ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

尖閣:アイク、ケネディは日本に主権と認めていた

2012-10-16 09:53:12 | 尖閣
 尖閣諸島に関する中国政府の主張には、まったく根拠がない。そのことを明らかにする資料が、米国からも出てきた。
 9月28日、尖閣諸島をめぐって作成されたCIAの報告書が報道された。ジョージ・ワシントン大国家安全保障記録保管室に保管されていたものである。この報告書は、日米両政府が沖縄返還協定を調印する直前の1971年5月に作成された。当時の中華民国(台湾)が、米国の尖閣諸島を含む沖縄の施政権に注文をつけたのを受け、CIAが調査を行ったものだという。文化大革命の担い手だった紅衛兵向けに中国で1966年に刊行された地図を例に挙げ、「尖閣諸島は中国の国境外に位置しており、琉球列島、すなわち日本に属していることを示している」と指摘し、67年8月に北京で刊行された一般向け地図帳でも「尖閣諸島は琉球列島に含まれる」と表記されていると報告しているという。先に触れた中国版ツイッターに掲載された地図と同時期のものである。
 CIAの報告書は、「尖閣海域に埋蔵資源の存在が明らかになった後、中華民国が領有権を主張し、これに中国共産党政権が続いて問題を複雑化させた」と指摘し、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であるとする日本の主張について「説得力があり、尖閣諸島の領有権の根拠を示す責任は中国側にある」「尖閣諸島への中国のいかなる行動も、米国を日本防衛に向かわせるだろう」と結論付けているという。
 沖縄返還協定調印の時の米国大統領は、リチャード・ニクソンだった。ニクソンは、1971年6月に、尖閣諸島の日本への施政権返還を決断した。前月の5月に作成されたこの報告書が、大統領の判断材料の一つになったと見られると報じられる。
 米国政府は、尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象としている。すなわち、米国が日本に返還した尖閣諸島は日本の施政権下にあることを、米国は認めている。その裏付けとなるものの一つが、このCIAの報告書だといえるだろう。ただし、米国は、尖閣が日本の領土だと認めているわけではない。領土問題については「中立」の立場を取っている。施政権と領有権を区別しており、施政権が日本にあることは認めるが、領有権については判断しないという姿勢なのである。
 だが、米国が初めからこういう姿勢だったわけではない。そのことを示す資料が出てきた。10月8日に報道されたもので、アイゼンハワー、ケネディ両大統領が尖閣の主権の日本への帰属を明確に認めていたことを示す米議会の公式報告書が明らかとなった。両大統領のこの記録は米国議会調査局が2001年11月、上下両院議員の法案審議用資料として作成した「中国の海洋領有権主張=米国の利害への意味」と題する報告書に掲載されたという。これは重要な事実である。米国は、1950年代から60年代にかけて、アイクとケネディの時代には、大統領が日本に主権があると認めていたのである。ところが、その後、米国は態度を変えた。
 先の報告書は、沖縄返還時のニクソン政権がこれら2政権の政策を変え、尖閣諸島の施政権は沖縄と同一に扱いながらも、尖閣の主権は区別し、「中立」を唱えるようになったと述べ、その理由として「中国への接触」を指摘しているという。ここでいう主権は領有権を意味する。ニクソンから、沖縄については領有権と施政権を認めるが、尖閣については施政権は認めるが領有権については判断しないという態度に変ったのである。
 これは私の想像だが、第2次世界大戦後、米国は超大国として世界的に影響力を振るうため、各国が結託して米国に立ち向かって来ないように、各国が領土問題で争って互いに牽制し合うように、仕向けたようなところがある。日本とソ連の間の北方領土はその一例である。日本と中国の間についても、領土問題でけん制し合うように考えたのかもしれない。
 それはさておき、わが国としては、アイクとケネディが尖閣の主権は日本にあると認めていたことを、広報宣伝に活用していくべきだと思う。
 以下は、関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年9月28日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120928/chn12092821580008-n1.htm
【尖閣国有化】
「紅衛兵向け中国地図でも尖閣は日本」 返還時、米CIAが報告書
2012.9.28 21:56

 【ワシントン=佐々木類】米中央情報局(CIA)が、沖縄県の尖閣諸島をめぐり、「領土問題は存在しない」とする日本の主張を裏付ける内容の報告書を作成していたことが27日明らかになった。
 報告書は、日米両政府が沖縄返還協定を調印する直前の1971年5月に作成。当時の中華民国(台湾)が、米国の尖閣諸島を含む沖縄の施政権に注文をつけたのを受け、CIAが調査を行ったもので、米ジョージ・ワシントン大国家安全保障記録保管室に保管されていた。

66年に刊行
 報告書は、中国で文化大革命の担い手だった紅衛兵向けに66年に刊行された地図を例に挙げ、「尖閣諸島は中国の国境外に位置しており、琉球(沖縄)列島、すなわち日本に属していることを示している」と指摘。67年8月に北京で刊行された一般向け地図帳でも「尖閣諸島は琉球列島に含まれる」と表記されていると報告している。
 台湾でも「尖閣海域が中国側の境界内にあると表示する地図はなかった」とした上で、旧ソ連や無作為に抽出した欧州の地図にもそうした表記はないとした。
 報告書は、「尖閣海域に埋蔵資源の存在が明らかになった後、中華民国が領有権を主張し、これに中国共産党政権が続いて問題を複雑化させた」と指摘。歴史的にも国際法上も日本固有の領土であるとする日本の主張について「説得力があり、尖閣諸島の領有権の根拠を示す責任は中国側にある」とし、「尖閣諸島への中国のいかなる行動も、米国を日本防衛に向かわせるだろう」と結論付けた。

台湾は改竄
 これとは別に、都内の財団法人「沖縄協会」の調べによると、台湾当局は71年、中学2年生向け地理教科書「中華民国国民中学地理教科書」で、領土境界線を“改竄”し、尖閣諸島の呼称を「釣魚台列島」に改めていたことが判明している。
 70年の教科書では「琉球群島地形図」で、同諸島を「尖閣諸島」と明示し、台湾との間に領土境界線を示す破線を入れ日本領としていた。だが、71年に呼称を「釣魚台列島」に変更、破線を曲げて沖縄県与那国島北方で止め、領有権の所在を曖昧にしていた。

●産経新聞 平成24年10月8日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121008/amr12100800050000-n1.htm
【尖閣国有化】
アイゼンハワーもケネディも「日本に主権」認める
2012.10.8 00:04

 【ワシントン=古森義久】尖閣諸島の日本への返還前、米国のアイゼンハワー、ケネディ両大統領が尖閣の主権の日本への帰属を明確に認めていたことを示す米議会の公式報告書が明らかとなった。米国はその後、尖閣の主権について「中立」を主張するようになったが、過去に主権を認定した意味は大きいといえる。
 両大統領のこの記録は米国議会調査局が2001年11月、上下両院議員の法案審議用資料として作成した「中国の海洋領有権主張=米国の利害への意味」と題する報告書に掲載された。
 報告書は「1945年から71年までの尖閣諸島の米国の統治」という項で、51年の対日講和会議に加わりアイゼンハワー政権で国務長官を務めたダレス氏が、尖閣を含む琉球諸島に日本が「残存主権」を有するとの考えを示したと記している。残存主権とは「米国がその主権を日本以外のどの国にも引き渡さないこと」を意味するとしている。
その上で報告書は、アイゼンハワー大統領が57年6月の日米首脳会談で尖閣を含む琉球諸島の残存主権をめぐり、岸信介首相に対して「米国が統治する一定期間は米国がその主権を執行するが、その後には日本に返還される」ことを告げ、その点を確認したと明記している。
 さらに、「62年3月には、ケネディ大統領が沖縄についての大統領行政命令で、『琉球は日本本土の一部であることを認め、自由世界の安全保障の利害関係が(尖閣を含む沖縄に対する)日本の完全主権への復帰を許す日を待望する』と言明した」との記録を示している。
 報告書はこのすぐ後で、「米国は尖閣諸島を琉球諸島から区分する言動はなにも取っていないため、この『残存主権』の適用は尖閣を含むとみなされる」と念を押している。
 報告書は、沖縄返還時のニクソン政権がこれら2政権の政策を変え、尖閣の施政権は沖縄と同一に扱いながらも、尖閣の主権は区別し、「中立」を唱えるようになったと述べ、その理由として「中国への接触」を指摘している。
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尖閣:中国の主張に全く根拠なし

2012-10-15 08:45:31 | 尖閣
 9月27日、中国の楊潔チ外相と李保東国連大使は、国連総会の一般討論演説の場で尖閣諸島の領有権を主張し、日本が尖閣諸島を「盗んだ」という表現を計7回使用した。「強盗の論理と同じ」「マネーロンダリング(資金洗浄)のようだ」とも表現した。国連総会という国際社会で重要な会議の場で、日本を盗人呼ばわりする中国の姿勢は、異様である。だが、尖閣を固有の領土とする中国の主張には、まったく根拠がない。
 尖閣周辺の石油資源などが明らかになった1970年ごろから、中国は領有権を主張し始めた。1971年12月の中国外務省声明では、「釣魚島などの島嶼は昔から中国の領土。早くも明代にこれらの島嶼はすでに中国の海上防衛区域の中に含まれており、それは琉球に属するものではなく台湾の付属島嶼だった」と根拠らしきことを述べていた。
 だが最近、石井望・長崎純心大准教授の調査で、尖閣諸島の大正島について、明代理の1561年に琉球王朝へ派遣された使節、郭汝霖(かく・じょりん)が皇帝に提出した上奏文に、大正島は「琉球」と明記されていたことが、分かった。これで、中国には、明代に大正島を琉球に帰属すると正式に認めていたことを示す史料が存在することが、明らかになった。石井氏は「中国が尖閣を領有していたとする史料がどこにもないことは判明していたが、さらに少なくとも大正島を琉球だと認識した史料もあったことが分かり、中国の主張に歴史的根拠がないことがいっそう明白になった」と述べている。
 去る10月10日玄葉外相は、1960年に中国で発行された世界地図には沖縄県・尖閣諸島が日本名で明記してあると指摘し、尖閣をめぐる中国の領有権主張に反論した。
 この地図は、中国の「地図出版社」発行の世界地図で、「釣魚島」という中国側の呼称を使わず、日本側の呼び名に従って「尖閣群島」と記載し、沖縄の一部として扱っているという。これに対し、中国政府は「支離滅裂」だと玄葉発言を非難している。だが、支離滅裂とは、中国政府の態度そのものである。
 8月25日の日記に、中国広東の企業幹部・林凡氏が、中国版ツイッター「微博」で、「尖閣諸島は日本領土」と発言したことを紹介した。林氏によると、人民日報は1953年1月8日付の紙面に掲載した記事で「琉球群島は台湾の東北に点在し、尖閣諸島や先島諸島、沖縄諸島など7組の島嶼からなる」と表記していた。1967年版の中国当局監修の地図は、台湾を中華人民共和国の一部とし、中国と尖閣諸島の間に国境線を引いて、尖閣諸島は日本領であることを示して、魚釣島等と日本名が書いてある。この書き込みは、翌日には当局によって削除された。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/6be0656a04778e6fecae450a97704b0d
 だが、中国政府が尖閣は中国領だとどんなに声高に主張しようとも、根拠のない主張は絶対に成り立たない。ウソ・捏造に過ぎない。わが国は、事実を事実として、繰り返し、繰り返し主張していけば、相手は支離滅裂ぶりを自国民に知らせ、また国際社会に露呈することになる。

 以下は、関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年9月28日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120928/chn12092822120009-n1.htm
【尖閣国有化】
「日本が盗んだ」7回、異様さ際立つ中国演説 「安保理の品格おとしめる」
2012.9.28 22:10 [中国]

 【ニューヨーク=黒沢潤】中国の楊潔チ外相と李保東国連大使が27日、国連総会の一般討論演説の場で沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張する一方、乱暴な言葉を連発しながら日本を名指しで批判するなど、その異様ぶりが際立った。安保理常任理事国の発言だけに、「安保理の品格を落としめるもの」(安保理外交筋)との声も出ている。
 演説に立った楊外相と、日本政府による反論に対して再反論を行った李大使は「(日本が尖閣諸島を)盗んだ」との表現を計7回使用。「強盗のロジックと同じ」「(違法な)マネーロンダリング(資金洗浄)のようだ」とも表現した。また日本を「植民地主義的」と7回も形容した。
 国連筋は「国連総会という各国の首脳・閣僚クラスが一堂に会する場で、これほどの言葉を聞いたことは過去にない」と指摘する。
 野田佳彦首相が26日、領土や海域をめぐる紛争について「国際法に従い解決する」と主張した際、中国を名指しで批判することはなかった。「国連の討議では、ある国が他国の名前を挙げない時、相手国もそれに従うのが筋」(国連外交筋)だが、中国はそれを無視した形だ。
 一方、韓国政府は28日の一般討論演説で、竹島の領有権や慰安婦問題を取り上げるとみられるが、「中国の露骨なやり方を見て、逆に日本を激しく批判しにくくなった」(米国人記者)との見方も出ている。
(楊潔チのチは「簾」の「广」を「厂」に、「兼」を「虎」に)

●産経新聞 平成24年7月7日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120717/plc12071708420009-n1.htm
明の上奏文に「尖閣は琉球」と明記 中国主張の根拠崩れる
2012.7.17 08:38

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)のひとつ、大正島について、中国・明から1561年に琉球王朝(沖縄)へ派遣された使節、郭汝霖(かく・じょりん)が皇帝に提出した上奏文に「琉球」と明記されていたことが、石井望・長崎純心大准教授(漢文学)の調査で分かった。中国は尖閣諸島を「明代から中国の領土で台湾の付属島嶼(とうしょ)だった」と主張しているが、根拠が大きく崩れることになる。
 尖閣の帰属に関しては1895(明治28)年に日本が正式に領有した後の1920(大正9)年、魚釣島に漂着した中国漁民を助けてもらったとして中華民国駐長崎領事が石垣の人々に贈った「感謝状」に「日本帝国八重山郡尖閣列島」と明記されていたことが明らかになっている。明代にも琉球側と記していた中国史料の存在が明らかになるのは初めて。
 上奏文が収められていたのは、郭が書いた文書を集めた『石泉山房文集』。このうち、帰国後に琉球への航海中の模様を上奏した文のなかで「行きて閏(うるう)五月初三日に至り、琉球の境に渉(わた)る。界地は赤嶼(せきしょ)(大正島)と名づけらる」と記していた。現在の中国は大正島を「赤尾嶼(せきびしょ)」と呼んでいる。
 石井准教授によると「渉る」は入る、「界地」は境界の意味で、「分析すると、赤嶼そのものが琉球人の命名した境界で、明の皇帝の使節団がそれを正式に認めていたことになる」と指摘している。
石井准教授の調査ではこのほか、1683年に派遣された清の琉球使節、汪楫(おうしゅう)が道中を詠んだ漢詩で「東沙山(とうささん)を過ぐればこれ●山(びんざん)の尽くるところなり」《現在の台湾・馬祖島(ばそとう)を過ぎれば福建省が尽きる》と中国は大陸から約15キロしか離れていない島までとの認識を示していたことも分かった。
 その後に勅命編纂(へんさん)された清の地理書『大清一統志(だいしんいっとうし)』も台湾の北東端を「鶏籠城(けいろうじょう)(現在の基隆(きりゅう)市)」と定めていたことが、すでに下條正男・拓殖大教授の調べで明らかになっている。
 中国は尖閣周辺の石油資源などが明らかになった1970年ごろから領有権を主張し始め、71年12月の外務省声明で「釣魚島などの島嶼(尖閣諸島)は昔から中国の領土。早くも明代にこれらの島嶼はすでに中国の海上防衛区域の中に含まれており、それは琉球(沖縄)に属するものではなく台湾の付属島嶼だった」と根拠づけていた。
 石井准教授は「中国が尖閣を領有していたとする史料がどこにもないことは判明していたが、さらに少なくとも大正島を琉球だと認識した史料もあったことが分かり、中国の主張に歴史的根拠がないことがいっそう明白になった」と指摘している。
(●=門の中に虫)

●産経新聞 平成24年10月10日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121010/plc12101017480011-n1.htm
中国地図「尖閣を日本領と明記」、玄葉外相指摘
2012.10.10 17:47

 玄葉光一郎外相は10日の記者会見で、1960年に中国で発行された世界地図には沖縄県・尖閣諸島が日本名で明記してあると指摘し、尖閣をめぐる中国の領有権主張に反論した。
 外務省によると、尖閣を日本名で明記しているのは中国の「地図出版社」発行の世界地図。「釣魚島」という中国側の呼称を使わず、日本側の呼び名に従って「尖閣群島」と記載し、沖縄の一部として扱っている。
 外相は中華民国時代の20年に、当時の駐長崎領事が「沖縄県八重山郡尖閣列島」と記した感謝状を日本人に出した経緯にも触れ、中国はもともと尖閣を自国領と位置付けていなかったとの認識を示した。
 同時に1895年の閣議決定で沖縄県に編入される前の尖閣に関しては、当時の公文書の内容に照らして中国の領土でないのは明らかだと説明した。
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人権15~わが国の場合

2012-10-13 08:37:16 | 人権
●日本における人権の観念

 世界人権宣言の人間観について検討し、人権を基礎づけ直すには、人間の尊厳と個人の人格に関する考察が必要だと書いてきた。ここでわが国に目を転じ、わが国における人権、人間の尊厳、個人の人格について述べたい。
 わが国には、幕末から明治時代のはじめに、主に英仏の文献の翻訳を通じて、人権の観念が流入した。「天賦人権」等と称され、自由民権運動を経て、大日本帝国憲法において一定の実現を見た。大日本帝国憲法は「臣民の権利」を保障した。その権利は、天皇が国民に与えたものだった。すなわち、闘争によって人民が君主から勝ち取ったのではなく、恩賜によって君主から人民に授けられたものである。「臣民の権利」は日本国民に限定するものであり、国民非国民を問わぬ普遍的・生得的な人権という観念とは異なるものだった。また個人の自由と権利より、国家公共の秩序が優先された。民権より国権が優位に置かれ、国権の伸長の下で民権が保障された。これは今日的に見れば、国際人権規約に定める人民自決権、また国家の独立と主権の確立が優先され、そのもとで個人の自由と権利が保障されるという体制だったわけである。
 大東亜戦争の敗戦後、占領下において日本国憲法が制定された。GHQが秘密裏に英文で起草した原案がもとになった。現行憲法は「基本的人権」の保障を原則の一つとしているとされ、今日、日本人が人権について考える時は、ほとんど現行憲法の思想に基づいている。そして、日本国民の多数は、人権は「人間が生まれながらに平等に持っている権利」と考えている。だが、現行憲法は、人権とは何かを定義していない。定義のないまま「基本的人権」という用語が使われている。人権は前文にはなく、すべての条文のうち、第11条と第97条にのみ現れる。
 現行憲法は、第11条に「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」と定めている。この権利の保障の対象は、日本国民である。だが「基本的人権」には、人間一般の基本的な権利という含意がある。では人間とは何か、人間はなぜそのような権利を持つのか、その根拠は何か、またどうしてその権利を、現行憲法は日本国民に保障するのか。
 現行憲法は、これらについて、具体的に記さぬまま、条文を連ねていく。そして、第97条にようやく、次のように記されていることにぶつかる。
 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」。
 「人類の多年にわたる自由獲得の努力」とは、どういう努力なのか、「過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託された」とは、どういう過去なのか、そしていつどのように信託されたのか。具体的でない。なにより国民に「基本的人権」を信託したのは誰なのか。天皇なのか、過去の世代なのか、GHQなのか、そもそもその主体がはっきりしない。
 もともと人権が「生まれながらに誰もが平等に持っている権利」であるならば、誰かが国民に信託するまでもなく、国民がみな生まれながらに平等に所有しているはずだから、あえて信託する必要はない。その本来的状態を確認するだけで足りる。また、人権が「生まれながらに誰もが平等に持っている権利」であるならば、人類が多年にわたって自由を獲得する努力をしなければならなかったというのもおかしい。第97条の条文は、人権とは普遍的・生得的な権利ではなく、歴史的・社会的・文化的に「発達する人間的な権利」であることを含意していると解さざるを得ない。人権の狭義と広義という分け方で言えば、日本国憲法における人権とは、狭義の人権ではなく、広義の人権であるということになる。
 人権について、こういう具合だから、現行憲法は、人間の尊厳についても、具体的に記していない。そもそも人間の尊厳という概念が盛られていない。条文に出てくるのは「個人の尊厳」である。また出てくるのは、第24条ただ1か所である。その点については、次項で個人についての条文を見たうえで述べることにしたい。

 次回に続く。

中国への対抗の仕方は南シナ海に学べ

2012-10-12 08:48:21 | 尖閣
 昨10月11日の拙稿で、国際政治学者で防衛大学校名誉教授の西原正氏の主張を紹介した。資料として掲げた記事の中で、西原氏は、産経新聞6月8号に掲載された「南シナ海に学び、『空白』を作るな」に触れている。そこで、氏は、中国が南シナ海でやってきたことに日本として学ぶべきことがある、として5つの教訓を挙げている。これは中国の侵攻の仕方とマレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア等の東南アジア諸国の対抗の仕方から得たものである。西原氏が教訓とするのは、次の5点である。

一、「力の空白」を作らない。海上保安庁、自衛隊による警戒、守りを怠らず、そして十分な装備を配備することが重要である
二、接岸およびヘリポートの施設を造って、自衛隊を常駐させ、同時に釣りなどの場とすること。時には首相のような要人が現地を訪れることが必要である
三、日米同盟の強化は言を俟たない。米国が尖閣を日米安保条約の適用範囲としたことは日本側に極めて有利になっている
四、中国の恐喝的報復への対応策を講じておく。また中国の脆弱点を予め研究して、効果的に使えるように用意しておく
五、尖閣防衛の力をつけつつ、位負けせずに、武力衝突を避ける道を探る。ASEAN側が中国との間で協議してきた相互自制の行動規範なども参考になる

 簡潔な表現だが、尖閣問題に軍事的な観点を持って、深く受け止めるべき教訓と言える。
 櫻井よしこ氏は、「週刊新潮」連載の「日本ルネッサンス」第429回「東シナ海で決まる民主党外交の浮沈」(平成22年9月30日号)に次のように書いていた。
 「中国は1992年に南シナ海の西沙、南沙、東沙、中沙諸島の全てを自国領だと宣言した。事実とかけ離れた中国領有権の主張は、同年に米国がフィリピンに保有していた大規模な海軍、空軍の両基地を閉鎖し、撤退したその軍事的空白の中で展開された。ASEAN諸国は怒ったが、中国は力を誇示して、或いは実際に軍事力を行使して、有無を言わさない。
 中国外交のこの手法は現在も変わらない。基本的型として、彼らは史実も現実も無視し、中華帝国的版図を宣言する。漁民或いは漁民を装った軍人を、中国領だと主張する島々や海に進出させる。元々の領有権を保有する国々が船を拿捕したり漁民を捕らえると、それを口実に軍事力を背景にして相手を屈服させるのだ。
 こうして中国は95年初頭までに南沙諸島の実効支配に取り掛かった。現在、南シナ海、特に西沙諸島周辺海域には中国海軍の軍艦が常駐し、『銃撃』も辞さない構えを取り続けている。南シナ海の現実から東シナ海の近未来図を読み取ることができる」と。
 この櫻井氏の発言は、平成22年9月7日に起こった尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の直後に書かれたものである。事件から2年を経過したが、この間、中国は南シナ海での侵攻とよく似た仕方で、じわじわ尖閣へ、沖縄へと触手を伸ばしてきている。
 政府は、この2年間の対応を猛省し、西原氏の挙げる五つの教訓に照らして、わが国の現状と課題を確認し、尖閣防衛の対応を急ぐべきである。それのできない政権は、一刻も早く交代させねばならない。

 以下、西原氏の記事。

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●産経新聞 平成24年6月8日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120608/plc12060803130003-n1.htm
【正論】
「尖閣」危機 平和安全保障研究所理事長・西原正 南シナ海に学び「空白」を作る
な 2012.6.8 03:13

 尖閣諸島をめぐる日中緊張は激化しそうな気配だ。南シナ海諸島をめぐる東南アジア複数国と中国との対立はさらに複雑で、日本にいい教訓を与えてくれる。

≪すきを突いて出てくる中国≫
 南シナ海における最初の領土紛争は、1974年1月ベトナム戦争末期のどさくさに紛れて、中国が艦船と空軍機で、当時、南ベトナムが支配していたパラセル(西沙)諸島から同国兵を排除し、実効支配を始めたことである。ついで88年3月、中国がベトナム統治下のスプラトリー(南沙)諸島の赤瓜礁を攻撃し、ベトナム兵70人を殺害して実効支配下に置いた。
 中国はこのように「力の空白」に乗じて実効支配を広げてきた。92年9月、米海軍がフィリピンから撤退すると、中国は同年11月には漁船に擬装した海洋調査船を多数派遣し、95年2月、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)のパラワン島近くのミスチーフ環礁に軍事構造物を建設した。

≪素早く手打ったマレーシア≫
 中国の動きに敏感に反応したのはマレーシアであろう。同国は85年に、ラヤンラヤン島(長さ約7キロ、幅約2キロの環礁)に人工島を造成し、滑走路とリゾートホテルを建設、海軍を常駐させた。2008年8月、ナジブ同国副首相がラヤンラヤン島を訪問し、翌年3月には、バダウィ首相が夫人、陸海両軍の司令官を帯同して同島の駐屯兵を慰問している。
 これに不満を募らせた中国は、10年4月、「漁船保護」の名目で武装した漁業監視船「漁政311号」など3隻を派遣した。マレーシア軍は駆逐艦2隻、哨戒機を急派して対応したという。
 中国の国家海洋局所属の「海監総隊」の「海監83号」が国営石油会社ペトロナスのガス田海域で資源探査をしていたとの疑いが生じると、マレーシアは、サバ州都コタキナバルに哨戒ヘリを配備する航空基地を設けた。
 東南アジア諸国は、兵器の近代化によって中国に対抗しようとしている。11年の国防費は前年比にして、マレーシアは25・5%、フィリピンは37・6%、ベトナムは24・1%、インドネシアは10・7%の増強ぶりであった。これらの国が主として調達してきたのは潜水艦、対潜ヘリ、戦闘機、早期警戒管制機などである。例えば、ベトナムはロシアから潜水艦を6隻、フリゲート艦2隻、戦闘機20機を購入した。
 中国の台頭、進出をにらみ、外交の舵を対米接近へ切ることも怠りない。10年7月にハノイで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、クリントン米国務長官と楊潔●中国外相が、南シナ海における「航行の自由」と中国の「核心的利益」をめぐり大論争をした折にも、ASEAN側はクリントン支持の発言をした。昨年11月にバリで行われたASEAN首脳会議でも同様の展開になった。
 米国防総省が10年に出した「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)では、東アジアの同盟国との関係強化以外に「インドネシア、マレーシアおよびベトナムとの新しい戦略関係の構築」をうたっている。ベトナム海軍は米海軍との合同演習をここ数年、毎年ベトナム沖で行っており、また米艦船をダナン港などに招いている。マレーシアも静かに米国との関係を強化していると伝えられている。
 中でもフィリピンは米国に急接近している。11年11月には、クリントン長官がマニラ湾に停泊していた米艦船上で米比同盟の重要性を強調した。また今年4月には、スカボロー岩礁で中国漁船を拿捕(だほ)したフィリピン軍艦と釈放を要求する中国巡視船とが対峙(たいじ)していたとき、米比合同海軍演習をパラワン島海域で実施している。そして4月末には、海上安全保障の連携強化を目指す米比閣僚会議(2プラス2)が初開催された。(にもかかわらず、この間、中国はフィリピン産輸入果物の検疫を害虫発見を理由に強化し、中国人観光ツアーを相次いでキャンセルして、漁民の釈放を要求している)

≪日本がくみ取れる5つの教訓≫
 こうみてくると、尖閣問題への教訓は5点に要約できる。
 一、「力の空白」を作らない。海上保安庁、自衛隊による警戒、守りを怠らず、そして十分な装備を配備することが重要である
 二、接岸およびヘリポートの施設を造って、自衛隊を常駐させ、同時に釣りなどの場とすること。時には首相のような要人が現地を訪れることが必要である
 三、日米同盟の強化は言を俟(ま)たない。米国が尖閣を日米安保条約の適用範囲としたことは日本側に極めて有利になっている
 四、中国の恐喝的報復への対応策を講じておく。また中国の脆弱(ぜいじゃく)点を予(あらかじ)め研究して、効果的に使えるように用意しておく
 五、尖閣防衛の力をつけつつ、位負けせずに、武力衝突を避ける道を探る。ASEAN側が中国との間で協議してきた相互自制の行動規範なども参考になる(にしはら まさし)

●=簾の广を厂に、兼を虎に 
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尖閣問題には軍事的観点が必要

2012-10-11 08:49:01 | 尖閣
 尖閣問題には、軍事的な観点を持つことが必要である。最近、軍事に詳しい日米の安全保障の専門家が、尖閣問題に関して注目すべき発言をしており、参考になる。
 まず米議会国家安全保障特別委員会顧問等を歴任した中国の軍事戦略の研究者、リチャード・フィッシャー氏は、次のように語っている。「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」とフッシャー氏は言う。そして、「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告する。中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と見る。また、日本の対応については「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘している。同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」とも語っている。
 一方、国際政治学者で防衛大学校名誉教授の西原正氏は、次のように述べている
 中国について、「今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである」と西原氏は言う。「中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた」。だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある、と西原氏は指摘する。「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の『琉球列島』要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない」と。
 戦後の日本人の大多数は、学校教育で軍事的な知識を習得したり、訓練を受けたりする機会のないまま社会人となっている。防衛大学以外の大学、自衛隊以外の組織では、軍事的な教養を身に着ける機会はほとんどない。そのため、日本人で国際関係を政治的・経済的・文化的観点に軍事的な観点を加えて見ることのできる人は、ごく限られている。だが、今日、日本と中国との関係は、軍事的な観点を抜きに考えることはできない。
 中国は、地図を90度回転させ、大陸側を下にして太平洋側を上に見ると、日本列島、沖縄、南西諸島、台湾ですっぽり蓋をされたような状態になっている。軍事的に、これを第1列島線という。そして、横須賀、小笠原諸島、グアム島を結ぶ線を第2列島線という。中国が太平洋に出ようとする場合、ロシアの存在もあるので、津軽海峡や北方領土の付近からは軍艦を進めることができない。沖縄本島と宮古島の間から出るしかない。そこに中国にとっての尖閣諸島、南西諸島、そして沖縄の軍事的な重要性がある。逆に、日本や米国にとっては、中国が太平洋に覇権を拡大するのを防ぐためにも、尖閣諸島、南西諸島、沖縄は、重要な地域である。
 その点で、フィッシャー氏が「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告し、西原氏が「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ」と指摘していることは、広く注目されるべきと思う。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年10月2日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121002/chn12100207100003-n1.htm
【尖閣国有化】
「日本が譲歩すれば、中国のさらなる侵略招く」 米軍事専門家
2012.10.2 07:08

 【ワシントン=古森義久】中国の軍事戦略を専門に研究する米有力研究機関「国際評価戦略センター」主任研究員のリチャード・フィッシャー氏は1日までに産経新聞と会見し、尖閣諸島に対する中国の攻勢と米国への意味について、「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」と語った。
 中国当局が反日暴動をあおってまで尖閣の主権をこの時期に強く主張し始めた原因について、フィッシャー氏は「単に日本側での尖閣国有化という動きだけでなく、中国にとっての尖閣の戦略的価値への認識と自然資源の重視などの動機がある」と述べた。
 その上で「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告した。
 同氏はまた、「米国は日中両国の軍事衝突の回避を強く望んでおり、中国が尖閣をめぐる現状を変えようとすることに反対だ。そのために同盟相手の日本への有事の防衛誓約を繰り返すこととなる」と指摘。
中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と述べた。
 一方、日本の対応について同氏は「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘。
 「海上保安庁の船だけでも当座の対応はできるだろうが、中国側は軍を投入する攻略作戦の準備を間違いなく進めている。自衛隊が取るべき措置はミサイルの攻撃能力の増強、長距離攻撃用ミサイル搭載の潜水艦の強化、その他の艦艇の配備などだろう」と語った。
 同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」と述べた。
 フィッシャー氏は、米議会国家安全保障特別委員会顧問、米中経済安保調査委員会顧問などを歴任した。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121004/plc12100403070001-n1.htm
【正論】
平和安全保障研究所理事長・西原正 中国は尖閣取り軍事拠点にする
2012.10.4 03:06

 野田佳彦政権が尖閣3島の購入を決定したことで、中国政府は強硬な反対声明だけではなく醜悪な反日デモを誘導し、日本大使館、領事館、日系企業やレストランに大きな損害を与えた。尖閣海域にも公船や漁船を送り込み、海上保安庁の巡視船を威圧している。

≪望めぬ「平穏で安定的な管理」≫
 図らずも、われわれ日本人は、こうした国家間対立に際して中国政府がどういう手に出るのか、改めて経験した。今回の反応は2年前、海保が、巡視艇に体当たりをした中国漁船の船長を拘束したときに、中国政府が取った船長釈放要求のやり方と酷似している。
 自国の主張を押し通すため、相手国をまず非軍事的手段で脅す方法である。前回はフジタ社員4人を拘束したり、レアアース(希土類)の対日輸出を停止したり、日本観光予定者の旅行キャンセルをしたりして船長の釈放を迫った。今回も一部デモの暴徒化の容認、日系工場焼き打ちの放置、日本からの貨物検査での意図的遅延、公船や漁船の尖閣周辺海域遊弋(ゆうよく)の指示、国連総会の場での「日本は盗人」といった口汚い対日非難演説などをし、野田政権を脅かす。
 今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである。9月21日付産経新聞は、尖閣から離れた所にフリゲート艦2隻が現れたと報じている。尖閣海域に哨戒機、戦闘機、駆逐艦、潜水艦、さらには新しく配備された空母「遼寧」などを展開してくる事態も想定しておいた方がいい。野田首相の言う「平穏かつ安定的な島の管理」は当分、望めそうにない。

≪パラセルは武力で支配下に≫
 筆者は6月8日付の本欄「南シナ海に学び、『空白』を作るな」で、中国が南シナ海でやってきたことに、日本として学ぶべき教訓がある、と論じた。中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。
 1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた。

≪太平洋の安全に向け防衛を≫
 だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある。尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。
 その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制(けんせい)するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の「琉球列島」要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない。1938年、チェンバレン英首相が、ヒトラーの領土要求に対して、宥和(ゆうわ)策をとったことが、第二次世界大戦の誘因となったことが想起される。
 尖閣諸島の現状を維持するためには、巡視船に乗り組む海上保安官の交代や、船の燃料補給を確実にすることが必要である。那覇空港は、航空管制の権限が国土交通省にあるため、民間機離着陸を優先し、空港を共用する航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)が妨げられているとも聞く。こうした態勢を早急に改善することが尖閣防衛で生きてくる。海上自衛隊の艦船を宮古島などに常駐させておくことも、将来的には魚釣島に何らかの警戒監視施設も必要だ。
 中国は尖閣諸島に対する領有権の根拠として、最近は日本の軍国主義、植民地主義などの過去を持ち出している。これらに対して、日本政府は国連総会などで具体的に強く反論しだした。これは高く評価したい。中でも、「中国政府の領土要求は1970年代になって始まった」という反論は、極めて効果的である。この点を、何度も何度も、ネットや記者会見、講演などで繰り返すべきである。
 中国は1950年代、60年代には、尖閣を日本の領土だと認めていたことを、中国発行の地図や人民日報の記事(例えば、1953年1月8日付)で紹介するキャンペーンを大々的に行うことも有効である。そうすれば、中国国内でも、自国政府の立場への批判や、「愛国無罪」への反省を促せるかもしれない。事実、8月25日に、広東省の民間企業の幹部がツイッターでこれらの資料を提示して、「尖閣諸島は日本領土」という議論を展開したとの情報もある。
 中国へのしたたかな反論とともに、今後、両国関係が相当悪化することに備え、日系工場の「要塞化」や、対中投資を抑えての対東南アジア・インド投資戦略が必要である。日本経済の過度の中国市場依存はリスクが大きすぎる。(にしはら まさし)
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巨大地震に備え、地方分散を~藤井聡氏

2012-10-10 09:39:03 | 地震
 私は10月7日から9日にかけて、巨大地震に関する文章を日記に掲載した。首都直下地震はこのままでは国家存亡に関わるものとなる。南海トラフ地震は、死者最大32万3千人と予想される。巨大地震で製油所の8割が機能不全となり、わが国は極めて深刻な事態に陥るなどと書いた。
 そこで今、わが国がなすべき重要な課題が、国土の強靭化である。国土強靭化については、私の日記・サイト等でもしばしば紹介してきたが、京都大学大学院教授の藤井聡氏が提唱する考え方である。藤井氏はちょうどタイミングよく、産経新聞平成24年10月8日号に、その思想と具体的な方針を書いている。

 藤井氏によると、強靭化とは「巨大災害でも、何とか致命傷を避けて被災を最小化したうえで、迅速に回復することを見通しつつ、限られた財源の中で最善を尽くそうとする」ことである。
 国土強靭化については、財政が厳しい今、強靱化対策など無理だなどという意見があるが、財源が乏しい中で超巨大地震対策を図ろうというのが強靱化である。十分な財源があるのなら、強靱化ではなく災害を完全に防ぐ防災を志せば良い。だが、それは現実的には不可能である。だからこそ、従来の防災とは異なる対策が求められている。その一つが「想定被災地からの事前疎開」、つまり「地方分散」という考え方だと藤井氏は言う。
 首都直下地震・南海トラフ地震は、日本経済に「壊滅的な打撃」を与えるものとなる。そこで、首都圏と太平洋ベルトという「想定被災地に過度に集中した都市機能を、日本海側や北海道、中国、四国、九州といった地方部へ分散(つまり、事前疎開)させること」が急務である。
 藤井氏によると、「地方分散化」は、第一に、「災害の一次被害がその分、減少する」。第二に、「仮に、太平洋側の諸都市が破壊されたとしても」「地方都市が温存されて、日本全体が致命傷を負うことは避けられる」。第三に、「災害を無傷か軽傷で生き延びた地方都市は、被災地救援を行うことも可能になる」。これらの効果によって、巨大な自然災害が発生しても、「致命傷を避け、被害を最小化し、迅速に回復できる」。こうした国土強靱化によって、「日本は亡国の危機を免れ得る」と藤井氏は説明する。
 たとえば、上越・九州・北陸での「新幹線を中心にした交通インフラへの投資は、10年、20年という歳月を経て、沿線諸都市の飛躍的な発展を促してきた」。「こうした次世代投資を国家プロジェクトとして展開していくと同時に、地方分散化へと誘導する税制優遇策などの各種ソフト施策を展開していくことこそが、過度な一極集中を是正し、都市機能を分散させて、国土を抜本的に強靱化させる、最も効果的かつ現実的なシナリオなのである」と藤井氏は主張している。
 全政治家、全国民が今、傾聴すべき提案だと思う。
 なお、本稿では藤井氏は国土強靭化の経済効果について言及していないが、藤井氏は「富国強靭」というスローガンを掲げている。国土強靭化はデフレ脱却のための主要政策となり得るものである。巨大地震への備えという有意義な公共事業を展開する大規模な財政出動及びそれと連携した金融政策を数年間にわたって計画的に実行すれば、雇用の創出、所得の増加、GDPの増加、インフラの整備、地方の振興等を実現できる。日本再建のための経済社会政策の一本の柱とすべきものが、国土強靭化である。

 以下は藤井氏の記事。

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●産経新聞 平成24年10月8日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121008/lcl12100803130000-n1.htm
【正論】
京都大学大学院教授・藤井聡 巨大地震に備え「地方分散」せよ
2012.10.8 03:12 [正論]

 南海トラフ地震や首都直下地震への対策が必要であるとの認識は国民的に共有されつつあるように思う。それとともに、その対策である「国土強靱(きょうじん)化」の重要性も徐々に認識され始めているようだ。例えば、この度の自民党総裁選でも、国土強靱化は重要な論点の一つとして報道されている。

≪防災とは違う考え方が必要≫
 しかし、「強靱化」の考え方や具体的方針は、一般には十分に理解されていると言い難い。大手メディアでは「財政が厳しい今、強靱化対策なんて無理だ」などと伝えられることもしばしばである。が、それは完全な誤解だ。
 そもそも、財源が乏しい中で超巨大地震対策を図ろうというのが「強靱化」である。「強靱」とは強くしなやかな様を言う。巨大災害でも、何とか致命傷を避けて被災を最小化したうえで、迅速に回復することを見通しつつ、限られた財源の中で最善を尽くそうとするのが「強靱化」なのだ。
 十分な財源があるのなら、「強靱化」ではなく災害を完全に防ぐ「防災」を志せば良い。が、それは現実的には不可能だ。例えば、首都圏の十分な耐震補強には1000兆円が必要だともいわれている。その財源の確保は今の日本の国力からいって不可能だ。さらにいえば、科学的に危惧される「富士山大噴火」には、効果的対策が見当たらないのが実情だ。
 だからこそ、従来の「防災」とは異なる対策が求められているのであり、その一つとして現実味を帯びてくるのが、想定被災地からの事前疎開、つまり「地方分散」という考え方なのである。
 我が国の人口や都市機能の3割は、首都圏に集中している。そして、そこを直撃するのが首都直下地震だ。南海トラフ地震が襲いかかるのも、大阪、名古屋の両都市圏をはじめ全土の4割もの都市機能が集中する、(首都圏を除く)太平洋ベルトの諸都市だ。迫り来る巨大地震は、日本経済に壊滅的打撃を与え得るのである。

≪地方主要都市の「温存」を≫
 こうした国土の構造上の脆弱性を克服して、国土構造そのものを「強靱化」していくためには、想定被災地に過度に集中した都市機能を、日本海側や北海道、中国、四国、九州といった地方部へ分散(つまり、事前疎開)させることが急務となるのである。そして、「地方分散化」は、様々な意味で日本の強靱化に貢献する。
 第一に、分散化することによって、災害の一次被害がその分、減少する。第二に、仮に、太平洋側の諸都市が「破壊」されたとしても、分散化していれば、地方都市が「温存」されて、日本全体が致命傷を負うことは避けられる。第三に、災害を無傷か軽傷で生き延びた地方都市は、被災地「救援」を行うことも可能になる。
 地方分散がうまくいけば、巨大な自然災害が発生しても、「致命傷を避け、被害を最小化し、迅速に回復できる」のであり、国土全体が強くしなやかなものとなる。これこそ、想定被災地における直接対策を上回る重大な意味を持つ「国土そのものの強靱化」なのであり、これによって、日本は「亡国」の危機を免れ得る。今や、単に防災や減災にとどまらない「国土強靱化」という言葉が、国会などでも盛んに使われだしているのも、そのためだといえる。
 むろん、ここまで一極集中が進んだ今日の日本で、時計の針を巻き戻すような地方分散化は必ずしも容易ではないだろう。しかし、例えば、全国知事会が目下、主張している「日本海軸」や「第二太平洋軸」(四国新幹線)といったインフラ投資を軸とした地域の経済成長策が地方分散化をもたらすことは間違いないだろう。

≪新幹線などへの投資で誘導≫
 近年の国土の歴史的な変遷を見ても、それは一目瞭然だ。
 例を挙げると、かつて北陸の中心都市だった「加賀百万石」の金沢を抜き去って、新潟市が日本海側唯一の政令指定市になった背景に、「上越新幹線」の開業があったことは確実だ。最近でいえば、九州新幹線開業に伴う熊本市の政令指定市化が記憶に新しい。さらには、出遅れたその金沢でも、北陸新幹線計画が決定された結果、現在、駅前の投資が大きく進展していることはよく知られている。新幹線を中心にした交通インフラへの投資は、10年、20年という歳月を経て、沿線諸都市の飛躍的な発展を促してきたのである。
 こうした次世代投資を国家プロジェクトとして展開していくと同時に、地方分散化へと誘導する税制優遇策などの各種ソフト施策を展開していくことこそが、過度な一極集中を是正し、都市機能を分散させて、国土を抜本的に「強靱化」させる、最も効果的かつ現実的なシナリオなのである。
 こうした強靱化の基本的な思想と方針を十全に理解した政権が「近いうち」に我が国に誕生することを、是非とも祈念したい。万が一にもその願いが叶(かな)わないのなら、日本国家が「近い将来」に、安寧ある繁栄を続けられない状態に陥ってしまうことは、残念ながら避け難いのである。(ふじい さとし)
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関連掲示
・拙稿「首都直下地震は国家存亡に関わる」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/961ed5d5f0dfbb3c7563dfe69ec94391
・拙稿「南海トラフ地震、死者最大32万3千人を避けるには」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/75a75af9949b910e1c909d3db5535b3e
・拙稿「巨大地震で製油所8割が機能不全に」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/a684b9031262ec389c2d6cde55d815e0
・拙稿「東日本大震災からの日本復興構想」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13l.htm
第2章 藤井聡氏の提言
・拙稿「富国強靭を国家の大方針に~藤井聡氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/94960fedf33db0f3716984e21b28fd7d

巨大地震で製油所8割が機能不全に

2012-10-09 10:24:26 | 地震
 8月29日内閣府は、南海トラフ巨大地震について、死者が最大32万3000人に達するとの被害想定を公表したが、その5日前、経済産業省は巨大地震の製油所施設への影響をまとめたという報道がされた。
 報道によると、経産省は、政府の中央防災会議の作業部会による中間報告を分析し、南海トラフ巨大地震と首都直下地震が発生した場合、国内の約8割の製油所施設が「液状化現象などが加われば、相当程度、機能不全に陥る」とする分析結果をまとめたという。
 その分析結果が、8月29日に発表された内閣府による南海トラフ巨大地震の予測と連携しているものかどうかは、明らかでない。
 東日本大震災の発生後、一部製油所が操業停止に追い込まれた。石油元売り最大手のJX日鉱日石エネルギーは、仙台製油所(宮城県)、鹿島製油所(茨城県)、根岸製油所(神奈川県)が地震や津波の影響で操業を停止した。3製油所の精製能力はJXの能力の5割近くを占める。また東燃ゼネラル石油や火災に見舞われたコスモ石油の各製油所も地震で操業を停止した。東日本地域の製油所11か所のうち、一時は5か所が機能不全に陥った。そのため、全国の生産能力が地震発生前に比べて3割も低下した時期があった。ガソリン不足は関東地方以北を中心に深刻な状態となった。製油所の復旧には、半年から1年かかった。
 現代文明は、石油文明である。石油は、経済社会の血液である。全国約8割の製油所施設が機能不全に陥って、復旧まで半年、1年かかるならば、その間に、わが国は極めて深刻な状態に陥る。石油というと自動車や暖房機の燃料がまずイメージされるが、工業製品から食糧まで今日、ものの生産には石油が欠かせない。石油の供給が大幅にダウンした状態が続けば、衣食住のすべてにわたって、大きな困難が生じる。まさに死活問題となる。
 ガソリンを災害時に有効活用するための石油備蓄法や石油需給適正化法の改正が急がれる。また貯蔵タンクの耐震化、貯蔵場所の日本海側・北海道・九州への分散等を早急に進め、災害に耐え、力強く立ち直ることのできる体制を整えていく必要がある。国土強靭化計画に、重要課題の一つとして入れなければならない。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年8月24日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120824/dst12082407180001-n1.htm
【巨大地震】
南海トラフ・首都直下地震 製油所8割が機能不全に 経産省調査
2012.8.24 07:15

 東海、東南海、南海などの地震が連動して起きる「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」によるエネルギー供給への影響を調査してきた経済産業省が、両地震が発生した場合、国内の約8割の製油所施設が「機能不全に陥る」とする分析結果をまとめたことが23日、分かった。これを受け、同省は7月末、各製油会社に貯蔵タンクなどが両地震に耐えうるか調査を指示したが、市場や消費者のパニックを懸念して秘密裏に実施した。
 同省は、政府中央防災会議の作業部会が7月19日にまとめた両地震の中間報告を独自に分析。専門家の意見を参考に全国27カ所の製油所について調べたところ、太平洋側の海岸近くに集中する22施設で「影響を受ける」との結果が出た。耐震強度に現行法上の問題はないものの、「巨大地震による液状化現象などが加われば、相当程度、機能不全に陥る」と結論づけた。
 同省関係者は「石油貯蔵タンクは数十年に一度の地震に耐えられるが、百年に一度の巨大地震は想定していない」と断言した。



 経産省は製油会社の調査も踏まえ、貯蔵タンクなどの耐震化スケジュールを来年3月までに決める方針。耐震化に必要な設備費の補助も平成26年度に予算化する方向で調整している。
 中央防災会議作業部会の中間報告は、高さ10メートル以上の津波が11都県を襲うと想定される南海トラフ巨大地震を「東日本大震災を超え、国難とも言える巨大災害」と位置付けた。また、発生確率が「30年以内に70%」とされるマグニチュード7クラスの首都直下地震については「わが国の存亡に関わる」としている。
 昨年3月11日の東日本大震災時には、仙台市など、全国3カ所の製油施設が津波や火災で半年から1年間も操業を停止。生産能力が地震発生前と比べて3割もダウンした時期があった。
 ただ、ガソリンを災害時に有効活用するための石油備蓄法や石油需給適正化法の改正案などの関連法案は今国会成立が危ぶまれており、危機管理の行き届かない状態が続きそうだ。
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南海トラフ地震、死者最大32万3千人を避けるには

2012-10-08 08:38:35 | 地震
 昨日、首都直下地震は国家の存亡に関わると書いた。これに次ぐ危険性を持っているのが、南海トラフ地震である。
 8月29日、内閣府は、東海・東南海・南海地震の震源域が連なる南海トラフの巨大地震について、死者は最大32万3000人に達するとの被害想定を公表した。東日本大震災は死者・行方不明者の総数が約1万8700人ゆえ、その20倍近くであり、平成16年(2004)のスマトラ島沖地震の死者約28万人を上回る世界最大規模の巨大災害となる。マグニチュードは9・1と想定し、最大34メートルの津波が太平洋岸を襲い、最大約238万棟が全壊・焼失するという。範囲は関東以西、東海・近畿・四国・九州の30都府県に及ぶ広域で甚大な被害が出ると予想している。
 南海トラフに震源域が連なる東海・東南海・南海地震は、30年以内の発生確率がそれぞれ88%、70%程度、60%程度と予測される。これらが連動した場合が、最大規模の巨大地震となる。都府県別の死者は静岡が10万9000人と最多となるという。
 内閣府が予測する南海トラフ地震は、死者の約7割となる23万人は津波によるものと想定。津波は広い範囲で高さ20メートル前後となり、最大は高知県土佐清水市と黒潮町で34メートル。静岡県御前崎市の浜岡原発は19メートルの津波で敷地が水没する恐れがある。東京都区部や大阪市でも3~5メートルになるという。揺れは名古屋市、静岡市など10県151市区町村で震度7と推定。建物の倒壊で、8万2千人の犠牲者が出ると想定している。
 南海トラフ地震の対策としては、東海地震の直前予知を目指す大規模地震対策特別措置法(大震法)をはじめとする現行の対策は、東海地震と東南海・南海地震が切り離されている。3地震の連動やM9級超巨大地震に対応できる特別法の制定が急がれる。
 首都直下地震にしても南海トラフ大地震にしても、いざ発生すれば日本は国家的な危機に陥る。藤井聡京大大学院教授が提唱し、自民党が政策に取り入れた国土強靭化計画を、国家を挙げて断行する必要がある。取り組みが遅れれば遅れるほど、巨大地震発生による被害と被災後の復興の負荷は大きくなる。政治家と国民は将来のために今、決断しなければならない。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年8月29日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120829/dst12082918080009-n1.htm
【南海トラフ巨大地震】
死者最大32万人、全壊は約238万棟想定 内閣府
2012.8.29 18:07

 東海・東南海・南海地震の震源域が連なる南海トラフ(浅い海溝)の最大級の巨大地震について内閣府は29日、死者は関東以西の30都府県で最大32万3000人に達するとの被害想定を公表した。マグニチュード(M)9・1の地震で最大34メートルの津波が太平洋岸を襲い、震度7の強い揺れなどで最大約238万棟が全壊・焼失すると推定。東海地方から九州までの広い範囲で甚大な被害の恐れがあり、国や自治体に防災対策の抜本的な強化を迫るものとなった。
 死者数の最大は東日本大震災(死者・行方不明約1万8700人)の20倍近い超巨大災害で、2004年のスマトラ島沖地震(約28万人)を上回る世界最大規模。ただ、南海トラフで起きる次の地震を想定したものではなく、発生頻度は極めて低いとした。死者数は幅があり、最小の場合は約3万2000人になる。
 東海・東南海・南海地震が同時に発生し、さらに九州東部沖の日向灘や、津波が大きくなる領域の断層も連動する場合を想定。推計した4つのケースのうち、東海地方が大きく被災するケースで死者が8万~32万3000人と最悪になった。
 平成15年の中央防災会議の想定と比べて死者は13倍と大幅に増加。津波による死者は23万人で全体の7割を占める。都府県別の死者は静岡が10万9000人と最多で、和歌山8万人、高知4万9000人。津波は広い範囲で高さ20メートル前後となり、最大は高知県土佐清水市と黒潮町の34メートル。中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)は19メートル、東京都区部や大阪市は3~5メートル。浸水面積は最大1015平方キロメートルで東日本大震災の1・8倍。揺れは名古屋市、静岡市など10県151市区町村で震度7と推定した。
 内閣府は大震災で想定外の巨大地震が起きた教訓を踏まえ、同じ仕組みで地震が起きる南海トラフの検討会と作業部会を設置。想定した巨大地震が発生すれば国家的な危機に陥る恐れがあり、会見した中川正春防災担当相は「統一的な対策を推進するため、特別措置法制定の具体的な検討を始めたい」と述べた。
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首都直下地震は「国家存亡に関わる」

2012-10-07 08:36:46 | 地震
 我が国は国内外の社会的諸課題に取り組むと共に、大規模自然災害、特に巨大地震への備えを着実に進める必要がある。今後、国家最高指導者に選ばれるべき政治家は、こうした諸課題への取り組みを強力に推進できる人物でなければならない。
 政府の中央防災会議の防災対策推進検討会議は、7月19日、首都直下地震に備え、当面取り組むべき課題などをまとめた作業部会の中間報告を公表した。
 報告は「首都直下地震は国家の存亡に関わるもの」とし、「東日本大震災を踏まえ、現行の対策を検証し、その充実・強化を図ることは喫緊の課題である」と述べている。その通りである。
 また、画期的なのは、首都圏が壊滅的な被害を受けた場合を想定し、緊急災害対策本部を置く代替拠点候補を具体的に挙げたことである。札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡の5政令都市がそれである。「首都直下Xデー」(藤井聡氏)に備え、首都機能のバックアップ体制を整えるという課題とともに、緊急災害対策本部の設置場所も早急に選定、準備されるべきである。
 緊急対策本部を設置する場合、誰が本部長職に就くかを決めておく必要がある。この点に関わってくるとして、私は、新憲法私案に非常事態条項を設けることを提案しているが、さらに、内閣総理大臣正副の代務者を定めることを提案している。総理代務者条項は、次の通りである。

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第九十九条 内閣総理大臣及び内閣総理副大臣にともに事故あるとき、または内閣総理大臣及び内閣総理副大臣がともに欠けたときは、以下の順位に従って、すみやかに代務者がその職務権限のすべてを代行する。
一 内閣官房長官
二 外務大臣
三 財務大臣
四 総務大臣
2 前項に定める代務者が代行を行えず、または政府が機能しない事態が生じた場合は、以下の順位に従って特別代務者が代行する。
一 東京都知事
二 大阪府知事
三 愛知県知事
3 前2項の第四位以下は、人口の多い府県の順に、その知事とする。
4 代務者または特別代務者は、その置くべき事由がやんだときは、すみやかにその職を退くものとする。

http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08h.htm
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 2項において、特別代務者として地方自治体の知事を挙げたのは、首都圏における非常事態を想定したものである。首都直下地震、外国によるテロやミサイル攻撃等を念頭に置いている。
 先の中央防災会議作業部会の提案は、単に緊急対策本部の設置場所の選定にとどまらず、国家非常事態対応体制の整備へと具体化されなければならない。その具体化を実現できる政治家が、国家最高指導者に求められている。
 以下は関連の報道記事。

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●産経新聞 平成24年7月19日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120719/dst12071922140013-n1.htm
首都直下地震対策「国家の存亡に関わる」 中央防災会議、危機感あらわ
2012.7.19 22:13

 「首都直下地震は国家の存亡に関わるものであり、東日本大震災を踏まえ、現行の対策を検証し、その充実・強化を図ることは喫緊の課題である」
 中央防災会議の作業部会は、衝撃的ともいえる表現で、首都直下地震を迎え撃つ覚悟を国に求めた。
 大震災の発生で首都圏をのせた北米プレート(岩板)のバランスが崩れ、その影響とみられる誘発地震が首都圏を含む広範囲で頻発している。政府の地震調査委員会が「30年以内の発生確率は70%」としてきたマグニチュード(M)7級の首都直下地震の切迫性はさらに高まったと、多くの地震学者はみている。
 中央防災会議は平成17年に予防から応急対応、復旧・復興までの防災対策のマスタープランである「首都直下地震対策大綱」を策定している。今回の中間報告では、これまでの対策では十分でない分野を中心に、当面取り組むべき対策として「政府の業務継続」「帰宅困難者対策」「避難者対策」を挙げた。
 政府機能の代替拠点候補として、東京圏以外の都市が具体的に示されたのは今回が初めて。代替拠点の設定は、テロなどの地震以外の不測の事態に備える意味もあるといった議論も交わされたという。
 今冬までにまとめる被害想定の見直し結果は、従来の死者約1万人、経済被害112兆円を超える規模になるものとみられる。木造住宅密集地の火災対策をはじめ、中間報告で示された項目以外にも、緊急性を要する課題は多い。(中本哲也)

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120719/dst12071921140011-n1.htm
首都直下地震 大阪など5都市にも代替拠点を 中央防災会議中間報告
2012.7.19 21:14

 東日本大震災を教訓に地震防災対策の抜本的な見直しを進める中央防災会議の防災対策推進検討会議は19日、大震災後に切迫性が高まったと指摘される首都直下地震に備え、当面取り組むべき課題などをまとめた作業部会の中間報告を公表した。
 首都圏が壊滅的な被害を受けた場合などに緊急災害対策本部を置く代替拠点候補として、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡の5政令都市を挙げた。南海トラフの巨大地震についても津波対策の強化を柱とする作業部会の中間報告を公表した。
 政治、行政、経済の中枢機能が高度に集積した首都圏を襲う直下地震について作業部会(主査=増田寛也・野村総合研究所顧問)は「わが国の存亡に関わる」と、これまでにない強い表現で防災対策の充実、強化を急ぐよう求めた。
 中間報告では、政府全体の業務継続方針の策定を最重点課題とし、維持すべき必須機能として「内閣機能」「被災地への対応」「国民生活の基盤維持」「経済・金融の安定」「防衛機能・治安維持」「外交機能」を挙げた。
 官邸が被災した場合の緊急災害対策本部は現在、内閣府(中央合同庁舎5号館)、防衛省、立川広域防災基地(立川市)に設置されることになっているが、東京圏外の代替拠点は設定されていない。
 作業部会は「東京圏での政府機能継続が原則」としたうえで、首都圏の広範囲が壊滅的な被害を受けた場合などに備え、東京圏外にも代替拠点をあらかじめ設定し、順位を定めておく必要があるとし、候補として公共機関などの機能が集積した札幌など5政令都市を列挙した。
 作業部会は被害想定の見直し結果を受けて、来春までに対策の全体像をまとめる。
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関連記事
・拙稿「『首都直下Xデー』に備えよ~藤井聡氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/ffecf2106e0f1361d7a4a210b2d9edea

人権14~個人の人格

2012-10-06 08:36:06 | 人権
●個人の人格

 次に、人格について述べよう。世界人権宣言は、第22条に次のように記している。
 「すべて人は、……自己の尊厳と自己の人格の自由な発展(the free development of his personality)とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する」
 ここに、自己の尊厳と自己の人格とあるのは、一般的に言えば人間の尊厳と個人の人格となる。そして、「宣言」は、人間は人間としての尊厳を持つとともに、各個人が人格を持つ存在だという認識を示している。
 カントは、人間には、理性に従って道徳的な実践を行う自律的な人格を持つことによって、尊厳があるとした。私はこのカントの思想が「宣言」の人間観に影響を及ぼしていると思う。世界人権宣言の人間観のもとになっているのは、先に書いたようにロック=カント的な人間観であり、それが現代の国際社会の人間観に基本的な枠組みを与えていると私は見ている。
 ここで人格とは、英語 personality、独語 personlichkeit、仏語 personnalite の訳語である。どれも人を意味する person をもととする。person はギリシャ語のペルソナ、「俳優の付ける面」を語源とし、「面を付ける人」、さらに「人」へと転じた。ロングマン英語辞典は、personality を「someone’s character, especially the way they behave toward other people」と説明している。他者との関係における自己、他者から見た自己という意味合いが、日常語の personality には強い。
 personality 等の訳語である日本語の人格は、人柄、人品を意味する。こうした日常的に使われる人格という用語を、哲学では道徳的行為の主体、法学では権利義務が帰属し得る主体の意味で用いている。主体とは、対象や環境に対して、能動的に働きかけるものである。主体は、近代西洋思想の基本概念のひとつで、主体―客体(subject-object)という対をなす。認識を主にする時は、主観―客観という。主体・主観は、歴史的・社会的・文化的に限定されるものであり、間主体的・共同主観的(inter-subjective)である。客体は対象ともいう。主体は対象でもあり、本稿では、主体間の相互性を表すために、主体を主体―対象ともいう。
 人格は、人間の心身の発達の過程で形成され、成長・発展を続けていく。植物は、種子→芽→葉→花→実と、生長の過程で形態を変化させていくが、そこに一貫して持続しているものがある。それが植物の本体としての生命である。人間も、精子→受精卵→胎児→幼児→少年→青年→老年→死者と、成長の過程で形態を変化させていくが、そこに一貫して持続しているものが、生命である。そして、人間においては、生命だけでなく、生命とともに成長する精神がある。この生命的精神的存在を社会的な実践の主体ととらえて、人格という。
 先に書いたように、人間は個人的存在であるとともに、社会的存在である。人間は、家族という集団を構成する。個人は家族の一員として生まれ、家族において成長する。個人は親子・兄弟・姉妹・祖孫等の家族的な人間関係において、人格を形成する。そして親族や地域等の集団の一員として、そこにおける社会的な関係の中で、人格を成長・発展させていく。
 近代西欧では、個人の自由と権利の保障・拡大が追及された。だが、自由と権利は、それ自体が目的ではない。人格の成長・発展こそが、目的である。自由と権利は、人格の形成・成長・発展のために必要な条件であり、また条件に過ぎない。条件と目的を混同してはならない。国家が国民に自由と権利を保障するのは、個人を人格的存在ととらえ、人格の形成・成長・発展のために、自由と権利を保障するというものでなければならない。
 自由と権利の保障は、個人の欲求を無制限に認めるものではない。人は人格的存在であるという認識を欠いたならば、自由は放縦となり、権利は欲望の正当化になる。人権という言葉は、今日しばしば放縦や欲望の隠れ蓑になっている。私は、人格という概念を欠いたまま、自由と権利を人権条約や各国憲法で保障することは、自由と権利が目的化されてしまい、利己的個人主義を助長するおそれがあると考える。
 人格は、自己にだけでなく、他者にも存在する。人は他者にも人格があることを認め、互いにそれを尊重し合わねばならない。個人の人格の発展は、自己のためのみでなく、他者のためともなり、また社会の公益の実現につながるものでなくてはならない。自他は互いに人格の成長・発展を促す共同的な存在であり、自由と権利は相互的な人格的成長・発展のために、必要な条件として、保障されるべきものである。
 世界人権宣言は、一定の人間観を示しながら、人間の尊厳と個人の人格について、具体的に述べていない。私は、「発達する人間的な権利」としての人権を基礎づけ直すためには、ここまで書いてきたような考察を進めることが必要だと考える。

 次回に続く。