【保護されているオオワシ】
先日、環境省の野生生物保護センターを訪ねました。
ここは北海道東部の野生生物や湿地の保護などについてパネルを展示する一般向けの展示室と、野生生物の保護・育成などの研究施設が同居しています。
【野生生物保護センター】
こちらにいる斉藤慶輔先生は有名な野生動物専門獣医師で、市の事業でも野鳥の保護などに関していろいろとアドバイスをいただいているのです。
斉藤先生はケガをしたり病気になった鳥を救う熱心な活動で有名で、NHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」などに出演されたり、ドラマのモデルにもなっている超有名人。
仕事の関係もあって、挨拶かたがた最近の鳥獣保護についていろいろと伺ってきました。
斉藤先生は、傷病鳥が多く持ち込まれる中でいかに人間活動と鳥たちの保護を両立させることができるかを真剣に考えています。
そしてそのためには、人間側を一方的に悪者扱いするのではなく、「双方がwin-winの関係にならないといけないと思います」ときわめて現実的な解を模索されています。
「そのためにはまず事故に会った動物からデータを集め、それを治療しつつ、『なぜ鳥たちがこんな目にあったのか、なくすにはどうしたらよいか』を考えるアプローチをとらなくてはなりません」
「なるほど」
「例えば道東では大型猛禽類が二本の電線に触れて感電死するという事故が多発しています。これを少なくすることは猛禽類保護でもありますが、同時に北電にとっても停電事故の修理にかかる経費を少なくすることができます。感電事故対策を取ると、鳥と電力会社の両方にとってwin-winの関係が成立するので、電力会社にはそのために経費をかけても良いという判断が成立するのです」
「それはすばらしいですね。具体的にはどのような感電対策があるというのですか?」
「まだ研究中ですが、鳥たちが止まれる木(電柱)と止まれない木(電柱)に分ける工夫をして、感電しないほうへと誘導することを考えています。金属の突起などを設置することがかなり有効だとわかってきました」
ちょっとした付属物を取り付けるだけで鳥の感電死を防げるならば企業としても投資に値するというわけ。極めて現実的なアプローチです。
【たとえばこれを電柱に取り付ける】
【保護されている鳥たちで実験中】
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実は私もかつて公園を建設しているときに、希少猛禽類の巣が見つかって対応に苦慮したことがありました。
そのときは人間活動のストレスが鳥たちにどのような影響を与えるのかわからず、専門家の意見を聞きましたが、まだ鳥の専門家と呼ばれる人たちも知見や知識が十分ではなかったように感じられたのでした。
「実はそんな経験が私にもあるのですが、猛禽類が人間活動でストレスを受けるとどうなるのですか?」と積年の質問をしてみました。
すると斉藤先生は、「実は私の専門は動物心理学というもので、動物がどのような行動をするかを研究してきたのです」とのこと。動物心理学という研究分野があるとは知りませんでした。
「猛禽類が卵を産んで子育てをするときには周囲の環境にものすごく敏感になります。観察を続けていると分かるのですが、近くの人間活動による影響を受け始めると、まずチラ見をするようになります。これが第一段階です」
「はあ、なるほど」
「ストレスがさらに増すと、代償行動と言ってやらなくても良いような行動に出ます。羽づくろいなどを始めるなどいらいらしてきて、それが進むと伏せたり固まったりするのです」
「うーむ…」
「さらにストレスが強くなると、卵を抱いていなくてはいけないのにその人間活動の近くまで行ってそれに対する示威行為を始めます。こうなると卵が冷えてしまったりして繁殖に大きな影響を与えます。それを過ぎるともう卵を抱くのをやめて巣を放棄して、子育ては失敗に終わります。巣も放棄して別ナスに移るかもしれません。こうしたストレスの段階をしっかりと見定めることで鳥の様子がかなり分かるようになりました」
鳥もただ逃げ出す前にストレスを感じている段階があるというのはとても興味深いお話でした。
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フクロウの話も興味深いものでした。
「時々自動車事故によるフクロウの死骸が持ち込まれるのですが、それを詳細に見ると皆、車の方を見ている状態でバンパーにぶつかっているのです。その時のフクロウの胃の中からは食べられたカエルが多く出て来るんです」
「それはつまりどういうことなのですか?」
「このことは、道路を渡るカエルを食べようと降りたところで車のヘッドライトのまぶしさに目がくらんで動けなくなり、車の方を見ていて被害にあっている、と思われます」
「なるほど!その事故を減らす工夫というのは考えられるのですか」
「はい、実は道路を管理している方たちとは話し合いを行って、カエルの通り道の手前で道路に溝を掘ってもらって、音が出るように工夫をしてみています。車が近づく前に大きな走行音が出ることで逃がすことができないか、という工夫です」
野生動物と人間活動を両立させるための工夫の余地はまだまだありそうです。
もっとこうしたことにより多くの人たちの関心を寄せてもらわなくてはなりません。
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斉藤先生は続けます。
「さっき言った感電防止やフクロウの事故防止のための工夫などは、実は外国からの見学者に説明をすると大感激されるような説明コンテンツなんですよ。『この道東という地域は鶏たちとの共生のためにこんな工夫をしている』ということには、熱心なバードウォッチャーであればあるほどとても強い関心と興味を持って受け入れられることなのです」
「それは地域の魅力にもなるというのですね」
「はい、その通りです。野生動物保護のための地域パッケージというわけです。こういうことを市民がみんな知っていて誇りとして自慢できるなんてすばらしい地域だと思いませんか」
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【斎藤先生と またお訪ねしてお話を伺いたいものです】
斉藤先生は、こうしたご自身の地道な研究や知識の普及啓発活動とともに世界中を飛び回って世界中の研究者たちと交流をしながら、渡り鳥の保護などにも大活躍。
長身でハンサムで、なおかつ情熱的な仕事ぶり。天は二物も三物も与えたもうときがあるのですね。
野生動物との共存・共生を果たしている道東地域、と呼ばれるための努力には限りがありません。
まずはこの分野への関心を広げることでしょう。
ぜひこちらの展示室も訪ねてみてください。