久しぶりに母の施設に出かけていった。
「今日は、私を認識してくれるだろうか」と、僅かながらの不安を抱きながら歩いて行く。
建物に近づくころ
「さぁ、帰りましょう」
母のこの言葉を振り切って、帰ってくるときの何とも言いようのない心のつまり感を思い出す。
自宅から徒歩10数分で、母が居るユニットのリビングに到着する。
車椅子に座って、うとうとしている母の肩を軽く叩いて、声をかけた。
「来てくれたの」
とは言葉に出さない。
それでも僅かに心が動いている様子だ。
目の動きから、娘であることの認識は持てるようだ、と安心する。
穏やかな表情を見せてくれた。
そのことに安堵しながら話しをしようと思ったが、いつものことながら、何から話してよいのか、話題には困る。
つけられているテレビの音を耳に、画面に目をやるとトランプ大統領が韓国に向かったニュースが流れていた。
そこで日曜日の新宿周辺の警戒警備について話しはじめた。
「東京は厳戒令だったのよ。防弾チョキをつけた警察官がたくさんいてね。で、街を歩くとき、私も防弾チョッキを着たかったわ。流れ弾にあたりたくないしー」
目をまるくしたあと、眉間に皺をよせて聞いてくれた。
そのあとは、野口先生のお宅の増改築の経緯。
庭の再生にあたって、我が家で先生の鉢植え植物をあずかって枯らすことなく戻せたこと。
亡くなったときには、いちばん美しい庭になっていたこと。
彼女の記憶は殆ど朧げだったが、なんとなく受け答えをしてくれた。
いつものことながら話の筋は途中から消えていく。
それでもいちばん印象に残ったことだけを、何度も繰り返し質問してくるのだ。
「先生の家はどうなったの?」
隣家の方が買ってくれて、双方ともによい解決だったことを何度も説明した。
「家であずかっているものは、どうするの?」
それが問題だ、ということも彼女なりに理解しているようだ。
そこまでくると無理矢理に話題を変えた。
「この写真を見て」
佐治さんからメール添付されていた、11月3日の「早蕨塾」のスナップを見せた。
「野口体操の会」で塾をひらいたことや、楽しく勉強になったこと等々、かいつまんで語った。
すると母が何か言いたげに私の顔をのぞいた。
ちょっとだけ時を待った。
「で、……採算はあったの?」
思わず椅子から落ちそうになった。
「ぁ〜、あのー、なんとか大丈夫よ」
驚きましたね。
まさかこんな質問を受けるとは思ってもいなかったから。
母との会話は、常にどんな話にも脈絡はつかず、単発的に鋭い言葉を返してくる母だが、この時に投げられた現実的で常識的な質問には、たじたじとなってしまった。
たしかに、会を運営していくには、その問題を、まず考えますね!
どこが認知症なのかわからない。
「このまま一緒に自宅に連れて帰りたい」
思いを振り切って、施設を後にした。
コートもマフラーもいらないあたたかな立冬の昼時だった。
「今日は、私を認識してくれるだろうか」と、僅かながらの不安を抱きながら歩いて行く。
建物に近づくころ
「さぁ、帰りましょう」
母のこの言葉を振り切って、帰ってくるときの何とも言いようのない心のつまり感を思い出す。
自宅から徒歩10数分で、母が居るユニットのリビングに到着する。
車椅子に座って、うとうとしている母の肩を軽く叩いて、声をかけた。
「来てくれたの」
とは言葉に出さない。
それでも僅かに心が動いている様子だ。
目の動きから、娘であることの認識は持てるようだ、と安心する。
穏やかな表情を見せてくれた。
そのことに安堵しながら話しをしようと思ったが、いつものことながら、何から話してよいのか、話題には困る。
つけられているテレビの音を耳に、画面に目をやるとトランプ大統領が韓国に向かったニュースが流れていた。
そこで日曜日の新宿周辺の警戒警備について話しはじめた。
「東京は厳戒令だったのよ。防弾チョキをつけた警察官がたくさんいてね。で、街を歩くとき、私も防弾チョッキを着たかったわ。流れ弾にあたりたくないしー」
目をまるくしたあと、眉間に皺をよせて聞いてくれた。
そのあとは、野口先生のお宅の増改築の経緯。
庭の再生にあたって、我が家で先生の鉢植え植物をあずかって枯らすことなく戻せたこと。
亡くなったときには、いちばん美しい庭になっていたこと。
彼女の記憶は殆ど朧げだったが、なんとなく受け答えをしてくれた。
いつものことながら話の筋は途中から消えていく。
それでもいちばん印象に残ったことだけを、何度も繰り返し質問してくるのだ。
「先生の家はどうなったの?」
隣家の方が買ってくれて、双方ともによい解決だったことを何度も説明した。
「家であずかっているものは、どうするの?」
それが問題だ、ということも彼女なりに理解しているようだ。
そこまでくると無理矢理に話題を変えた。
「この写真を見て」
佐治さんからメール添付されていた、11月3日の「早蕨塾」のスナップを見せた。
「野口体操の会」で塾をひらいたことや、楽しく勉強になったこと等々、かいつまんで語った。
すると母が何か言いたげに私の顔をのぞいた。
ちょっとだけ時を待った。
「で、……採算はあったの?」
思わず椅子から落ちそうになった。
「ぁ〜、あのー、なんとか大丈夫よ」
驚きましたね。
まさかこんな質問を受けるとは思ってもいなかったから。
母との会話は、常にどんな話にも脈絡はつかず、単発的に鋭い言葉を返してくる母だが、この時に投げられた現実的で常識的な質問には、たじたじとなってしまった。
たしかに、会を運営していくには、その問題を、まず考えますね!
どこが認知症なのかわからない。
「このまま一緒に自宅に連れて帰りたい」
思いを振り切って、施設を後にした。
コートもマフラーもいらないあたたかな立冬の昼時だった。
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