殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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デンジャラ・ストリート 激闘篇その2

2015年07月23日 17時59分11秒 | みりこんぐらし
時間外にゴミを出す板倉君に、カラス除けの黄色い網を与え

さらにゴミの分別を教えたデンジャラ・ストリートの住民達。

これでもう大丈夫…誰もが思った。


しかし、やはり甘かった。

彼は分別を意識するあまり、網のかけ方がおざなりであった。

大きく開いた隙間より、カラスさんご入場。


「もう我慢できん!」

住民の一人、Aさんは家から一眼レフのデジカメを持って来た。

胃癌手術の後、年に数回は腸閉塞で入院するのが恒例のAさん。

ミイラのように痩せてはいるが、元気な時は

界隈一のデジタルおやじを自負する81才である。


Aさんは角度を変えて、現場写真を何枚も撮った。

散乱したゴミの中に、板倉君あてのダイレクトメールを発見すると

ガバッと地面にうつ伏せになり、証拠品としてアップで撮影。

警察の鑑識気取りだ。

「うちのパソコンで(ここ、強調)現像して、本人に見せる」

と息巻いている。


自分で板倉君の所へ行くのだと思っていたら

翌日、Aさんは写真を持ってうちへ来た。

奥さんや、数人の住民も一緒だ。

「組長さんにお願いしたい」ということであった。

怒りに任せて撮影したものの、一夜明けたら落ち着いたらしい。


「これで板倉の息子にガツンと言ってやって」

Aさんに写真を渡され、当惑するヨシコ。

奥さんも、旦那が興奮して体調を崩したら大変なので

組長に何とかしてもらいたいそうだ。


そう、我が家は今年の4月から組長である。

選ばれたわけではない。

順番が回って来ただけだ。

我々夫婦はここに住民票を置いていないので

一応義母ヨシコの名前になっている。

組長として、飲み食いやレジャーなど楽しい行事はヨシコ担当。

面倒なことや労働は我々の担当だ。


住民達は口々に言う。

「どうして簡単なことができないんだろう」

「人の迷惑が気にならないのかしら」

「一回きつく言わないとわからないんだ」


私はこれまで、幾度となくゴミの後始末に参加してきたが

あれこれ言うのはシルバー世代に任せて沈黙を守っていた。

しかし今、Aさんのパソコン自慢に誘発され

住民の間に残酷な結束が生まれようとしている。

それでいっときは胸がすいても

後でクヨクヨ後悔するのは他でもない、彼らだ。

今こそ真実を告げる時である。


「彼は、うちの夫のヒロシと同級生でしてね。

あの年回りの男は詰めが甘いのです。

悪気はありませんが、複数の動作をやり遂げるのが苦手です。

ゴミを出すのと、網をかぶせるの…

この2つの行為を一度にやらせた場合

3つ目の“きっちり”や、“ちゃんと”が難しくなります」


一同は、なるほど…とうなづくのだった。

この納得ぶりからすると、彼らの脳裏には一様に

我が夫ヒロシの姿が浮かんでいたと思われる。


一方の私は、ドラえもんを与えらなかったのび太くんが

そのままおじさんになったような

板倉君の風貌を思い浮かべるのだった。

納豆のパックやコンビニ弁当の残りを中心に構成される彼のゴミに

時折、タケノコや破竹(ハチク)の皮があり

これを一人でむしって煮炊きしていると思うと

何やら胸に迫るものがあった。

証拠写真なんて稚拙な手口で、傷つける者と傷つく者を作ったら

ここはデンジャラ・ストリートではなく、封建ストリートになってしまう。


「少しずつゆっくり教えれば

飲み込みは遅いけど必ずマスターすると思うので

うちの義母にひと肌脱いでもらいましょう。

写真はその次ということで」


「ええっ?!私が?!」

驚愕するヨシコを放置して、私は続ける。

「板倉君を小学生の頃から知っているし

うちのヨシコさん、人にものを教えるのがうまいんですよ」


本当はみんなも強硬手段に出たくないらしく

顔を見合わせてホッとした様子である。

「じゃあヨシコさん、お願いします」

住民達は笑顔で帰って行った。


《続く》
コメント (2)
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