殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

鳥じい

2017年09月19日 19時52分16秒 | みりこんぐらし
しばらく前から、私たち家族は夫をこう呼ぶ。

「鳥じい」。

夫は元々、人たらしの術に長けている。

彼に会うため、本社や支社の人が引きもきらないが

この頃は鳥まで手なづけているのだ。


いつも仕事をしていると

「グェ〜」とか「ガ〜」という、いくぶん押さえた鳴き声がする。

ガサガサと羽の音が近づいてきて

気がついたら事務所は鳥にトリ囲まれている。


鳥は身分差がはっきりしているようで

まず一番体の大きいトンビの夫婦がひと組、舞い降りて

夫のお出ましを待つ。

彼らはデカいので、バッサバッサと翼の音がすごい。


夫はいそいそと駐車場に出て

大きめにカットしたトンビ仕様のパンを投げてやる。

この食パンは、夫の友人が営むパン屋の売れ残り。

それで足りない時は、買ってまで与える。


トンビの夫婦が満足して飛び去ると、カモメの番だ。

10羽ぐらいが飛んで来て

「ギャ〜」

と挨拶。

夫は中くらいにカットしたカモメ仕様のパンを投げてやる。


カモメが去ると、すかさずカラスが登場。

この頃になると、がぜん数が多くなる。

事務所の屋根や駐車場は、さながらヒッチコック劇場。

夫は小さくカットしたカラス仕様のパンを投げてやる。


カラスは人間関係‥いやカラス関係が色々あるらしく

ホラーな黒い大群が満足して飛び去った後

残っていた何羽かが、おこぼれにありつく。

居残りのカラスは何となく痩せており、羽も乱れている時がある。

世渡りが下手そうな彼らのために、夫は残しておいたパンを与える。


痩せガラスがちらほら残ってパンをつついていると

待ってましたとばかりにスズメの大群が現れ

駐車場は茶色になる。

スズメは、痩せガラスが安全と知っているのか

それともバカにしているのかは不明。

夫は極小にカットしたスズメ仕様のパンをばらまく。


夫は暇を見つけては、ハサミでせっせとパンを切っている。

鳥の口に合わせて大、中、小、極小の四種類を用意し

パンの大きさごとに入れ物を変える念の入れよう。

「食パンばっかりじゃあ栄養が偏る」

と心配して野菜を買い込んでいたが、鳥には不評だったらしく

再びパン切りの内職に燃えるのであった。


一度、私のハサミを使っているところを目撃したので

文句を言ったら、パン切り専用に新しいハサミを買っていた。

高級なハサミでないと、うまく切れないらしい。


「生態系が乱れるんじゃないのっ?」

「野生だから自立が必要なんじゃないのっ?」

鳥に厳しい私は、しばらくの間ガミガミ言っていた。

なぜなら会社の車や通勤車に大小のフンをするからだ。


「父さんがかわいそうだから言わないけど、実は掃除が大変」

息子たちがぼやいていたので

それもそうだと思い、夫への小言を続けた。

「あんたらもタダメシにたかるばっかりじゃなくて、芸でもしたらっ?」

鳥にも厳しく言う。

シモべに毎日パンを貢がれて

こやつら、だんだん太ってきたような気がする。

「舌切り雀のおばあさんみたいじゃ‥」

夫はつぶやく。


が、じきに鳥どもは、ある特殊技能を身に付けた。

会社でフンをしなくなったのだ。

「鳥はわかってくれる」

夫はご満悦である。


「そんなはずはない!」

私は大いにいぶかしみ、観察を始めたところ

謎はほどなく解明。

夫はなにげに駐車場から離れた場所でパンを与えていた。

だからフン害が無くなったのだ。

「鳥が礼儀を身につけた!」

鼻高々に自慢する夫だが、私はトリックだと思う。
コメント (4)
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