昨夜は幌延の知人のお寺に泊めていただくことにしていたのですが、「その夜ちょうどうちでチーズパーティがあるから是非参加して」と薦められてその輪に加わりました。
お寺の本堂でチーズを食べ比べるというのはなかなかに面白い雰囲気でした。
チーズを手配してうんちくを語ってくれるのは、ナカムラシンイチさんという大阪がご出身の方で、いわゆる出張チーズパーティを生業として求めに応じて全国を渡り歩いているのです。
【真ん中の黄色いシャツの方がナカムラさん】
これまで出張した最南端は宮古島で、最北端はというと、「翌日に利尻島でやることになったんですよ」というわけで、利尻島になりそうです。
さてチーズパーティと言うのは、十種類以上のチーズを持ち歩いて、それをお皿に切り分けて一つずつを試食しながらチーズの説明をしてくれるというもの。
チーズの食べ比べと言っても、バーなどでチーズ盛り合わせを頼んだ時くらいのものですが、あまりうんちくを知る機会とはなりません。
今日ナカムラさんが出してくれたのは、写真の様な十種類のチーズですが、それぞれに特徴があってチーズの世界の多様さを目と耳と舌で知ることができます。
【今日はこの十種類】
モツァレラチーズは、日本でいうと豆腐の様な新鮮なフレッシュチーズというもので、保存も聞かず出来たてをどんどん食べるというチーズ。
グリーンチーズは、白カビのついたホワイトチーズですが今日はそれにオリーブの実を練り込んだものが紹介されました。オリーブの塩加減とチーズが絶妙な味わいです。
ブルーチーズはアオカビによる発酵が独特の臭みを出すために好き嫌いが分かれますが、今日のものはわりとマイルドで普段は苦手と言う妻も納得しながら食べていました。この手のモノは熟成が鍵になるようですね。
スモークチーズはプロセスチーズを燻製にしたもの…なのですが、どうやら市販のモノの中には実際に燻製にするのではなく単に燻蒸液に漬けて作られるものもあるのだそう。
スモークチーズって外側の茶色いところが難いイメージがありましたが、「そういうのは燻蒸液に漬けて作られるかも。これはちがいますよ」というわけで、全体が柔らかくてスモークチーズのイメージが変わりました。美味しいものはやっぱり美味しいのです。
「ハラペーニョチーズってなんですか?」
「えへへ、まずは一口食べてみてください」
そういわれたのでぱくっと食いついて、もぐもぐしていると、「うわ、辛っ!」
「そうでしょう、ハラペーニョと言うメキシコ当たりの唐辛子を練り込んであるんです。アメリカで近年つくられた、まあ色物みたいなチーズですね」
チーズも伝統にばかり固執していては発展性がないというわけで、チーズをベースにした新しい食文化を作ろうという試みは熱心に行われています。
そうしたことが次のゴーダチーズと緑色のバジル入りゴーダチーズにも表れています。クミンシード入りとバジル入りは、チーズの味のバリエーションを広げようというもので、まだ変わりチーズですが、これが50年経てば一つの伝統になるかもしれません。
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オレンジのチーズはミモレットというチーズで、これは森喜朗元総理が小泉首相の元を訪ねた際に「干からびたチーズしか出なかった」と表現して話題になったチーズ。
まさに表面は干からびているのですが、ここにはなんと"チーズダニ"と呼ばれるダニがいるために表面が干からび、かつそれで内部が熟成するというタイプのチーズなんだそう。表面の干からびた部分は美味しくないのでそこは食べずに捨ててしまうのです。
オレンジ色をしているのは、敢えてそういう色を付けることで珍しさと共に一つのブランド力を高めようという試みだったそうですが、熟成が進むと日本のカラスミに似た味わいになるようで、味と言い色と言い、美味しさの要素が増すようです。
オールドアムステルダムは熟成チーズの一種で日本人好みの旨味が出ているタイプ。これはナカムラさんも自分の中で一二を争うほど好みのチーズだそうです。
最後はピーチメルバという名前のチーズで、桃の果汁が練り込まれているデザートチーズ。甘くてフルーティなチーズというのはイメージにないので印象が深いものです。
…とまあざっとこれくらいのチーズを紹介してくれたのですが、ナカムラさんは関西人らしい柔らかな口調なので、会場も大いに和んで話が弾みました。
しかしチーズをトランクに入れて全国を渡り歩くなんて、変わった商売。
「まるでフーテンの寅さんみたいですね」と言うと、「ときどきそういわれます。そうでなければ『流しのチーズ屋さん』と呼んでくれる人もいます」
聞けば、参加した人のつながりやネットで連絡してくる人もいるのだそうで、参加費が一人2千円で今日は昼の部と夜の部の二回に分けて参加者が十数名ずつといった感じ。面白いビジネスもあるものです。
お酒や飲み物は各自が持参して、酔うほどにチーズ談義に花が咲きました。
チーズの試食とチーズ語り。お近くで開催の際は参加してみてはいかがでしょう。