館林ロストシティーランブラーズ・フォークソングシングアウト

フォークを歌って43年の坂を今登坂中。世間に一言あってこそフォーク。軟弱アコースティックミュージックにシングアウトだ!

「夕焼け」妄想編。

2006-09-24 07:40:38 | 生活雑感
暫らく前になる。
台風の近づく関東では、「夕焼け」が空を飾った。
この時多くのブログを、夕焼け写真が飾った。
会社帰り、美しい夕焼けを僕も撮った。

娘&妻・「ねえ、綺麗な夕焼けだったよ」「見た?」
僕・「これだろう?」
得意そうに、写真のリプレーを見せたのだ。





夕焼けはいつも、吉野 弘氏の詩を思い出す。

このような、「やさしい心の持ち主」だった、あの子を思い出す。
どうしているだろう?

これは、あなたの、詩、だなあ・・・・


夕焼け

いつものことだが

電車は満員だった。

そして

いつものことだが

若者と娘が腰をおろし

としよりが立っていた。

うつむいていた娘が立って

としよりに席をゆずった。

そそくさととしよりが坐った。

礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。

娘は坐った。

別のとしよりが娘の前に

横あいから押されてきた。

娘はうつむいた。

しかし

又立って

席を

そのとしよりにゆずった。

としよりは次の駅で礼を言って降りた。

娘は坐った。

二度あることは と言う通り

別のとしよりが娘の前に

押し出された。

可哀想に。

娘はうつむいて

そして今度は席を立たなかった。

次の駅も

次の駅も

下唇をギュッと噛んで

身体をこわばらせて---。

僕は電車を降りた。

固くなってうつむいて

娘はどこまで行ったろう。

やさしい心の持主は

いつでもどこでも

われにもあらず受難者となる。

何故って

やさしい心の持主は

他人のつらさを自分のつらさのように

感じるから。

やさしい心に責められながら

娘はどこまでゆけるだろう。

下唇を噛んで

つらい気持ちで

美しい夕焼けも見ないで。


 

 

吉野 弘
詩集<幻・方法>所収

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする