ぐうたら里山記

兵庫の西の端でただのほんと田舎暮らしをしています。ぐうたらです。のん兵衛です。

地獄の沙汰も酒次第(2)

2016年07月05日 01時47分28秒 | 酒の話
そこは薄暗い道。
濃い霧が立ち込めている。
ここはどこだろう?
(道路標識くらい出してたらいいのに・・・)

でも1本道なので迷うことはない。
遠くにぽっかり明かりが見える。
みんなそこへ向かって憑かれた様に歩いていく。
みんな?
そう、どうやら一人ではないようだ。
姿は見えないけど、気配はわかる。
みんなとぼとぼと歩いていく。
(いったいいつまで歩くのだろう?)
唯一の明かり、唯一の光明をめざして・・・
(街頭くらい点けといたらいいのに・・・)

明かりは次第に大きくなり、
ようやく7日目にやっと川にたどり着く。
暗い暗い川、底は見えない。
空も周りも暗い霧。
対岸も見えない。
そしてひんやり湿っぽくてうすら寒い。
いつもの癖で周りを見回し、酒屋はないか?
せめて自動販売機でも・・・と探す。
ところがここは何~~~にもない!
(まったくしけた所だ。確かに湿気てはいるが・・・)
そこで隠し持ってきた酒をぐいと呑む。
(こんなところだけは抜かりない)

呑んでやっと気づいた。
そうか、これがあの有名な三途の川というところか。
観光案内所は?
そんなものもちろんない。
まったくしけたところだな。
サービス精神なんてないのか?

ここで思い出した。
確か1週間前・・・だったかな?
かなり呑んで、呑みすぎて、
そのまま・・・はてどうなったんだろう?
なんかうるさい音がしたようなしないような・・・
さてはあれは救急車だったのかな?
そして今ここにいる。
としたら死んだのかな?
いつも死ぬときはアル中で、と決めていたから、まあ予定通りというべきか。
死ぬまでにやっておきたいことたくさんあったけど、
というよりし残したことばかりだけど、
でも死んだ今となってはそんなこともうどうでもいい。
ただどうやら1升瓶だけはしっかり握りしめて離さなかったらしい。
我ながら瀟洒な心がけ。
うむ感心感心!
・・・なんて言ってる場合じゃない!
みんな渡し船に乗り込んでるよ。
急がなきゃ!

そして船着き場に着くと船頭が不愛想に「六文!」という。
えっ、六文?
あぁ、渡し賃のことか・・・
しかし、まったく時代錯誤もいいとこ。
「文」なんて金が今あるか!
この不愛想な、年齢不詳の(かなり年を取っているらしい、でもまだどうにか化石にはなっていない、どうやらかろうじて生きてはいるらしい・・・)この船頭にそういうと、
むっつり不機嫌に「じゃぁ6セン」という。
6銭?。
(だいぶ現代に近づいてきたな・・・でも「銭」なんてあるか!)
そういうとどうやら6銭ではなくて6千円のことらしい。
対岸まできっとそんなに距離はないはず、意外と近いはず。
それなのに6000円!
ぼったくりだ!
まったくふてぇ~野郎だ!
まったくせこい野郎だ
お前の名前ひょっとしたら「マスゾエか?」
そういえば髪型がよく似ている。
「えっ、マスゾエじゃない?それにマスゾエはまだ死んでない?まったく往生際の悪いやつだ!」

「6円にまけとけ!」
「とんでもない、まけられるか!!」

・・・6000円ないわけでもないが「地獄の沙汰も金次第」という。
ここは大事にとっておかねば。
それを「マスゾエ」いやこの不愛想な船頭に渡してたまるか。
こちらは(大阪生まれではないけど大阪で何十年も暮らした人間だ。なめんなよ大阪人を!)

そして交渉決裂。
じゃあいい帰る!
といってもと来た道を戻り始めると、この船頭あわてて
「6円でいい。まったく!・・・今日は客筋が悪いな」
とうやらきっと「六文」というのはこの船頭へのチップ、あるいは賄賂。
客をつかまえて対岸に渡すのが仕事なのだから、ただでも乗せたのに違いない。
6円損した!

とはいえ、何とかようやく乗り込んだ。
ぎ~こ・ぎ~こ・ぎ~こ・・・・艪の音とともに船は岸を遠ざかる。
(今どき手漕ぎの渡し船か・・・)

これで娑婆ともお別れか・・・

(続く・・・)


コメント
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