ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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橋下・維新八策は未だ「?」6

2012-07-23 08:47:59 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(5)社会保障制度改革

 社会保障制度改革は、理念に9項目も並べているが、それらよりも基本方針にある「自助、共助、公助の役割分担を明確化」がまず理念の第一に掲げられるべきだろう。また、理念の9項目は、理念らしきものと方針らしきものが混在している。他の方策にもこうした傾向があるが、(5)では特にそれが目立つ。
 まず理念の中に「真の弱者を徹底的に支援」とある。この「真の弱者」は日本国民に限り、外国籍の者を除外すべきである。それを明記しなければならない。非国民に対する生活保護や医療費無料化等を点検せずに、現状のまま「徹底的に支援」すれば、国も自治体も蝕まれるだけである。生活保護の基本方針に、「現物支給中心の生活保護費」「支給基準の見直し」「有期性(一定期間で再審査)」を挙げているのはよいと思う。ただし、受給資格と審査の厳格化が必要である。
 次に、理念に「負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入」という項目がある。ベーシックインカムは、膨大な支出になる。本年(24年)3月4日、フジテレビの番組で橋下氏が述べたところでは、国民に一律月7万円を支給するという。セイフティネットというより、社会民主主義的な政策である。維新八策の基調となっている自立、競争、自己責任とは正反対の考え方であるし、過度の再配分は国民の依存心を強め、青年層の勤労意欲を削ぎ、生活の縮小を招き、デフレを悪化させるだろう。しかも、ベーシックインカムの実施には、107兆円もの予算がいる。歳入の税収が40兆円を切るなかで、どうやって原資を確保するのか。橋下氏は、先の番組でこの点を問われたが、明確な回答がなかった。その程度の案を、また維新八策に揚げている。選挙で票を集めるための悪しきバラマキ政策ではないか、と私は疑う。
 次に、年金については、「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行」と掲げている。橋下氏は国の年金制度を「ねずみ講そのもの」と批判し、現在の賦課方式から積み立て方式に変える必要性を強調してきた。賦課方式とは、現役世代が高齢者に仕送りをするような方式、積み立て方式は自分が払い込んだお金を老後に受け取る積み立てのような方式である。橋下氏は、一定の資産がある人には支給しない「掛け捨て型」の年金制度の導入も提案してきた。橋下氏が年金制度の改革を訴えるのは、少子高齢化が進むと、現行の制度は破綻する、また若者世代に不公平感が募っていくという二つが主な理由のようである。だが、これが現在の年金制度の正しい理解に基づくものかどうか、疑問である。
 平成20年(2008)5月、政府の社会保障国民会議が年金制度についてのシミュレーションを発表した。その結果、未納者がいくら増えても年金制度は破綻しないことが具体的数字で示された。破綻しない理由は、基礎年金の財源の半分に税金が入っているからである。橋下氏と「大阪維新の会」は、現行制度をどのように理解して、改革案を出しているのか、見解を明らかにしてほしい。
 経済評論家の細野真宏氏によると、以前は現役世代が多く、年金の保険料を払う世代が多かったため、現在約200兆円の年金積立金がある。今後は少子高齢化に対応するため、この年金積立金が年金の支払いに使われていく。賦課方式の場合、少子高齢化で現役世代は負担が増える一方、自分の受け取りは少なくなっていくと考えられがちだが、年金は現役世代の保険料だけから支払われているのではない。例えば基礎年金は、平成21年度(2009年度)からは年金の支払いの半分は税金から支払われている。年金積立金による分も含めて、個人の保険料負担は半分で済む。年金の財源は安定しており、根本的に制度を変える必要はない。国民年金は国民の4割が未納という誤解があるが、実際の未納者は公的年金加入者の全体の5%にも満たない。問題があるとすれば、国民年金を納めないでいる人たちが、将来無年金者になることである、と細野氏は見ている。
 いまから積立方式に変えることは、相当年数がかかるだろう。移行は技術的にも複雑になる。そのことも含めて制度設計のシミュレーションをしっかりやってから判断しないと、方式変更に本当にメリットがあるかどうかの判断はできないと思う。将来の無年金者の問題は、自己責任と弱者救済の兼ね合いになる。若年層の失業者や低所得者の増加が原因となっている部分は、雇用を創出し、所得を上昇させるデフレ脱却の経済成長政策を実施しないと、根本的な解決にならない。さまざまな年金制度改革案について、私は、改革と称して、企業が厚生年金の企業負担分を減らそうとすること、また年金制度を単純化しかつ個人積立型なり完全税方式になりに変えることで外資が日本企業の買収をしやすくすることを警戒する。
 医療保険・介護保険について気になるのは、「公的保険の範囲を見直し、混合診療を完全解禁」と掲げていること。混合診療は、アメリカの医薬業界がこれをもって日本市場に進出しようとしているものの一つである。橋下氏はTPP賛成を明言しているが、混合診療解禁を始め、TPPによるわが国の経済社会への負の影響を理解していない。それは郵政改革をどうするか、維新八策は全く触れていないこととも関係している。TPPは郵政民営化の延長にあり、その徹底でもある。郵政民営化の反省と総括なく、TPP賛成を説く橋下氏には、1980年代からの日米の経済と外交の歴史を再勉強してもらいたいものである。

 次回に続く。

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