野口先生の西巣鴨の庭は、飛び石の間にびっしりとクラマゴケが繁茂していた。見事な成長ぶりで、表面を手で触ったり、軽く押してみると、地面から5~6センチくらいの厚みがあって、その弾力は植物とは思えない力強さを感じさせてくれた。若草色に近い緑から、しっくりと深緑まで、色の濃淡が微妙に違って脇役を超えた存在感をみせていた。
クラマゴケは「鞍馬苔」と書き、苔とはいえ、岩檜葉科の多年性常緑シダ植物なのだ。山林の陰地に生える。茎はとても長く叉状に伸びていく。地を這い、岩を登り、三十センチにも及ぶ。葉は鱗片状で、長楕円形のものは左右に並び、別に極めて小さい葉が茎の上面を二列に覆っている。そのためにふかふかした弾力が独特の触感を生み出している。主に作庭の際には、石や岩の周りに植えて緑を添えることで庭が自然な落ち着きを醸し出す。
生前、先生のお宅から一握りの鞍馬苔をいただいてきた。薄い鉢に植えておくと短い時間で鉢一杯に殖えていく。六年前には一抱えもある大きな鉢に一杯になって、自宅の改築に当たって植物を預かってくれた松庵から、サジさんが車で我が家まで届けてくださった。道々、助手席においた鞍馬苔の鉢のなかでは、胞子が飛びはねて音まで聞こえた、と話しておられた。
ところが数年前に猫が殆ど食べ尽くしてしまった。そこで残った鞍馬苔を大事に育て直し、とりわけ今年は北側の塀の脇に、幅40センチ、長さ138センチほどの空間をブロックで囲って、その土の上に鞍馬苔を少しずつ移植した。一日中太陽の光が射すわけではなく、山地の陰地とまではいかないが、湿っぽい空間で育てる事にしたのは6月頃の事だった。
そして8月も無事に育って、全体の三分の二くらいの地面にふかふかとした株がいくつかのまとまりをみせている。
最近では野良猫や飼い猫があまり入り込まなくなった。このまま順調に育ってくれたらいい、と祈っている。
びっしりになりそうだったら、一部を鉢植えにしたい。
飛び石を置ける庭があれば、所々に植えて繁茂させるといいのだけれど、残念至極。
「雨が降っても、小雨だったら水やりはするんだよ」
実際に野口先生は、水やりを事欠かなかった。
濡れた石と鞍馬苔は、その周りにおかれて幾種類もの植物と調和し、とりわけ岩檜葉との相性は素晴らしくよかった西巣鴨の野口庭はすでにない。サジさんが撮影した写真で忍ぶことができるのだが。
さて、今月は彼岸月である。そろそろ月も秋色に染まり始める頃。
大震災、大津波、原発事故から半年を迎え、鬼籍に入った方々を忍び、災害で命を落とされた方々の冥福をしずかに祈りたいと思っている。
鞍馬苔から先生の庭を想いつつ。
クラマゴケは「鞍馬苔」と書き、苔とはいえ、岩檜葉科の多年性常緑シダ植物なのだ。山林の陰地に生える。茎はとても長く叉状に伸びていく。地を這い、岩を登り、三十センチにも及ぶ。葉は鱗片状で、長楕円形のものは左右に並び、別に極めて小さい葉が茎の上面を二列に覆っている。そのためにふかふかした弾力が独特の触感を生み出している。主に作庭の際には、石や岩の周りに植えて緑を添えることで庭が自然な落ち着きを醸し出す。
生前、先生のお宅から一握りの鞍馬苔をいただいてきた。薄い鉢に植えておくと短い時間で鉢一杯に殖えていく。六年前には一抱えもある大きな鉢に一杯になって、自宅の改築に当たって植物を預かってくれた松庵から、サジさんが車で我が家まで届けてくださった。道々、助手席においた鞍馬苔の鉢のなかでは、胞子が飛びはねて音まで聞こえた、と話しておられた。
ところが数年前に猫が殆ど食べ尽くしてしまった。そこで残った鞍馬苔を大事に育て直し、とりわけ今年は北側の塀の脇に、幅40センチ、長さ138センチほどの空間をブロックで囲って、その土の上に鞍馬苔を少しずつ移植した。一日中太陽の光が射すわけではなく、山地の陰地とまではいかないが、湿っぽい空間で育てる事にしたのは6月頃の事だった。
そして8月も無事に育って、全体の三分の二くらいの地面にふかふかとした株がいくつかのまとまりをみせている。
最近では野良猫や飼い猫があまり入り込まなくなった。このまま順調に育ってくれたらいい、と祈っている。
びっしりになりそうだったら、一部を鉢植えにしたい。
飛び石を置ける庭があれば、所々に植えて繁茂させるといいのだけれど、残念至極。
「雨が降っても、小雨だったら水やりはするんだよ」
実際に野口先生は、水やりを事欠かなかった。
濡れた石と鞍馬苔は、その周りにおかれて幾種類もの植物と調和し、とりわけ岩檜葉との相性は素晴らしくよかった西巣鴨の野口庭はすでにない。サジさんが撮影した写真で忍ぶことができるのだが。
さて、今月は彼岸月である。そろそろ月も秋色に染まり始める頃。
大震災、大津波、原発事故から半年を迎え、鬼籍に入った方々を忍び、災害で命を落とされた方々の冥福をしずかに祈りたいと思っている。
鞍馬苔から先生の庭を想いつつ。