殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

二代目の事情

2015年05月21日 20時19分13秒 | みりこんぐらし
いつでもおしっこが漏れてしまう、尿漏れのおチヨ

どこでも太ももをあらわにインスリン注射を打つ、インスリンのおタツ

睡眠薬を飲み過ぎて、しょっちゅう病院に担ぎ込まれるバランスのおシマ

嫁との確執に晩節をけがす、骨肉のおトミ

そして1日の大半をトイレ通いに費やす我が姑、かわやのおヨシ

以上のメンバーで構成される年寄りの友達…

人よんでヨリトモ軍団は、ただいま活動休止中。

昨年末、メンバーの送迎を受け持っていたおタツが足を骨折し

軍団が移動の足を失ったからである。


おタツの回復を待っているうちに、かわやのおヨシの旦那…

つまりうちの義父アツシが他界し

今度は骨肉のおトミの旦那が病いに倒れた。

おトミが病院に詰めているため、軍団の活動再開はまだ先になりそうだ。


平均年齢81才のメンバーに、「いずれ」「いつか」は望み薄のような気がする。

月に1、2度行われていた軍団の集まりが無くなり

一番残念がっているのは私かもしれない。

ヨシコの外出が減る…それは嫁の私にとって、ゆゆしき問題である。

亭主元気で留守がいいとはよく言うけど

姑は元気じゃなくていいから、とにかく留守がいい。

軍団の復活を衷心より祈る私である。



さて先日のこと、夫はある会合に出席した。

そこでたまたま同席したおトミの息子に、相談を持ちかけられる。


おトミの息子、マサヒロ君は夫の同級生だ。

自営業者の二代目であり、会社の規模や父親のワンマン体質

昔の栄華は今いずこ状態、その渦中で当の父親は死にかけており

あとのいっさいがっさいは長男の自分に押し寄せる予定など

夫と彼には共通点が多々ある。

夫の方は母親と姉、彼の方は母親と妹の組み合わせだが

一卵性母子がゴタゴタの種をまくのも同じだ。


しかし当人同士は正反対。

頭脳明晰で弁の立つ、真面目な坊ちゃんタイプの彼は

放蕩者の夫を軽蔑しており、昔から仲が良くなかった。


「負債が7億あるんだ。

オヤジが死ぬまでにやっておくことを教えてくれないか…」

父親の後始末を終えたばかりの夫は、この質問の回答に適任ではあるが

反目する自分に話すのは、よっぽどのことだと感じたそうだ。


ともあれこの状況で、おトミはハイミスの娘に家をプレゼントした。

家計が厳しくなって働きに出ていたお嫁さんは

それ以来、同じ家に住みながら口をきいてくれなくなった。

おトミの骨肉は、自分で作ったものと言える。


骨肉のおトミは、そもそも生まれた時から骨肉であった。

造り酒屋のお妾さんから生まれたおトミは、祖母に育てられ

年頃になると本宅の意向で、この町のワケあり男の元へ片付けられた。

おトミが嫁ぐずっと前から、相手の男には内妻がいたという骨肉ぶりだ。

本宅の奥座敷から、正妻の高笑いが聞こえてきそうではないか。


数年前にその女の人が亡くなるまで、三角関係は続いた。

毎月渡していたお手当がいらなくなったので

娘の家のローンを組んだというのが真相らしい。

この短絡によって、嫁と骨肉の間柄になったのは自然な経緯といえよう。



さて、おトミの息子マサヒロ君から

ヤバい会社の二代目として心得をたずねられた夫は

自身の体験を細かく話した。

「いずれにしても司法書士は必要になるだろうから

遠くの司法書士をいつでも紹介する」

そう付け加えたと聞き、私は大いに拍手した。


遠くの司法書士…これ、重要ポイント。

この町に司法書士は1人しかいない。

それがいい人で、守秘義務があるとはいえ

同じライオンズクラブでキャッキャやってた仲間に実情を知られるのは

死ぬほど恥ずかしいものだからだ。


勇気が出るのを待っているうちに親父さんが亡くなったら

打つ手があっても打てなくなる。

ことによっては弁護士が必要になるかもしれないので

夫はやはり遠くの人を紹介する約束をした。

負債がいくらあろうと、それは金との戦いではない。

プライドで築き上げた幻をいかに早く、どこまで崩せるかの戦いであることを

父親の一件で思い知った夫であった。



「板倉の所も、えらいことになっている」

その時、おトミの息子は言ったという。

アツシの四十九日の日に亡くなった隣の隣のおじさんの息子、板倉君も

夫と同級生なのだ。

自営業者の二代目であり、会社の規模や父親のワンマン体質

昔の栄華は今いずこ状態など、やはり共通点があるが

おトミの息子と同じく、夫とは一線を引いている人だ。


我々が夫の実家で寝起きするようになった3年前は

板倉君の奥さんをよく見かけた。

毎週末、義父母の家にやって来ては

足の弱った姑の手を取り、優しく語りかけながら散歩をさせていた。

近所では嫁の鏡とうたわれ、ヨシコはしきりに羨ましがっていたが

私の目にはいかにも芝居がかって見えた。

「続きゃせんわい」と冷ややかに言っては

ヨシコのひんしゅくを買っていたものだ。


ぷっつり姿を見なくなったのは一昨年の秋。

おじさんの通夜葬儀に板倉君の奥さんがいなかったことは

近所でも話題になっていたが、その頃離婚したらしい。

原因はやはり金だという。


「自分だけが大変だと思っていたけど、よそも大変だったんだな」

夫がしみじみと言う。

「うちは本社に拾ってもらって、本当にラッキーだった。

同じ二代目でも、あいつらの方がずっと頭いいのに…

人生、頭じゃなくて運の違いなんだな」

私が心の中で「女房の違いだよ」とつぶやいたことは秘密だ。
コメント (8)
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