電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

マーラー「交響曲第5番」、またはLPからCDへの転換

2005年06月23日 21時57分41秒 | -オーケストラ
マーラーの交響曲第5番に触れたのは、1972年にグラモフォンが1枚750円で出したラファエル・クーベリックのサンプラーLPレコードに収録された、第4楽章「アダージェット」だった。ちょうどこの頃、ヴィスコンティ監督の映画「ヴェニスに死す」で使われたことで、耽美的な音楽として話題になった。
1980年代に入り、LPでマーラーの交響曲第7番「夜の歌」や第3番などを通じて、第4番以外のマーラーの音楽にも親しむようになり、これもクーベリックのマーラー交響曲全集の分売を狙って収集し、時折きいて楽しんでいた。だが、第5番はなんとなく知ったつもりになり、後回しにしていた。
1985年になって、朝日新聞の記事に作家の「加賀乙彦さんとマーラーの第五交響曲をきく」という記事が掲載された。この記事で、氏はマーラーを車で聴く楽しみについて述べている。「私は車に乗るのが苦にならない。車で移動するためでなくマーラーを聴くために乗るのだから、これは楽しみである」というのだ。この記事がきっかけで、あのアダージェットの曲を全曲聞いてみようと思い立った。
ちょうど、ラファエル・クーベリックの第5番がLPレコード1枚に収録された直輸入盤を見付け、これを購入して聞いてみた。残念ながら、第3楽章のスケルツォが、LPレコードのA面とB面にまっぷたつにされている。1971年にミュンヘンのヘルクレス・ザールで録音された演奏が素晴らしいだけに、それだけがなんとも残念である。それでも、LPからカセットテープに録音して、車の中で聞いてみると、たしかに具合がいい。これなら、片道40kmの通勤路ロングドライブもあまり苦にならないことがわかった。
のちに、レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏でCDを購入し、さらにエリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団のCDで全曲を通して楽しめるようになり、コンパクト・ディスクというメディアの恩恵を感じた。以後、この頃続けて発売されていたインバル指揮フランクフルト放送交響楽団の演奏を収録したデンオン盤を中心に、マーラーの交響曲の新録音を積極的にCDを中心として収集しはじめ、LPレコードの購入は急減するようになった。

参考までに、演奏データを示す。
■クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団 (18MG-4515)
I=11'35" II=13'52" III=9'20"+8'03" IV=9'44" V=15'29"
■レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団 (R32C-1009)
I=12'57" II=14'51" III=17'36" IV=12'03" V=14'55"
■エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団
I=13'31" II=14'04" III=18'46" IV=11'34" V=14'27"

クーベリックの演奏は、前半が比較的速めのテンポで大きな誇張のない自然な演奏になっており、第4楽章「アダージェット」もあまり遅過ぎず淡々とした表現が好ましい。第5楽章は比較的ゆっくりめのテンポで、堂々とした演奏。全体として夜の草原を吹きわたる風のように、響きが濁らず爽やかだ。これはクーベリックの演奏と録音の特徴だと思う。粘着質でひたすら悲劇的なマーラーもありうるが、爽やか系のマーラー演奏もあっていい。
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