蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

嫌われた監督

2025年03月03日 | 本の感想
嫌われた監督(鈴木忠平 文春文庫)

落合博満が中日の監督だったのは2004年〜2011年。監督と関わることによって野球人生が好転した選手(森野、福留、吉見、和田、荒木など)を中心に周囲の人々の視点から落合の姿を描く。

私が週刊文春を読み始めたのは伊集院静の「あの娘のカーネーション」から始まったエッセイ連載を読みたかったからだが、それが終了してからも電子版(閲覧できる記事が制限されているサイト)で読み続けてきた。
電子版では、最後まで読める連載もあれば、全く掲載されないものもあり、途中までしか掲載されないものもある。本書は全12章のうち7章か8章(うろ覚え)まで掲載された。その後連載された同じ著者による「いまだ成らず」はすぐに掲載されなくなったのに比べると長目に掲載されていた。ために、本になっても読むのが後回しになってしまったが、文庫になって新章も追加されたので、やっとこさ最後まで読んだ。

連載当時も大変に面白く、当時は今ほどの知名度がなかった著者の出世作となった。
一度読んだ分も含めて、読み出すと止めるのが難しくなるほどなのだが、落合の指導やアドバイスで活躍しはじめた選手の成長と同時に落合のそばで8年を過ごすうちに”末席記者”、”雑感記者”だった著者も大物記者っぽく成長していくのがいい。

冒頭に書いたように、本書において落合を語る選手たちは、落合から好影響を受けた人たちが多く、立浪、谷繁、川上といった主力メンバーでも、落合と対立してたり、既に選手として出来上がっていた人たちは(語り手としては)登場しない。この点が本書の残念なところ。特に(多分落合とはとても仲が悪そうだが、守備型を指向した落合戦術の中心選手だったはずの)谷繁の視点でも語ってもらいたかった。
中継ぎ左投手:小林の章で、わずかに谷繁が登場するが、この場面に落合や谷繁のキャラ?がよく出ていてよかった。(以下、引用)
***
落合がベンチを立つのが見えた。
ああ、交代か・・・。小林はそう判断した。おそらく次に一点が勝敗を分ける。右の強打者を迎えた場面での降板は無理もないことのように思えた。
だが、マウンドにやってきた落合は予測とはまったく逆のことを言った。
「勝負だ」
抑揚のないその声を聞いて、小林はあえて右バッターの新井と勝負するのだと理解した。左殺しである自分への指示としては妙な気もしたが、落合が言うのであればそうするしかない。
すると、正捕手の谷繁がマスク越しに小林の目を見て言った。
「お前、わかってるか?新井を敬遠して、金本さん勝負ってことだぞ」
それを聞いて、小林は頭が真っ白になった。
***
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資本主義が人類最高の発明である

2025年03月02日 | 本の感想
資本主義が人類最高の発明である(ヨハン・ノルベリ ニュースピックス)

古典的リベラリズムの立場から自由主義、資本主義が全世界的に貧困を減らすことや社会の発展に貢献し、批判の対象となりやすい、独占企業や環境問題、人間関係の問題も実は(貢献に比べれば)悪影響はそれほどでもないと説く。

訳者(山形浩生)による巻末の解説がよくできていて、解説を読むだけで本書の内容が把握できるようになっている。
この訳者は、著者と反対の立場の主張をしているピケティの本の訳者でもあるのだが、一見対立しているような二人も似たような根拠や証拠(例えば所得格差について本書の著者は35%もの人が最貧層から脱出できていて素晴らしいといい、同じような統計を引用してピケティはまだ多くが貧困状態で格差がひどいという)に基づいており、見方が違うだけだ、という解説が秀逸だった。
ただ、そう言われるとせっかく最後まで読んだ読者としては「それ、早く言ってよ〜」という気分にもなるが・・・

本書の第5章(独占企業は悪なのか)の中で、IT関係のサービスなどの流行り廃りがいかにスピーディーなものかを説いていて、GAFAMだってそのうち・・・ということを暗示している。昔なつかしいサービス名(例:マイスペース、AOL等々)を眺めていると、確かに昔はメジャーなサービスという感じだったのに・・・と著者の主張に頷きたくなった・・・さっき聞いたニュースでは、スカイプが間もなくサービス終了するそうだ。一時期、本当によく使ったし、天下取ったかに思えたのだが・・・盛者必衰の理は日本だけじゃあないなあ。
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オットーという男

2025年02月27日 | 映画の感想
オットーという男

ピッツバーグの製鉄所に勤めるオットー・アンダーソン(トム・ハンクス)は定年退職を迎える。几帳面で口うるさい彼は職場や近所でも鼻つまみ者。教師だった妻は少し前に亡くなっており、オットーは自殺しようとするが、近所に引っ越してきたメキシコ人のマリソル(マリアナ・トレビー二)に邪魔されて?果たせなかった・・・という話。

スウェーデン映画の「幸せなひとりぼっち」のリメイク。
「幸せなひとりぼっち」は、見終わったあと「いい映画だったなあ(終わってほしくなかった)」と思える秀作だった。北欧で作られたらしい素朴な味わいが印象に残っている。

そんな作品をトム・ハンクス製作・主演でリメイクということで、期待があまりにも大きかったせいか、うーん、ちょっとどうかな~という感じだったかなあ。舞台がアメリカで演じているのが代表的?アメリカ人であるトム・ハンクスなのだからしょうがないけど、アメリカ映画ってムードになって、素朴とか味わいとかからは離れたところにあったように思う。

「幸せなひとりぼっち」では、偏屈な主人公の(妻以外では)唯一の理解者だった近所の夫婦(夫は認知症?で意思疎通が困難)との交流がとてもよかったのだが、本作ではあまり素敵な感じではなかったのが残念。

トム・ハンクスの青年時代を演じたのはトム・ハンクスの次男(トルーマン・ハンクス)とのこと。うーん、若い時のトム・ハンクスとはイメージがかなり異なるような・・・

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正体(映画)

2025年02月27日 | 映画の感想
正体(映画)

鏑木(横浜流星)は、18歳の時に犯した一家殺人事件で死刑判決を受け収監されていた。急病を装って救急車で運ばれる途中で脱獄し身を潜めていた。建設現場、フリーライター、介護施設を渡り歩くが・・・という話。

脱走場面からエンディングまで、そんなこと現実にはできるわけないわな、と思えるご都合主義の連続なのだが、主役を始めとしてなかなかの熱演で、見てる方を最後まで引っ張ってくれた。

いろいろな場所や職業を経験する鏑木を演じ分ける、というのが、タイトルから察せられる通り、本作の主役の難しさなのだと思うが、どうも横浜流星はカッコよすぎて違いが際立たなかったかなあ、と思えた。

主役のキャラとは反対に、終始しかめっ面を強いられる?捜査一課長:又貫(山田孝之)の苦悩ぶりがなかなかよくて、現実ではありえない記者会見での突然の反乱?がある程度リアルに思えたくらいだった。又貫の上司の刑事部長(松重豊)の官僚ぶりもよかった。

ネットフリックスのメニュー画面のに提示されていたので、見てみたのだが、ついこの間まで映画館でやってたよね・・・そういう時代なんですね。
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死ぬまでに行きたい海

2025年02月25日 | 本の感想
死ぬまでに行きたい海(岸本佐知子 新潮文庫)

近所のコンビニの入口に、探し猫の貼り紙があった。17歳でビビリの子とのこと。うーん、猫飼ったことないからわからないけど、飼い主さんには申し訳ないが、猫は死期を悟ると・・・ってやつじゃないの?って思ってしまった。よく見ると迷子のペット捜索専門会社が作ったもののようで、近くのスーパーなどにも貼ってある。けっこうな費用がかかりそうで、飼い主さんの思いが伝わってきた。

本作の「地表上のどこか一点」は、飼い猫が外出から帰ってこなかった体験を描いたもので、そうなったときの飼い主の切実な思いが強く感じられる。

出不精の著者が連載を依頼されて、行きたかった場所を訪問するという趣旨で始まったらしいが、途中コロナの流行があって外出が難しくなって、本書の後半では幼少期や青年期の思い出をたどる内容になる。その、後半の方が圧倒的にいい。私は著者のエッセイのファンなのだが、前半部分は、正直、期待外れだなあ・・・と思いながら読んでいた。

著者は、人生のいろいろな局面で精神的に追い詰められ絶望の極にまで至っているかのように(本書では)告白している。
でも、本書の内容をたどると、中学受験で(多分難関の)中高一貫校に合格し、大学は四谷のミッションスクールで、大学時代は暗黒中の暗黒だったそうだが、就職先は難関中の最難関である洋酒メーカーの宣伝部。で、今は人気翻訳者兼エッセイスト。
おいおい、絶望ばかりしている割に、あんたの人生キラびやかすぎんじゃね、(ド田舎で育って駅弁大学に行ってずっと黒目の会社で働いてきた者からする)と、言いたくなるところだ。

「地表上の・・・」に次いでよかったのは、”酒合宿”を描いた「三崎」だ。三浦半島の三崎にある保養所に7人くらいで、飲み会だけを目的に集まって宴会をする、みたいな話なのだが、とても素敵だった。7人も友達がいないけど、機会があったらトライしてみたいなあ、と思った。
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しらふで生きる

2025年02月21日 | 本の感想
しらふで生きる(町田康 幻冬舎)

何十年も大酒飲みだった著者が、断酒に至るまでのプロセスとその効果を描いたエッセイ。

本書を読んだのは、やはり大酒飲みの人(IT企業の社長)が酒量を減らそうと思って読んでみたとエッセイに書いていたから。私自身も同じように考えて本書を手にとってみたのだが、その断酒法は、あまり実用的とは言いかねるものかなあ。断酒のノウハウというよりは、人生を穏やかに送っていくためにどのような考え方・心持ちですごせばよいのかを説いているように思えた。

本書をふくめ、多くの酒飲みの人が(エッセイなどに)書いているように、たまに酒を飲まなかった翌朝は明らかに爽やかな心持ちがする。そのときは「よし、今夜も飲むまい」と強く思うのだが、夕方会社から帰る電車の中ではなぜか「今日のツマミは何しようかな〜」となってしまうのだから情けない。まさに中毒症状というやつだろう。
著者も断酒し始めた頃は、四六時中酒のことばかりが浮かんだそうだが、3ヶ月くらいすると少しずつそういう時間が減っていったそうだ。
やっぱり中毒だよなあ。

著者の作品を読むのは初めて。ロック歌手出身らしい?リズムよくかつ叩きつけるように言葉を重ねることで読者をひきつける手法?なのだろうか?
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碇星

2025年02月21日 | 本の感想
碇星(吉村昭 中公文庫)

定年後の空白をどう埋めようかと呻吟する男をテーマにした短編を多く含む。

「飲み友達」は、会社の同僚の間で愛人を引き継いでいく話。と書くとトンデモな内容が想像されてしまうが、割合と自然に受け入れ可能な感じ?でマイルドに話が進む。

「喫煙コーナー」は、スーパーの喫煙所に3人の定年後の男たちが集まり交流する話。と書くと全く面白くなさそうだが、しみじみとした味わいがある。著者の力量であろう。

「寒牡丹」は、定年後、娘が結婚を決めたとたんに妻が出ていってしまう男の話。今でこそ当たり前?なストーリーだが、書かれた頃にはけっこう衝撃的な筋立てだったと思われる。妻が出ていく宣言をしたときの男がやけに落ち着いている?のがいい。

「碇星」は、定年後に勤めていた会社から社内の葬儀関係のコーディネートをする仕事を委嘱された男の話。その男に死後の始末を頼む元役員の老後の趣味は天体観測だった。これも昔風(昔はけっこうな数の家庭に天体望遠鏡があったものだ)なのだが、あらためて考えると、老後の生きがいとしては上質なものに思えてきた。「碇星」とはカシオペア座のこと。


以下の2編は、定年とは関係ない。

「花火」は、著者の体験に基づくものか。結核の手術を施してくれた外科医を思い出す話。
本作の中でもっとも印象深かった。

「牛乳瓶」も体験にもとづくものだろうか。戦前、牛乳店(今ではほぼ見られなくなってしまったが、昔は壜入の牛乳の宅配を多くの家が受けていた)を営む夫妻の話。
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キリエのうた

2025年02月18日 | 映画の感想
キリエのうた(映画)

キリエと名乗ってストリートで歌っていた少女(アイナ・ジ・エンド)は、歌唱以外ではほとんど喋ることができなかった。結婚詐欺師のイッコ(広瀬すず)は彼女を気に入ってプロデューサー役になり、次第に人気がでてくる。イッコはキリエが高校時代の知り合いだと気付く。キリエの本名は路花(ルカ)で、キリエは路花の姉の本名。その姉と交際していたのがイッコの家庭教師をしていた夏彦(松村北斗)だった・・・という話。

キリエ(本名の方)とルカがアイナ・ジ・エンドさんの二役で、時系列も場所もかなり変化するので、なかなか筋がつかめませんでした。
彼女は、岩井監督の好み?のハスキーボイス(「スワロウテイル」のCHARAに似てる)で、カバー曲でも個性満点。本作で発掘されたのかと思ったら、私が知らないだけで既に有名な歌手らしいですね。

結婚詐欺役のシーンで登場する広瀬さんは、派手な色のカツラを付けてトンボメガネをしているのですが、これがとても似合っていて魅力的でした。多分、普通のカッコウをしている彼女は見飽きるほどいろいろなシーンで見ているためでしょう。

最近、やたらと出演作を見ているような気がする松村さんが、アイドルグループの歌手というのも最近知りました(と言ったら家人が「今どきそれを知らない日本人がいたなんて」と驚いていました)が、とてもそうとは思えない、落ち着いた演技ができる俳優さんだと思っています。
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ゴジラVS自衛隊 アニメの戦争論

2025年02月15日 | 本の感想
ゴジラVS自衛隊 アニメの戦争論(小泉悠他 文春新書)

軍事の専門家なのにアニメオタクでもある小泉悠・高橋杉雄らがゴジラやガンダム、エヴァ、宮崎駿作品、佐藤大輔の著作などについて語り合った対談の収録。高橋杉雄さんの肩書は、防衛研究所防衛政策研究所長。そんな人が?と思うくらい、濃いめのキャラ全開でアニメなどの蘊蓄を語る。
対談者は、私より、ちょっと年下の人が多いのだけど、俎上に上っているのは、ゴジラ、ヤマト、ガンダム、エヴァ、宮崎駿作品(アニメは少なくて、自ら作画した作品(「雑草ノート」など)の方の話題が多い)などで、同時代性に共有性は高い。

対談者の一人はドイツ人の方で、ドイツとかではアニメって子ども向けで、いい大人がアニメにハマっているのは滑稽だ、という、昔の日本みたいな考え方がいまだに主流だというのは(言われてみれば当然だが)意外感があった。
本作の中でも言及されているが、ヤマトやガンダムの新作アニメを映画館に見に行くと、観客の平均年齢がかなり高め(エヴァはそうでもないらしい)らしくて、確かに、昔は「いい大人がアニメなんて」という世間があったものだが、今ではオジサン(あるいはオジイサン)がアニメファンであっても大きな違和感はない。というか、本書でも触れられているが、ヤマトやガンダムの新作映画の観衆の多くはオジサン(あるいはオジイサン)のような気がする。でも、いつもまでもそんなムードが続くとは限らなくて、そんな時代に生きることができて幸福だった、というべきかもしれない。

ガンダムやエヴァの初回テレビシリーズ放映、宮崎駿作「雑想ノート」「泥まみれの虎」などのムックやナウシカの原作マンガ、佐藤大輔のシミュレーション小説、などは、若いファンはご存知なものなのだろうか。著者たちや私と同年代のファンも老境に差し掛かりつつあって、私達の年代に共有された幻想を思い出させてくれて、大変に楽しく読めた。
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さくらえび

2025年02月14日 | 本の感想
さくらえび(さくらももこ 新潮文庫)

2000年年代前半ころに出版された「富士山」という雑誌は、さくらももこが、取材、執筆を全部やった企画誌で、4号まで発行されたそうだ。自費出版?と思いきや、出版したのはなんと新潮社なのだがら、当時のまる子ちゃんおよび著者の人気のものすごさがよくわかる。本作はその「富士山」からの選り抜きとのこと。

ひねくれた見方なのだが、天下をとった作家(漫画家)だと、出版社にとってはカネのなる木そのものだから、もうひれ伏すように接しているんだなあ、と感じた。
著者の家は静岡県みたいなのだが、著者が買い物(鯉用の水槽とか)に行くというと、新潮社から担当者がやってきて車で送迎したりしてる。まあネタ作りに協力しているだけかもしれないが、ちょっとやり過ぎでは?と思えた。
売れっ子作家になると、出版社のアゴアシ付でかつ担当者が同伴する取材(という名目の)海外旅行なんて当たり前のようだから、さくらももこクラスになれば、それくらい当然、なのだろう。

本作に何度も登場する「植田さん」はフジテレビのプロデューサーで、あの「ビューティフルライフ」など名作の数々を担当した人らしいので、世が世なら社長候補になってもおかしくないのだが、本作では実名で日頃の悪行(キャバクラ通いとか)や、ちょっとどうかと思う発言があけすけに語られていて、「大丈夫なの?こんなこと書いて」と心配になったが、よく考えてみれば、出版社以上にフジテレビはさくらさんに頭が上がらんわな。

著者は、自分の息子には自分がさくらももこ(=ちびまる子ちゃんの作者)であることを隠していたそう、これまたネタ作りなのかもしれないが、息子もいつかはそれを知る日が来るわけで、その時にショックを受けたりしないのかな、とまたまたいらぬ心配をしてしまった。
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機動戦士Gundam GQuuuuuuX

2025年02月12日 | 映画の感想
機動戦士Gundam GQuuuuuuX

****作品の内容に触れています。見ていない方は読まないでください****


新しいテレビシリーズのダイジェスト版だと聞いて、映画館で見る気はなかったのだが、スタジオカラー&サンライズ制作で、かつ、世評がとても高いので、見に行ってみた。

宇宙世紀0079年サイドセブン、つまり最初のテレビシリーズ(以下、ファースト)と同じ場面から始まる。登場するのも赤いザクと普通のザク2機。この部分はビギニングという新シリーズの前日談という位置づけなのだが、それを知らなかったので、新シリーズの舞台も0079年なのかと思っていた。
実際には、シャア率いるザク部隊がサイドセブンに侵入するところもファーストと同じなのだが、ザクの膝関節の動きは新しくなっていて、これが如何にも、というもっともらしさで感心していたら、ここで早くも本作最大の見せ場とサプライズが訪れる。シャアが横たわるガンダムに乗り込んでガンダムを大地に立ち上がらせるのである!
いやあ、驚いた。
と思っているうちに、シャアはホワイトベースも乗っ取ってしまう。そしてガンダムは赤く塗り替えられ、サイコミュを装備したビットを搭載する。それに乗るシャアは、ルナ2を陥落させられ苦境に陥った連邦の最後のあがきのソロモン落としも阻止したが行方不明になってしまう。
つまり、ビギニングはファーストに対する「高い城の男」=ジオンが1年戦争で勝つまでの経緯を描いている。キャラはすべて安彦デザイン(ドレンとかキシリアとか本当に生き写し?なのであるが、なぜかシャアの仮面はオリジナルとは雰囲気が違うような気がした。わざとだろうか)。メカの方は多少改変されている。前述のザクの関節もその一つだが、ガンダムの顔面が心無しかエヴァ初号機に似ているような・・・というか初号機の顔面がガンダムのオマージュだったんだろうなあ。特にマウスに当たる部分が。

肝心の本体部分は、まあ、可もなく不可もなくというか、プロローグ部分だけなので何ともいえない。サイド6の日常生活描写(地下鉄?が走っていたり、お風呂が20世紀の日本風だったりする)のは庵野風だった。
キャラの絵面がアニメアニメしていてビギニング部分が実写だったかのような錯覚に陥った。シャリア・ブルが主役級のキャラというのは富野さん(というかサンライズ)の罪滅ぼしだろうか。ファーストでシャリア・ブルは重要キャラだったのに、人気不振で1クール削られたためにチョイ役になっていしまった・・・という裏話を聞いたような気がする(うろ覚え)。

ま、とにかくビギニング部分には、毎週ドキドキワクワクさせられたファースト初見の45年前を思い出させてくれた。45年前のドキドキには「今週の作画はマトモだろうか?」(回によって動画の質の差がものすごくあった)というのもあったが・・・
ビギニング部分のシリーズを是非つくってもらいたい。シリーズが無理なら「グラナダを救え!ソロモン落としを阻止せよ」でもいいけど。
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火山のふもとで

2025年02月11日 | 本の感想
火山のふもとで(松家仁之 新潮文庫)

坂西徹は、有名な建築家が主宰する村井設計事務所に就職する。村井事務所は青山にあるが、夏期は軽井沢の「夏の家」に主要スタッフが移って仕事をする習慣になっていた。「夏の家」での1年を描く。

主人公の坂西は、大学を出たばかりでほとんど採用をしない有名事務所に職を得て、すぐに有名建築家の村井に気に入られ、周囲にいる女性には常にモテモテ、設計者としての才能も十分・・・と、まるで若い頃の島耕作みたいな人。周囲の環境も村上春樹の小説みたいにオシャレで洗練されていて、「こんな奴いるわけねえだろ」と言いたくなるところだが、読んでいてあまりイヤミな感じはしない(少なくとも島耕作や村上作品の登場人物よりは)。

若い建築家(坂西)とか軽井沢の風土を描くことが主題なのかと思わせるが、終盤の転機から、別のテーマが浮かび上がってきて、それまでの坂西や村井事務所スタッフ中心の描写や展開もその補助線に過ぎなかったことがわかる。小説の最後に向かって感動が盛り上がっていく構成がとても効果的に思えた。
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スカウト目線の現代サッカー事情

2025年02月11日 | 本の感想
スカウト目線の現代サッカー事情(田丸雄己 光文社新書)

著者は、日本の高校卒業後、Jリークのクラブで働いた後、イギリスの大学でフットボールの分析学?を学び、SNSなどを通じて就職活動?をしてイギリス2部リーグのチームのスカウトになった。フットボール選手としての実績はなく、自力で異国のチームのスカウトにまでなったのはたくましい。今どきの日本の若者?とは思えない。
内容は整理されていて読みやすいので、行動力のみならずアタマもいい人なのかもしれない。
本の中では競技名をずっとフットボールと記しているのに、タイトルだけ「サッカー」になっているのが、なんというか、主張が感じられて?微笑ましい。

イギリスのフットボールリーグはプレミアを筆頭に8部まであって、5部くらいまでがプロの領域らしい。グラウンドは国中そこらかしこにあり、下部リーグでもそれなりにサポーターや観客があり、それぞれに育成機関(アカデミー)もあるという。

育成機関はU8からあり、U14の段階で、世代最高クラスは早くもクラブと19歳までの契約を結ぶという(プロになって報酬をもらうのは19歳から。ただ、その前にもいろいろ余録(用具店の商品券とか)はあるらしい)から、才能をもれなく見出すネットワークも万全だ。

そして、無給のボランティアを含めるとスカウトも無数といえるほどいるらしい。
まさにフットボールネイションと呼ぶにふさわしいかも。
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死の貝

2025年02月05日 | 本の感想
死の貝(小林照幸 新潮文庫)

山梨、岡山、福岡の一部地域には昔からその地域だけに見られる奇妙な病気があった。子供が罹患すると成長がとまってしまい、病状が進むと腹水がたまり、動くこともできなくなって市に至ることもある、というものだった。明治時代中期から西洋医学を学んだ医者たちが原因をさぐり、寄生虫によるものと見当をつけるが感染経路がなかなか判明せず・・・という内容のノンフィクション。初出は1999年。2024年に新潮文庫にはいった。

原因となる日本住血吸虫は、ミヤイリ貝(発見者の苗字から命名)を中間宿主として、水田などの流れが少ない水たまりから人間の足などにとりついて経皮感染する。
当初は飲料水から経口感染するという説が有力で、飲用の前に煮沸を徹底させたが効果なく、研究者たちの牛などをつかった対照実験で経皮感染すること判明する。
このプロセスにおいてある研究者は自ら実験台になって水田にはいったりする。この例が典型だが、研究に参加した医師たちは「なぜ、そこまでする?」と傍目には思えるほど熱心に原因追求と対策に取り組む。叙述は淡々としていて事実を並べているように見えて、その情熱が本からひしひしと伝わってきて、よくできたミステリのように、どんどん先が読みたくなる。
初出から25年近く経過した本を見出して、文庫に入れた編集者および出版社がすごいなあ、と思えた。

明治・大正期の話かと思っていたら、この病気の(日本での)終結が宣言されたのは、平成8年で、まだほんのちょっと前。ところが、中間宿主(であるが故に各地で絶滅をめざした)のミヤイリ貝は、今ではなんと絶滅危惧種とされているそうである。なぜ、ミヤイリ貝が山梨などのごく一部の地域にしか繁殖できなかったのは今でも解明されていない、というのも不思議な話だ。
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エブリシング・エブリウエア・オール・アット・ワンス

2025年02月04日 | 映画の感想
エブリシング・エブリウエア・オール・アット・ワンス

アジア系移民2世?のエヴリン(ミシェル・ヨー)はアメリカでコインランドリーを営む。頑固な父と気弱な夫と反抗的でレズビアンの娘に挟まれて日夜悪戦苦闘。IRSで女性の担当官にツメられたのを契機?に多元宇宙に生きて悪の首領?ジョブ・トゥパキ(見た目は自分の娘)と戦う立場に覚醒?する・・・という話(なのか?)

「考えるな、感じろ」という感じの映画。
なのだが、わけがわからなくなる前あたりまでの話(エブリンがコインランドリー経営に孤軍奮闘し、頼りにならない父と夫を引き連れてIRSの役人と対峙するあたりまで)をそのまま続けていっても面白い映画になりそうだった。

数え切れないほどのマルチバース世界と、そこにそれぞれ異なったコスチュームでエヴリンが登場するので、撮影順序やスケジュールの調整や編集がとても大変そう。それを破綻なく??まとめたあたりがコンペでは評価されたのかも??

夫役のキー・ホイ・クァンは、ココリコ田中に見た目や雰囲気がとてもよく似ていた。なんと同い年らしい。
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