ほそかわ・かずひこの BLOG

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仏教46~シナ文明の宗教と思想の特徴

2020-08-27 10:16:52 | 心と宗教
●シナ文明における仏教

◆シナ文明の独自性
 仏教は、インド亜大陸でインダス文明が滅んだ後に発達したインド文明で創始され、シナ文明に伝来した。世界の三大宗教のうち、古代の代表的な文明の系統を引く文明の間で伝播したのは、仏教だけである。
 ここで、シナを含む古代世界の諸文明について記すと、世界最古の文明は、今から約5000年前に、エジプトのナイル川流域に発生したエジプト文明と、西アジアのチグリス・ユーフラテス川流域に発生したメソポタミア文明だった。続いて、今から約4500年前に今のパキスタンであるインダス川流域のインダス文明、今から約3500年前にシナの黄河流域の黄河文明が起こったとされている。以前はこれらの文明を世界の古代四大文明というのが通説だったが、シナ大陸では、長江文明や遼河文明等の文明の遺跡が各地で発見されている。本稿では、シナ大陸で発生した黄河及び長江流域の諸文明を総称して、シナ文明と呼ぶ。シナ大陸の古代諸文明は、黄河文明に同化・吸収された。それが現代に続くシナ文明である。
 文化人類学者のフィリップ・バグビーは、世界の歴史には、一度地域帝国ができると、地域帝国は興亡を繰り返すが、全体としての文明は解体せずに受け継がれていく事例があるとして、古代エジプトとシナを挙げた。トインビーは、この説を受けて、文明の型には、「誕生→成長→挫折→解体→滅亡」をたどる「ギリシャ=ローマ・モデル」とは別に、政治的変遷はあるが、社会そのものは維持されていく文明の型もあるとして、これを「シナ・モデル」として定式化した。
 私見を以って補うと、シナ文明においては、単に政治的変遷ではなく、支配する民族が何度も入れ替わっている。それにもかかわらず、社会そのものは維持されてきたところに特徴がある。
 シナ文明は、独自の宗教、政治制度、文字、芸術、技術等を発達させた古代世界の主要文明である。そうしたシナ文明に、インド文明が生んだ仏教が伝来したのである。


◆シナ文明の宗教と思想の特徴
 仏教が伝来する前、シナ文明には、独自の特徴を持つ宗教や思想が発達していた。その宗教・思想の主な特徴は5点ある。
 第一は、多神教の高度宗教であることである。シナ文明における宗教の原始形態は、アニミズム・シャーマニズムな信仰と考えられる。それを土台として、儒教・道教という固有の宗教が発生し、発達した。仏教がシナに伝来した時、シナ文明には、こうした土着の宗教が存在した。儒教における祖先崇拝はアニミズムに基づくものであり、巫術はシャーマニズムの漢語である。道教はアニミズム・シャーマニズムが高度宗教に発達したものである。
 第二は、古代ユーラシアの遊牧民族に広く見られる天空父神への信仰が高度に発達したことである。人類学者のジェームズ・G・フレイザーによると、未開人は、王の生命力が旺盛な時には、この世はすべてうまくいくが、王の力が衰え、死に至ると、世界も同時に終わると考えた。古代のシナでは、こうした観念が発達して、天人(てんにん)相関思想が生まれた。天と人との間、すなわち自然界と人間界との間には、因果関係があり、君主の政治の善悪が、自然界の吉祥や災異を招くという思想である。 
 古代シナ人は、この思想のもとに、君主は、徳を備えた人でなければならないと考えた。君主が徳を持ち、徳のある行いをしていれば、天はこれに呼応して、世の中は平和で作物も豊作となる。しかし、君主に徳が欠けると、飢饉となり疾病が蔓延し、地震などが起こると考えた。
 古代シナ人は、天を人格化して天帝と仰ぎ、天地・宇宙・万物を創造し支配する神として尊崇した。天帝は、自然神というより宇宙神である。元始天尊、上帝、天皇大帝等とも呼ばれる。
 こうした天人相関思想や天帝信仰を背景として、古代シナでは、紀元前5~6世紀から儒教・道教が発達した。これらは、アニミズム・シャーマニズム的な信仰に天空父神への信仰が加わっており、政治的また哲学的に深められた高度宗教になっている。
 第三に、道(タオ)を中心的な概念とすることである。道は、真理・原理・理法・法則・本源・根源・本体・規範等を意味し、シナ文明を一語で象徴する言葉である。道は、根本的な真理であり、その動きは陰陽の対概念を以って理解され、また人は天の道を模範として生きるべきものとされ、現実の生活における生き方をも道という。道を説いた代表的なものに、『老子道徳経』がある。
 後年、こうした道の思想の取り入れた民俗信仰として、道教が現れた。道教の語は、初めは「先王や聖人の道の教え」としての儒教を意味した。儒教は道学ともいい、これを発展させた朱子学は、またの名を道学という。仏教の伝来後、道教の語が仏教をも意味した時代があった。仏教は仏道とも呼ばれる。このように、道は、儒教・道教・仏教を貫き、それらの根底にあるものとして、シナ思想の中心的な概念となっている。
 第四に、陰陽という両極を立てる考え方をすることである。シナ文明には、すべての事物には陰陽があるとし、その対を以って思考する傾向がある。陰陽を矛盾・対立するものととらえるのではなく、相関的にとらえ、その両極の調和と安定を重んじる。また、しばしば陰陽を循環するものととらえる。
 陰陽の概念は、基本的には人間の男女の両性に基づく発想だろう。また、昼と夜、光と闇、天と地のように対比されるものを自然の中に見出して、一般化したものだろう。その際、特に四季の変化のように循環する自然の動きに注目したものと思われる。
 第五に、現世的また現実的な考え方が強いことである。シナ文明では、現世を離れた来世への志向より、現実をいかに生きるか、どうすればよいかに、宗教と思想の重点が置かれた。現世を否定せず、現世における不老長生が希求され、また、家族的・氏族的な共同体の維持・繁栄が目指された。個人の死後の魂の救済よりも、集団の現世の政治的な安寧に重点が置かれた。
 仏教は、以上の5つの特徴を持つ宗教や思想の発達したシナ文明に伝来した。そして、その土壌に定着した仏教は、アニミズム・シャーマニズム的な民俗信仰が根強く存続するなか、儒教・道教という固有の宗教と相互作用しながら、独自の発達を示した。

 次回に続く。

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