夏と秋が交差点にさしかかっている昨日。
駿河台下に私は立った。
右手に三省堂書店が見える。横断歩道を少し進んだ時、左手奥に“すずらん通り”の象徴、すずらんの花がデザインされた標識が半分かくれた状態で見えてきた。
お昼時の神保町。
私は、雑誌の取材を受けるために、お茶ノ水駅を下車して明大の駿河台校舎を通り過ぎて、交差点へと向かった。
一歩、その通りにさしかかると、本の匂いが鼻に届く。
「あぁ~、懐かしい」
野口先生がご存命の頃、ここにはしばしばやってきて、本を物色していた。
待ち合わせの時間には、まだ、少しの余裕がある。
美術書や演劇・映画を主にした古書店に誘われてしまった。
ついつい古本は、Amazonで探す習慣がついてしまったことを、後悔する気持ちが去来するなか、棚の本を食入るように見ていた。
いつの間にか時間を忘れている。
いや、こんな時の過ごし方をするのは、何年ぶりだろう。久しく味わっていない心地よさだ。
東京堂書店にも立ち寄って、新刊本も手に取ってみる。
古書には古書の、新本には新本の匂いがある。ふと目を閉じて、匂いにからだを任せている。
「時を忘れるって、いいなぁ~」
店内に時計は見当たらない。
「行かなければ」
人でごった返している狭い道を渡って、富山房ビルの前に立った。
お目当ての喫茶店は地下らしい。
大きくカーブした幅広の階段を降りたところに富山房サロンFolio、その店はあった。
扉を開けると、そこは一昔前の書斎を思わせる雰囲気が漂っている。
正面奥には、夜になるとバーに変身するのだろうか、と思しきグラスがなんとなく見える。
その瞬間に時間が遡った。出がけ前に自宅で見ていた谷原章介「男の食彩」“カクテル”のシーンに引き戻された。
大小さまざま高さもまちまちの洋酒の瓶がずらっと並んでいるのが映し出された。
カウンターの向こうには初老の品格漂うバーテンダーが立っていて、客を迎える。
マティーニの作り方の説明を聞いていると、唸るしかない。すごいなぁ~!
「お酒が飲めたら、こんなステキな楽しみがあるんだわ。まッ、男の世界かも……ネ」
組み合わせるお酒のなかに微妙な甘みを出し、微妙な香りを加えてつくられる絶妙なカクテルの味は、最上の贅沢に違いないなぁ~。
「あの瓶をみてごらん」
一緒に見ていた母が、洋酒の瓶に目を凝らしていた。
喫茶店の入り口に立ったまま、画面に映し出されたバーの映像が、一瞬間だけだが浮かんできた。
目を右手にずらすと、すでに編集長とライターさんらしい二人が、すぐにそれと分る場所を確保して、私の到来を待っていてくれた。
本の街、神保町ならではの店の一隅に挨拶をすませ腰をおろした。
雑談から本題に入りかかった頃合いに、佐治さんが到着した。
それから本格的に、投げかけられる質問に答えていく。
気がつくと、野口先生の思い出を熱く語っていた。
こうして生誕百年のメモリアルイヤーに、自然な成り行きに身を任せるのも悪くない、と思いつつ話は佳境に入っていった。
駿河台下に私は立った。
右手に三省堂書店が見える。横断歩道を少し進んだ時、左手奥に“すずらん通り”の象徴、すずらんの花がデザインされた標識が半分かくれた状態で見えてきた。
お昼時の神保町。
私は、雑誌の取材を受けるために、お茶ノ水駅を下車して明大の駿河台校舎を通り過ぎて、交差点へと向かった。
一歩、その通りにさしかかると、本の匂いが鼻に届く。
「あぁ~、懐かしい」
野口先生がご存命の頃、ここにはしばしばやってきて、本を物色していた。
待ち合わせの時間には、まだ、少しの余裕がある。
美術書や演劇・映画を主にした古書店に誘われてしまった。
ついつい古本は、Amazonで探す習慣がついてしまったことを、後悔する気持ちが去来するなか、棚の本を食入るように見ていた。
いつの間にか時間を忘れている。
いや、こんな時の過ごし方をするのは、何年ぶりだろう。久しく味わっていない心地よさだ。
東京堂書店にも立ち寄って、新刊本も手に取ってみる。
古書には古書の、新本には新本の匂いがある。ふと目を閉じて、匂いにからだを任せている。
「時を忘れるって、いいなぁ~」
店内に時計は見当たらない。
「行かなければ」
人でごった返している狭い道を渡って、富山房ビルの前に立った。
お目当ての喫茶店は地下らしい。
大きくカーブした幅広の階段を降りたところに富山房サロンFolio、その店はあった。
扉を開けると、そこは一昔前の書斎を思わせる雰囲気が漂っている。
正面奥には、夜になるとバーに変身するのだろうか、と思しきグラスがなんとなく見える。
その瞬間に時間が遡った。出がけ前に自宅で見ていた谷原章介「男の食彩」“カクテル”のシーンに引き戻された。
大小さまざま高さもまちまちの洋酒の瓶がずらっと並んでいるのが映し出された。
カウンターの向こうには初老の品格漂うバーテンダーが立っていて、客を迎える。
マティーニの作り方の説明を聞いていると、唸るしかない。すごいなぁ~!
「お酒が飲めたら、こんなステキな楽しみがあるんだわ。まッ、男の世界かも……ネ」
組み合わせるお酒のなかに微妙な甘みを出し、微妙な香りを加えてつくられる絶妙なカクテルの味は、最上の贅沢に違いないなぁ~。
「あの瓶をみてごらん」
一緒に見ていた母が、洋酒の瓶に目を凝らしていた。
喫茶店の入り口に立ったまま、画面に映し出されたバーの映像が、一瞬間だけだが浮かんできた。
目を右手にずらすと、すでに編集長とライターさんらしい二人が、すぐにそれと分る場所を確保して、私の到来を待っていてくれた。
本の街、神保町ならではの店の一隅に挨拶をすませ腰をおろした。
雑談から本題に入りかかった頃合いに、佐治さんが到着した。
それから本格的に、投げかけられる質問に答えていく。
気がつくと、野口先生の思い出を熱く語っていた。
こうして生誕百年のメモリアルイヤーに、自然な成り行きに身を任せるのも悪くない、と思いつつ話は佳境に入っていった。