イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「中国・SF・革命」読了

2020年10月28日 | 2020読書
ケン・リュウ、柞刈湯葉、郝景芳、王谷晶、閻連科、佐藤究、その他 「中国・SF・革命」読了

中国のSFをもう少し読んでみようと思って短編集を借りてみた。
しかし、この本、タイトルを見てみると、中国のSF小説界の新時代について書かれているように捉えられるが、どうもそうではなく、これはどう見てもSFとは無関係と思えるような短編や、エッセイも混ざっている。

SFについて読んでみると、このジャンルはごくたまに読むくらいなのでどこからどこまでがSFと呼べるのかがわからないが、この本に掲載されている小説はどちらかというとファンタジー小説とでもいえるジャンルではなかろうかと思う。
FSというと僕の認識では最新の物理法則を取り込み、時間と空間とエネルギーを巧みに操る世界が舞台だと思うのだが、そういうものとはだいぶん趣が違う。
日本の小説家では、恩田陸がこんなテイストの小説を書いているような気がする。恩田陸のジャンルは一応、ファンタジー小説ということになっているらしいのでこの本に出てくる小説もそんな感じかと思うのである。
中国人だけではなく、日本人や中国系アメリカ人が書いた文章も入っている。

物語にでてくる登場人物は様々だが、よく出てくるのが歴史上の人物だ。秦の始皇帝やチンギスハン、孫文、そんな人が不死の命を持っていたり悪魔と対面したりする。そのへんはさすがに4000年の歴史だ。有名人には事欠かない。三体でも周の文王がでてきたり、確か、秦の始皇帝も登場していた。これもひとつの中国SFの法則なのかもしれない。
そして日本に関するエピソードもよく出てくる。なぜだか宇都宮の餃子が出てきたり、孫文のエピソードではさすがに日本の舞台の一部になっている。そこには南方熊楠の名前まで出てくるのだから相当マニアックだ。
日本もかつてアメリカの文化にあこがれたけれども、かの国では目下、日本という国はある意味憧れとして見られているのは事実らしい。

やはり、「三体」が書かれたということはそうとうエポックメイキングなことであったらしく、中国のSFに関するイベントのレポートというのも書かれていたが、この本が「ヒューゴー賞」を取ったあと、それを契機に国を挙げてSF界を盛り上げようという機運が高まってきたそうだ。
「世界SF大会(ワールドコン)」という世界的なイベントがあるそうだが、中国はそれを誘致して世界の中で中国をSFの中心地のひとつにしようと考えているらしい。その理由が単にSF文化の発信にとどまるのではなく、国家の中に科学的思考のようなものを醸成する目的があるというのがなんとも中国らしい。その布石として様々なイベントを開催してるのだが、国家副主席がその壇上に上がるというパフォーマンスまでおこなっているとのことだ。
中華思想というのは、中国は世界の中心であるという思想だが、なんでもかんでも自分たちの世界に取り込んでいくという貪欲を見ていると、やはり世界の覇権を最終的に握るのはアメリカではなくて中国だと考えてしまう。

中国のSFに関しては以上のような感じだが、そのほかに収録されている短編やエッセイは最初に書いた通り、僕が考えられるなかではSFとはまったく関係がないように思える。例えば、ミソジニーやトランスフォビアといった偏見や差別、黄色系の作家たちが欧米社会で感じた偏見について、もしくは中国社会が持ってきた歴史的な負の側面、そういったものについて書かれた文章が並ぶ。
そういった差別や偏見、民族観のようなものがどんなかたちで中国のSFに取り込まれてきたかということを考察するためのヒントになっているのかもしれないが、僕にはそれはわからない。

中国、SF、革命という三題噺のお題はなんだか下町の中華料理屋のお昼の定食みたいにひとつのお皿に少しずついろんな料理が乗っかっているような印象を受けた。編者はどんな意図をもってこの本を編集したのだろうか。4000年の歴史は奥深い。

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