先月、某配信者に対する殺人事件が発生しましたが、その動機の1つとして、加害者が被害者にお金を貸したにもかかわらず返金されなかったという点が挙げられているようです。
当たり前のことですが、決して許される行為ではありませんし、また人を殺したところでお金は返ってきません。
とはいえ、弁護士として債権回収業務をやっていると、法律は無力だな…と何度も思うことがあります。
まず、あまり法律に詳しくない方が一番勘違いしていることは、訴訟提起さえすれば、必ずお金は返ってくると考えている点です。
たしかに、訴訟提起は、借主に対して強いプレッシャーをかけることができますので、お金が返ってくる可能性は高くなります。とはいえ、もともと訴訟手続きは、貸主が主張する貸付金が存在するか否かを国が判断するだけにすぎません。つまり、判決が出ても、「貸主が主張する貸付金はたしかに存在する」ということが証明されるだけであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
次に誤解があるのが、判決に基づき強制執行する場面において、強制執行の申立てさえ行えば、あとは裁判所が借主の財産を見つけ出して回収してくれるという点です。
残念ながら、裁判所は何もしてくれません。強制執行手続きを行うのであれば、貸主自らが借主の特定の財産を見つけ出し、その財産に対して強制執行するよう裁判所に申し立てる必要があります。この財産を見つけ出すのが厄介であり、見つけ出すことができずに挫折してしまうこともあります。
なお、警察に被害を訴えることができないかと考える方もいるようです。
しかし、貸した金が返ってこないこと自体は、何ら犯罪ではありません。あくまでも民事問題となります。
債権回収は、実は高度な戦略が必要な業務となります。
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