先週の土曜日に開催された、日本都市計画学会北海道支部主催の研究発表会。
研究内容を説明するポスターセッションがあって、今回発表された方たちが、研究内容をA0版の大きさの紙にいろいろな形で表現をし説明するのですが、その見せ方もまた審査の対象になるのです。
現代社会の地域の課題などについて、様々な角度からアプローチした15本の研究がありましたが、私が一番心惹かれた研究は、北大観光学高等研究センターの福山貴史先生の「地域における『負の存在』の利用促進によるまちづくり」という研究でした。
この研究は、地域の暮らしや環境に不利益を与えるようなもので、世間がおおむね「そうだ、マイナスだ」と考えているものを「負の存在」と定義づけし、それがいつのまにか地域を振興する有望な観光素材に変化した事例を研究したものです。
「負の存在」を「プラスの資源」に転換するメカニズムがわかれば、様々な地域の"厄介者"が観光や地域づくりのための資源になっていく可能性をひらくことになるのではないか、という問題意識が出発点です。
福山先生は、その研究対象として、北海道オホーツク海沿岸の紋別市の流氷を取り上げました。
水産都市紋別市では、流氷は、長く地元の漁業者にとって、冬に出漁できなくなり、しかも氷が漁具を傷めることから「邪魔者」として扱われていました。
かつて紋別市では「流氷早期退散祈願祭」が行われ、早くいなくなってくれ、と神様に祈るような存在でした。
あるときから、そんな流氷に魅せられ、また研究をする人たちが現れました。
紋別高校に美術教師として横浜から赴任してきた村瀬真治は、流氷を見て感銘を受け、生涯にわたって数千点の流氷画を描きました。
また田中峰雲は、極寒の冬を明るく照らそうと、「もんべつ流氷祭り」を提唱しました。
さらに流氷研究の第一人者である青田昌秋は、流氷は地域に恵みをもたらす存在だという"プラスの生態的機能"を自然科学的に実証しました。
こうした研究の成果が、様々なシンポジウムなどで発表され、やがてそのプラスの価値が広く世の中に知られるようになり、社会的に認知されるようになっていったのです。
福山先生は、こうした地域の内発的で多様な取り組みを分析して、資源化をする促進要因を下記の図のようにまとめています。
この図では、資源化を促進した取り組みが、人文科学的アプローチと自然科学的アプローチに分かれ、それぞれが、価値づけ(真の価値を見出す)作業とそれを広く世に伝える作業に分類できることを示しました。
そしてそれらを担った人たちが互いに連携や協働をすることで資源化が促進されたと分析しています。
このような活動の結果、「早期退散祈願祭」が行われた流氷は、いつしか地域に大いなる恵みをもたらす存在として、「流氷早期到来祈願祭」に変わったのでした。
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ポスターセッションでの意見交換の後、懇親会でも福山先生とじっくりお話ができました。
二人で意気投合したのは、ただ嫌われているものを好かれるようにしよう、という精神論・根性論ではなく、そこに恩恵をもたらすことを科学的に説明する努力と、これは良い、と感じる情熱があったこと。
そして、厄介者の度合いというマイナスが大きければ大きいほど、価値転換した時にはプラスの度合いが大きくなるという事。
「まるで柔道の巴投げみたいですね。相手の圧力が大きければ大きいほどその力を利用して勝つみたいな(笑)」
実は地域の厄介者って数多いはず。
地域の厄介者をプラスに替えるというメカニズムがわかれば、条件不利地の価値を転換するアプローチが可能かもしれません。
条件不利地の皆さん、そのマイナスをプラスにしてみませんか。
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