尖閣問題には、軍事的な観点を持つことが必要である。最近、軍事に詳しい日米の安全保障の専門家が、尖閣問題に関して注目すべき発言をしており、参考になる。
まず米議会国家安全保障特別委員会顧問等を歴任した中国の軍事戦略の研究者、リチャード・フィッシャー氏は、次のように語っている。「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」とフッシャー氏は言う。そして、「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告する。中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と見る。また、日本の対応については「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘している。同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」とも語っている。
一方、国際政治学者で防衛大学校名誉教授の西原正氏は、次のように述べている
中国について、「今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである」と西原氏は言う。「中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた」。だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある、と西原氏は指摘する。「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の『琉球列島』要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない」と。
戦後の日本人の大多数は、学校教育で軍事的な知識を習得したり、訓練を受けたりする機会のないまま社会人となっている。防衛大学以外の大学、自衛隊以外の組織では、軍事的な教養を身に着ける機会はほとんどない。そのため、日本人で国際関係を政治的・経済的・文化的観点に軍事的な観点を加えて見ることのできる人は、ごく限られている。だが、今日、日本と中国との関係は、軍事的な観点を抜きに考えることはできない。
中国は、地図を90度回転させ、大陸側を下にして太平洋側を上に見ると、日本列島、沖縄、南西諸島、台湾ですっぽり蓋をされたような状態になっている。軍事的に、これを第1列島線という。そして、横須賀、小笠原諸島、グアム島を結ぶ線を第2列島線という。中国が太平洋に出ようとする場合、ロシアの存在もあるので、津軽海峡や北方領土の付近からは軍艦を進めることができない。沖縄本島と宮古島の間から出るしかない。そこに中国にとっての尖閣諸島、南西諸島、そして沖縄の軍事的な重要性がある。逆に、日本や米国にとっては、中国が太平洋に覇権を拡大するのを防ぐためにも、尖閣諸島、南西諸島、沖縄は、重要な地域である。
その点で、フィッシャー氏が「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告し、西原氏が「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ」と指摘していることは、広く注目されるべきと思う。
以下は関連する報道記事。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成24年10月2日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121002/chn12100207100003-n1.htm
【尖閣国有化】
「日本が譲歩すれば、中国のさらなる侵略招く」 米軍事専門家
2012.10.2 07:08
【ワシントン=古森義久】中国の軍事戦略を専門に研究する米有力研究機関「国際評価戦略センター」主任研究員のリチャード・フィッシャー氏は1日までに産経新聞と会見し、尖閣諸島に対する中国の攻勢と米国への意味について、「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」と語った。
中国当局が反日暴動をあおってまで尖閣の主権をこの時期に強く主張し始めた原因について、フィッシャー氏は「単に日本側での尖閣国有化という動きだけでなく、中国にとっての尖閣の戦略的価値への認識と自然資源の重視などの動機がある」と述べた。
その上で「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告した。
同氏はまた、「米国は日中両国の軍事衝突の回避を強く望んでおり、中国が尖閣をめぐる現状を変えようとすることに反対だ。そのために同盟相手の日本への有事の防衛誓約を繰り返すこととなる」と指摘。
中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と述べた。
一方、日本の対応について同氏は「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘。
「海上保安庁の船だけでも当座の対応はできるだろうが、中国側は軍を投入する攻略作戦の準備を間違いなく進めている。自衛隊が取るべき措置はミサイルの攻撃能力の増強、長距離攻撃用ミサイル搭載の潜水艦の強化、その他の艦艇の配備などだろう」と語った。
同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」と述べた。
フィッシャー氏は、米議会国家安全保障特別委員会顧問、米中経済安保調査委員会顧問などを歴任した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121004/plc12100403070001-n1.htm
【正論】
平和安全保障研究所理事長・西原正 中国は尖閣取り軍事拠点にする
2012.10.4 03:06
野田佳彦政権が尖閣3島の購入を決定したことで、中国政府は強硬な反対声明だけではなく醜悪な反日デモを誘導し、日本大使館、領事館、日系企業やレストランに大きな損害を与えた。尖閣海域にも公船や漁船を送り込み、海上保安庁の巡視船を威圧している。
≪望めぬ「平穏で安定的な管理」≫
図らずも、われわれ日本人は、こうした国家間対立に際して中国政府がどういう手に出るのか、改めて経験した。今回の反応は2年前、海保が、巡視艇に体当たりをした中国漁船の船長を拘束したときに、中国政府が取った船長釈放要求のやり方と酷似している。
自国の主張を押し通すため、相手国をまず非軍事的手段で脅す方法である。前回はフジタ社員4人を拘束したり、レアアース(希土類)の対日輸出を停止したり、日本観光予定者の旅行キャンセルをしたりして船長の釈放を迫った。今回も一部デモの暴徒化の容認、日系工場焼き打ちの放置、日本からの貨物検査での意図的遅延、公船や漁船の尖閣周辺海域遊弋(ゆうよく)の指示、国連総会の場での「日本は盗人」といった口汚い対日非難演説などをし、野田政権を脅かす。
今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである。9月21日付産経新聞は、尖閣から離れた所にフリゲート艦2隻が現れたと報じている。尖閣海域に哨戒機、戦闘機、駆逐艦、潜水艦、さらには新しく配備された空母「遼寧」などを展開してくる事態も想定しておいた方がいい。野田首相の言う「平穏かつ安定的な島の管理」は当分、望めそうにない。
≪パラセルは武力で支配下に≫
筆者は6月8日付の本欄「南シナ海に学び、『空白』を作るな」で、中国が南シナ海でやってきたことに、日本として学ぶべき教訓がある、と論じた。中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。
1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた。
≪太平洋の安全に向け防衛を≫
だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある。尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。
その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制(けんせい)するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の「琉球列島」要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない。1938年、チェンバレン英首相が、ヒトラーの領土要求に対して、宥和(ゆうわ)策をとったことが、第二次世界大戦の誘因となったことが想起される。
尖閣諸島の現状を維持するためには、巡視船に乗り組む海上保安官の交代や、船の燃料補給を確実にすることが必要である。那覇空港は、航空管制の権限が国土交通省にあるため、民間機離着陸を優先し、空港を共用する航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)が妨げられているとも聞く。こうした態勢を早急に改善することが尖閣防衛で生きてくる。海上自衛隊の艦船を宮古島などに常駐させておくことも、将来的には魚釣島に何らかの警戒監視施設も必要だ。
中国は尖閣諸島に対する領有権の根拠として、最近は日本の軍国主義、植民地主義などの過去を持ち出している。これらに対して、日本政府は国連総会などで具体的に強く反論しだした。これは高く評価したい。中でも、「中国政府の領土要求は1970年代になって始まった」という反論は、極めて効果的である。この点を、何度も何度も、ネットや記者会見、講演などで繰り返すべきである。
中国は1950年代、60年代には、尖閣を日本の領土だと認めていたことを、中国発行の地図や人民日報の記事(例えば、1953年1月8日付)で紹介するキャンペーンを大々的に行うことも有効である。そうすれば、中国国内でも、自国政府の立場への批判や、「愛国無罪」への反省を促せるかもしれない。事実、8月25日に、広東省の民間企業の幹部がツイッターでこれらの資料を提示して、「尖閣諸島は日本領土」という議論を展開したとの情報もある。
中国へのしたたかな反論とともに、今後、両国関係が相当悪化することに備え、日系工場の「要塞化」や、対中投資を抑えての対東南アジア・インド投資戦略が必要である。日本経済の過度の中国市場依存はリスクが大きすぎる。(にしはら まさし)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まず米議会国家安全保障特別委員会顧問等を歴任した中国の軍事戦略の研究者、リチャード・フィッシャー氏は、次のように語っている。「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」とフッシャー氏は言う。そして、「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告する。中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と見る。また、日本の対応については「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘している。同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」とも語っている。
一方、国際政治学者で防衛大学校名誉教授の西原正氏は、次のように述べている
中国について、「今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである」と西原氏は言う。「中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた」。だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある、と西原氏は指摘する。「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の『琉球列島』要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない」と。
戦後の日本人の大多数は、学校教育で軍事的な知識を習得したり、訓練を受けたりする機会のないまま社会人となっている。防衛大学以外の大学、自衛隊以外の組織では、軍事的な教養を身に着ける機会はほとんどない。そのため、日本人で国際関係を政治的・経済的・文化的観点に軍事的な観点を加えて見ることのできる人は、ごく限られている。だが、今日、日本と中国との関係は、軍事的な観点を抜きに考えることはできない。
中国は、地図を90度回転させ、大陸側を下にして太平洋側を上に見ると、日本列島、沖縄、南西諸島、台湾ですっぽり蓋をされたような状態になっている。軍事的に、これを第1列島線という。そして、横須賀、小笠原諸島、グアム島を結ぶ線を第2列島線という。中国が太平洋に出ようとする場合、ロシアの存在もあるので、津軽海峡や北方領土の付近からは軍艦を進めることができない。沖縄本島と宮古島の間から出るしかない。そこに中国にとっての尖閣諸島、南西諸島、そして沖縄の軍事的な重要性がある。逆に、日本や米国にとっては、中国が太平洋に覇権を拡大するのを防ぐためにも、尖閣諸島、南西諸島、沖縄は、重要な地域である。
その点で、フィッシャー氏が「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告し、西原氏が「尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制するのに役に立つ」と指摘していることは、広く注目されるべきと思う。
以下は関連する報道記事。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成24年10月2日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121002/chn12100207100003-n1.htm
【尖閣国有化】
「日本が譲歩すれば、中国のさらなる侵略招く」 米軍事専門家
2012.10.2 07:08
【ワシントン=古森義久】中国の軍事戦略を専門に研究する米有力研究機関「国際評価戦略センター」主任研究員のリチャード・フィッシャー氏は1日までに産経新聞と会見し、尖閣諸島に対する中国の攻勢と米国への意味について、「領有権紛争での中立という公式な立場は別として、どの米国政権にとっても中国による尖閣支配は台湾喪失にも近い重大な戦略的マイナスとなる」と語った。
中国当局が反日暴動をあおってまで尖閣の主権をこの時期に強く主張し始めた原因について、フィッシャー氏は「単に日本側での尖閣国有化という動きだけでなく、中国にとっての尖閣の戦略的価値への認識と自然資源の重視などの動機がある」と述べた。
その上で「尖閣は台湾有事の米軍の『接近』のルートにあるし、日米両国に死活的な重要性を持つ中東やインド洋から太平洋への海上輸送路の途次にも位置している。その尖閣が中国軍の支配下に入ると、日本が従来の海上輸送路から切り離され、在日米軍基地の機能も骨抜きになりかねない」と警告した。
同氏はまた、「米国は日中両国の軍事衝突の回避を強く望んでおり、中国が尖閣をめぐる現状を変えようとすることに反対だ。そのために同盟相手の日本への有事の防衛誓約を繰り返すこととなる」と指摘。
中国側の当面の戦術については「実際の軍事衝突なしに中国内部での反日行動や外交上の激しい言葉という威嚇により、日本側に尖閣領有権を放棄させることが目的だ」と述べた。
一方、日本の対応について同氏は「日本は防衛面でも強固な態勢を保たねばならない。中国の威嚇に動揺し、譲歩をすれば、さらなる攻勢や侵略を招くだけだ」と指摘。
「海上保安庁の船だけでも当座の対応はできるだろうが、中国側は軍を投入する攻略作戦の準備を間違いなく進めている。自衛隊が取るべき措置はミサイルの攻撃能力の増強、長距離攻撃用ミサイル搭載の潜水艦の強化、その他の艦艇の配備などだろう」と語った。
同氏は、米国にとっての最悪の事態は「日本が反日デモなどに脅かされ、尖閣の主権で譲歩を始めて、中国の進出や侵略を許し、抵抗をしないままに、尖閣を失っていくというシナリオかもしれない」と述べた。
フィッシャー氏は、米議会国家安全保障特別委員会顧問、米中経済安保調査委員会顧問などを歴任した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121004/plc12100403070001-n1.htm
【正論】
平和安全保障研究所理事長・西原正 中国は尖閣取り軍事拠点にする
2012.10.4 03:06
野田佳彦政権が尖閣3島の購入を決定したことで、中国政府は強硬な反対声明だけではなく醜悪な反日デモを誘導し、日本大使館、領事館、日系企業やレストランに大きな損害を与えた。尖閣海域にも公船や漁船を送り込み、海上保安庁の巡視船を威圧している。
≪望めぬ「平穏で安定的な管理」≫
図らずも、われわれ日本人は、こうした国家間対立に際して中国政府がどういう手に出るのか、改めて経験した。今回の反応は2年前、海保が、巡視艇に体当たりをした中国漁船の船長を拘束したときに、中国政府が取った船長釈放要求のやり方と酷似している。
自国の主張を押し通すため、相手国をまず非軍事的手段で脅す方法である。前回はフジタ社員4人を拘束したり、レアアース(希土類)の対日輸出を停止したり、日本観光予定者の旅行キャンセルをしたりして船長の釈放を迫った。今回も一部デモの暴徒化の容認、日系工場焼き打ちの放置、日本からの貨物検査での意図的遅延、公船や漁船の尖閣周辺海域遊弋(ゆうよく)の指示、国連総会の場での「日本は盗人」といった口汚い対日非難演説などをし、野田政権を脅かす。
今後は、徐々に軍事的手段を用いて、さらに威嚇を強めてくる可能性がある。南シナ海の領土紛争におけるやり方がそうである。9月21日付産経新聞は、尖閣から離れた所にフリゲート艦2隻が現れたと報じている。尖閣海域に哨戒機、戦闘機、駆逐艦、潜水艦、さらには新しく配備された空母「遼寧」などを展開してくる事態も想定しておいた方がいい。野田首相の言う「平穏かつ安定的な島の管理」は当分、望めそうにない。
≪パラセルは武力で支配下に≫
筆者は6月8日付の本欄「南シナ海に学び、『空白』を作るな」で、中国が南シナ海でやってきたことに、日本として学ぶべき教訓がある、と論じた。中国は紛争相手で実効支配力の弱い国には、武力を行使して屈服させる。
1974年、当時の南ベトナムが戦争で疲弊していたとき、中国は南部ベトナム領のパラセル(西沙)諸島を攻撃し、駐屯していた南ベトナム兵を殺害して、同諸島を自国支配下に置いた。また、昨年6月には、ベトナムが進めていた海底油田の掘削のための調査用ケーブルを、中国の監視船が切断した。今年4月には、フィリピンの公船がスカボロー礁で中国漁船を違法漁業のかどで逮捕した際、中国は大きな監視船を多数繰り出しフィリピン側を屈服させた。
≪太平洋の安全に向け防衛を≫
だが、尖閣の場合、もっと重要な点がある。尖閣が中国の実効支配下に入れば、中国はそこにレーダー基地をはじめ、さまざまな軍事施設をつくるであろう。そうなれば、沖縄本島の米軍および自衛隊基地、施設にとって面倒な存在となり、米軍の台湾防衛作戦を阻害することにもなるのである。
その意味で、尖閣防衛は、中国海軍の東シナ海や太平洋への進出を牽制(けんせい)するのに役に立つ。長い目で見て、尖閣要求に日本が譲歩することは、中国の「琉球列島」要求に繋がり、やがて、太平洋での米中海軍力のバランスを中国側有利に傾けかねない。1938年、チェンバレン英首相が、ヒトラーの領土要求に対して、宥和(ゆうわ)策をとったことが、第二次世界大戦の誘因となったことが想起される。
尖閣諸島の現状を維持するためには、巡視船に乗り組む海上保安官の交代や、船の燃料補給を確実にすることが必要である。那覇空港は、航空管制の権限が国土交通省にあるため、民間機離着陸を優先し、空港を共用する航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)が妨げられているとも聞く。こうした態勢を早急に改善することが尖閣防衛で生きてくる。海上自衛隊の艦船を宮古島などに常駐させておくことも、将来的には魚釣島に何らかの警戒監視施設も必要だ。
中国は尖閣諸島に対する領有権の根拠として、最近は日本の軍国主義、植民地主義などの過去を持ち出している。これらに対して、日本政府は国連総会などで具体的に強く反論しだした。これは高く評価したい。中でも、「中国政府の領土要求は1970年代になって始まった」という反論は、極めて効果的である。この点を、何度も何度も、ネットや記者会見、講演などで繰り返すべきである。
中国は1950年代、60年代には、尖閣を日本の領土だと認めていたことを、中国発行の地図や人民日報の記事(例えば、1953年1月8日付)で紹介するキャンペーンを大々的に行うことも有効である。そうすれば、中国国内でも、自国政府の立場への批判や、「愛国無罪」への反省を促せるかもしれない。事実、8月25日に、広東省の民間企業の幹部がツイッターでこれらの資料を提示して、「尖閣諸島は日本領土」という議論を展開したとの情報もある。
中国へのしたたかな反論とともに、今後、両国関係が相当悪化することに備え、日系工場の「要塞化」や、対中投資を抑えての対東南アジア・インド投資戦略が必要である。日本経済の過度の中国市場依存はリスクが大きすぎる。(にしはら まさし)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――