、福留、吉見、和田、荒木など)を中心に周囲の人々の視点から落合の姿を描く。
私が週刊文春を読み始めたのは伊集院静の「あの娘のカーネーション」から始まったエッセイ連載を読みたかったからだが、それが終了してからも電子版(閲覧できる記事が制限されているサイト)で読み続けてきた。
電子版では、最後まで読める連載もあれば、全く掲載されないものもあり、途中までしか掲載されないものもある。本書は全12章のうち7章か8章(うろ覚え)まで掲載された。その後連載された同じ著者による「いまだ成らず」はすぐに掲載されなくなったのに比べると長目に掲載されていた。ために、本になっても読むのが後回しになってしまったが、文庫になって新章も追加されたので、やっとこさ最後まで読んだ。
連載当時も大変に面白く、当時は今ほどの知名度がなかった著者の出世作となった。
一度読んだ分も含めて、読み出すと止めるのが難しくなるほどなのだが、落合の指導やアドバイスで活躍しはじめた選手の成長と同時に落合のそばで8年を過ごすうちに”末席記者”、”雑感記者”だった著者も大物記者っぽく成長していくのがいい。
冒頭に書いたように、本書において落合を語る選手たちは、落合から好影響を受けた人たちが多く、立浪、谷繁、川上といった主力メンバーでも、落合と対立してたり、既に選手として出来上がっていた人たちは(語り手としては)登場しない。この点が本書の残念なところ。特に(多分落合とはとても仲が悪そうだが、守備型を指向した落合戦術の中心選手だったはずの)谷繁の視点でも語ってもらいたかった。
中継ぎ左投手:小林の章で、わずかに谷繁が登場するが、この場面に落合や谷繁のキャラ?がよく出ていてよかった。(以下、引用)
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落合がベンチを立つのが見えた。
ああ、交代か・・・。小林はそう判断した。おそらく次に一点が勝敗を分ける。右の強打者を迎えた場面での降板は無理もないことのように思えた。
だが、マウンドにやってきた落合は予測とはまったく逆のことを言った。
「勝負だ」
抑揚のないその声を聞いて、小林はあえて右バッターの新井と勝負するのだと理解した。左殺しである自分への指示としては妙な気もしたが、落合が言うのであればそうするしかない。
すると、正捕手の谷繁がマスク越しに小林の目を見て言った。
「お前、わかってるか?新井を敬遠して、金本さん勝負ってことだぞ」
それを聞いて、小林は頭が真っ白になった。
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