イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「知ってるつもり―無知の科学」読了

2018年10月10日 | 2018読書
スティーブン スローマン、フィリップ ファーンバック/著 土方 奈美/訳

この本の核心は、「なぜ人は薄っぺらな主張に流され、浅はかな判断をするのか。」ということである。それだけわずかな知識しかなくてもそこそこ普通に生きてゆけるがその生き方は周りからの影響を限りなく受けているのだというのだ。

人間の記憶している内容を文字数に換算するとなんと0.5ギガバイトほどしかないそうだ。まあ、頭の中に画像として保存されているものもあるだろうから、そんなに少ないこともないだろうけれども、僕の500ギガバイトのハードディスクのパソコンに比べるとはるかに記憶している内容は少ないようだ。

しかしながら、普通の人たちはそんな少ない情報しか持っていないにもかかわらずそれなりに生活を維持できている。それはいろいろなものごとを知ったふりをしてやり過ごしていられるからだというのが著者のひとつの主張になっている。

たとえば、水道の蛇口をひねると水がでてくるけれども、どんな仕組みで出てくるかを知らない。そんなことが身の回りに膨大にあるというのだ。
まあ、こんなことは知っていても知らなくてもそれはどうでもいいかと思うのだが、確かに、けっこう知っていると思っていることでもいざ人に説明しようとするとまったくそれができないということというのは山のようにある。受験生時代によく塾の先生からも、他人に教えることができるようにならないと本当に理解したのだとは言えない。とよく怒られた。きっとそういうことだと思う。

ではどうしてひとはそんなに知ったかぶりをするのだというと、思考方法にあるという。コンピューターというのは蓄積された膨大なデータをひとつひとつ照合しながら、説明しなければならないもしくは解決しなければならない問題の回答を求めるが、人間は前後左右の因果関係をもとにしながら回答を求める。だからすべてのデータを蓄積していなくてもそこそこの答えを導き出せるのだ。(それが本当に正しいかどうかは別として。)相当な部分を想像しながら判断しているのである。

そして、著者たちは人間の知能のもうひとつの特性はコミュニティ、人間関係などのなかから他の人が持っている記憶や認知とつながりながら巨大な知能体を作り上げているということも書いている。自分はこのことは知らないけれどもあの人はそれを知っている。そういうことをつなげながら巨大な文明が出来上がってきたのだというのだ。知性には人と人の境界がないという。

似たようなものに、トランザクティブ・メモリーということばがあったことを思い出した。これは、「組織に重要なのは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、『組織の誰が何を知っているか』を組織の全員が知っていることである」というものであるけれども、それが極端に同化してしまうとあたかも自分がなんでも知っていると錯覚してしまうのだろうか。
う~ん、なんだか人類補完計画に似てきたような気がする。ネット社会というのは人の手が届く小さなコミュニティの枠を大きく飛び越えて他人の知識と自分の知識を同化させていくもののようにも思えるけれども知性の究極の姿というのはそういうすべての人間が一体化してしまったものになるのだろうか?
それはそれでちょっとおぞましいような気がする。

そして他人の知性を引き込みながらそれを自分の知性だと知ったかぶりをする危険性を政治にたいするリテラシーを例に取り上げている。
今でも沖縄の基地問題や消費税率の引き上げ、社会保障、様々な賛否に関する意見がテレビや新聞に掲載されているけれども、専門家ではない一般人ははたしてどれだけそれぞれのことを論じているのか、投票しているのか。お昼のワイドショーに出てくる一般人のインタビューなんかをみているとそれが如実にわかることがある。

しかしながら、著者たちは、それだからどこが問題であるかとか、こういう風にただしていかなければならないとか、そういうことはまったく論じていない。それはきっとこの世の中に、“これが正しい”というようなものなんてないのだということをよくわかっているからだろが、ただ、そのスタンスとして、「自分はそれほど物事を知っているわけではない。」ということを十分に理解したうえですべてのことに対して知見を持たなければならないのだと結論付けている。

結局、そんなことはみんな心の中ではわかっているんだよというような結論であるように思えるがそこはやっぱり、自分のことを無知あり薄っぺらな主張に流され、浅はかな判断をする傾向があるのだとは思いたくない。
そこが悩みどころなのである・・。
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