ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

橋下・維新八策は未だ「?」4

2012-07-20 09:09:04 | 橋下
●各方策の検討

(1)統治機構の作り直し

「統治機構の作り直し」の理念として掲げた項目のうち、私は「国の役割を強化し、人的物的資源を集中させるため、国の役割を絞り込む」「内政は地方・都市の自立的経営に任せる」「国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で」「国と地方の融合型行政から分離型行政へ」には、賛成する。
 だが、これを目指すには、まず大東亜戦争の敗戦後、まだ回復できていない独立主権国家としてのあり様をしっかり回復し、国防、非常事態対応、国民教育(歴史・道徳)を整備することが先である。そのうえで、中央政府と地方自治体の役割・業務・財源を分けるべきである。道州制はさらにそのあとの課題と位置づけねばならない。順序を誤ると、主権が分散し、国家が分解してしまう。橋下氏は、このことがわかっていない。だから、八策には具体的な憲法改正の条文案がなく、非常事態対応がなく、歴史教育・道徳教育がない。
 (1)「統治機構の作り直し」の基本方針は、主な内容を整理すると、首相の選任方法を議院内閣制から首相公選制に変える。これに応じて、首相公選制とバランスの取れた議会制度に変える。地方自治体の首長が議員を兼職する院を作る。「地方分権型国家」に転換するため、消費税を地方税化し、地方交付税は廃止する。都市間競争に対応できる多様な大都市制度のモデルとして、大阪都を実現する、というものである。
 天皇を国家及び国民統合の象徴と仰ぐわが国では、首相公選制はなじまない。首相を公選にし「決められる政治」をめざすという意図があるのだろうが、わが国と同じ議院内閣制のイギリスで首相となったサッチャーは、強力な指導力を発揮して、大胆な改革を行った。必ずしも制度の問題ではない。橋下氏には、国会を一院制にという考えがあるようだが、大衆民主主義・マスメディア誘導の社会で一院制にすると、その時の大衆の関心や気分で大きく政治が揺れ動く。首相が公選でかつ国会が一院制というのは、もっとも愚民政治に陥りやすい仕組みになる。私は議院内閣制と二院制を維持しつつ、現在の政治の意思決定の仕組みを変え、また参議院のあり方を改革すべきであると思う。その際、地方首長の国政参与はよいと思うが、必要な政策課題について、限定した期間で行う仕組みにしないと、地方行政が滞ると思う。また参院は本来「良識の府」であるべきもので、各分野の有識者が国政に知恵を結集できる仕組みを保つ必要がある。
 次に、消費税を地方税化し、地方交付税は廃止するという提案は、検討に値するものだと思うが、本当にこれで中央集権の弊害を除き、地方を活性化できるかどうかは、十分議論する必要があると思う。広く有効な施策であれば、まず全国の地方首長が賛同するはずだが、地方首長のうち、橋下氏の提案に積極的に賛成している者はごく少ない。都道府県や市町村によっては、地方交付税を受けることで財政がなんとか成り立っているところもあり、今の制度には全国的な格差を是正している側面がある。消費税が地方税化され、かつそれ一本になれば、デフレ不況が続き、地域格差が拡大しているなか、経済力のない自治体は、財政危機に陥って破産するところが出る恐れがある。
 次に、大阪都については、私は構想はいいと思う。ただし、「都」という名称は再考を要する。東京市・東京府が東京都となってから、「都」は天皇が居住されているところという理解が定着している。大阪の場合、名称は「府」であっても、制度を改めれば、橋下氏の構想は実現できる。
 次に、維新八策は、東日本大震災からの復興を重要課題としていないことを指摘したい。大震災から1年以上たって、まだ復興は遅々として進んでいない。この分では5年どころか10年以上はかかるのではないかと案じられる状態である。私は、東北の復興が日本の立て直しにつながる、全国民が協力し東北から日本をよみがえらせねばならない、と考えている。だが、維新八策は、これを重要課題としていない。それでも骨子版には(1)に「被災地復興は、被災地によるマネジメントで→復興担当大臣などは被災地首長」という項目があることはあった。ところが、改訂版では、その項目が消えている。私は、この姿勢に疑問を覚える。
 また、東日本大震災からの復興という課題は、来るべき巨大地震への備えという課題に連続する。わが国は天変地異の時代に入っており、広域にわたる大規模災害の発生が予想される。首都直下型地震をはじめ、東海・東南海・南海の3地震が連動する南海トラフ巨大地震も想定されている。広域災害は、国家の存亡に係る事態となり得る。こうした時代にわが国が存亡をかけて対応するには、独立主権国家としての機能をしっかり回復し、中央政府が担う役割を明確にし、中長期的な国家政策を立てて防災を進め、また非常事態の際に首相が強力な指導力を発揮できる体制を整えることが必要である。また軍事力を増強し、尖閣諸島・沖縄を略取する意図を見せている中国や、核開発・ミサイル実験を続ける北朝鮮に対し、国家の独立と主権、国民の生命と財産、日本の伝統と精神を守っていける体制を強化することも必要である。統治機構の作り直しとは、こうした課題を実行する方策でなければならない。またこれは、日本人自身の手による新しい憲法の制定を必須とする。残念ながら、橋下氏と「大阪維新の会」の揚げる方策は、肝心要となるところを欠いている。国政を担おうとする政党の方策がこれでは、私は支持できない。根本的な再検討を求めたい。

 次回に続く。