●誤謬に満ちた風説の数々(続き)
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23 個人金融資産1500兆円があるから、ケインズ的財政政策などは不要だ。
誤りである理由: 言うまでもなく、1500兆円もの札束がタンスの引き出しに保蔵されているわけではない(日銀券などの現金貨幣の総存在量は70~80兆円)。個人金融資産は、その大部分が直接・間接に運用されており、コゲついている部分も多い。個人金融資産が結果的に動員されたことになるのは、それらが預金されている金融機関が信用創造を活発に行ないはじめたときであるが、しかし、そうなりうるのは、景気がかなり回復してからのことである。
24 クラウディング・アウトやマンデル=フレミング効果でケインズ政策は無効となる。
誤りである理由: 財政政策の財源調達のために国債の市中消化が行なわれた場合に、それによって民間資金が国庫に吸い上げられて金融市場が資金不足状況になり、国内金利の高騰や民間投資の減少が生じることを「クラウディング・アウト現象」というが、これは中央銀行(日銀)の「買いオペ」といった金融政策で容易に防止しうる。
言うまでもなく、新規発行国債の日銀による直接引き受けや、「国(政府)の貨幣発行特権」の発動によって財政政策財源が調達されたときには(註 『政府貨幣特権を発動せよ。』第Ⅰ章参照)、クラウディング・アウト現象は生じないですむ。
また、クラウディング・アウト現象にともなう国内金利の高騰が「円高」(日本の場合であれば)を生じさせ、それが輸出の減少と景気回復の挫折をもたらすことを「マンデル=フレミング効果」と呼称するが、右記のような諸方策でクラウディング・アウト現象の発生を防止してしまえば、マンデル=フレミング効果の発現も回避しうる。ケインズ的なフィスカル・ポリシーとしては、財政政策に加えてそのようなクラウディング・アウト現象防止のための諸方策を組み合わせて実施するのが、正統的なやり方である。
25 新古典派理論の登場でケインズ的政策論は無価値になった。
誤りである理由: ルーカスやフリードマンの米国新古典派の理論体系は、その「ケインズ的政策無効論」を理論的に導き出すために、きわめて非現実的な特殊な仮定・前提を設定した体系となっている。
その中でも、「需要がふえても企業は設備の稼働率を引き上げて需要増加に対応しようとはしないものとする」という前提や、消費支出が行なわれるのは恒常的な所得だけからであって「ボーナス、残業手当、租税減免、等々による変動所得からは消費支出は行なわれないものとする」という仮定は、あまりにも非現実的な奇矯な想定である。そして、このような不自然かつ非現実的な前提や仮定を外した場合には、新古典派の「ケインズ的政策無効論」は成り立ちえなくなるのである。
26 今は「複雑系」の時代だから、ケインズ理論は役に立たなくなっている。
誤りである理由: 「複雑系」とは、フィードバック回路を持った理論モデル体系のことである。しかし、経済学には、複雑なフィードバック回路を持った理論モデルを分析してきた長い伝統がある。ケインズ理論に立脚した諸分析においても、とりわけ、計量経済学的なモデル分析では、小型なモデルでも100本程度の連立方程式で複雑なタイム・ラグをともなうフィードバック回路としての「複雑系」を処理しつつ、シミュレーションを行なっているのである。
27 インフレ目標政策で景気は回復しうる(ケインズ的内需拡大政策は不要だ)。
誤りである理由: インフレ目標政策(調整インフレ政策)案は、日銀が貨幣量を増やしさえすれば物価上昇が起こり、それが景気を刺激するであろうという説に基づいている。
しかし、現在のわが国の経済では、利子率が下限にまで下げられているにもかかわらず民間投資が低調なままであり、また、マクロ的に超巨大なデフレ・ギャップが存在しているのであるから、貨幣量が増やされただけでは、ただ単に、「貨幣の流通速度」が低くなるだけで、インフレ・ギャップが発生するようなことはありえず、したがって、インフレ的な物価上昇を生じさせることも不可能である。
28 余裕生産能力を廃棄してしまわなければケインズ政策も無効で、経済再生はできない。
誤りである理由: 不況による需要不足で企業設備の稼働率が低くなっていても、一度び、大規模なケインズ的政策で需要が増えてくれば、稼働率はたちどころに上昇しうる。生産能力に余裕があるときに受注が増えてくれば、それを拒絶するような経営者は居ない。稼働率が低いからといって、安易に設備などを廃棄し、マクロ的に余裕生産能力を失ってしまうと、総需要を増やしてもインフレ・ギャップの発生と物価の上昇のみが生じて経済の再生・再興が達成されえないといった悪性の経済体質になってしまう。
デフレ・ギャップという「生産能力の余裕」は、観点を変えてそれを見れば、わが国の経済社会が持っている「真の財源」なのだ。
29 まず不良債権の処理を完了しなければ、ケインズ的政策も無効だ。
誤りである理由: 需要が低迷している現在では欠損企業であって「不良債権」の発生源になっている企業も、一度び、需要が大幅に増やされれば、たちまち、立派に利潤をあげうる優良企業になりうる。すなわち、ケインズ的政策によって総需要が十分に増加させられさえすれば、「不良債権」は「優良債権」に一変するのである。同様に、「不良資産」も「優良資産」に一変しうる。
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以上が、丹羽氏が、わが国に流布している「いかがわしい風説」と丹羽氏による経済学的な説明である。丹羽氏は「全て誤った内容のものばかり」だと断じている。
丹羽氏については、「大ぼら吹きのマッド・エコノミスト」と切り捨てる人から「ケインズ以来の天才エコノミスト」と賞賛する人までいる。29の風説への丹羽氏の解説のうち、二つ三つでもなるほどと思うものがあるなら、丹羽氏のサイトや著書で氏の説くところを自ら検討してみることをお勧めする。本稿がそのきっかけとなれば幸いである。
次回に続く。
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23 個人金融資産1500兆円があるから、ケインズ的財政政策などは不要だ。
誤りである理由: 言うまでもなく、1500兆円もの札束がタンスの引き出しに保蔵されているわけではない(日銀券などの現金貨幣の総存在量は70~80兆円)。個人金融資産は、その大部分が直接・間接に運用されており、コゲついている部分も多い。個人金融資産が結果的に動員されたことになるのは、それらが預金されている金融機関が信用創造を活発に行ないはじめたときであるが、しかし、そうなりうるのは、景気がかなり回復してからのことである。
24 クラウディング・アウトやマンデル=フレミング効果でケインズ政策は無効となる。
誤りである理由: 財政政策の財源調達のために国債の市中消化が行なわれた場合に、それによって民間資金が国庫に吸い上げられて金融市場が資金不足状況になり、国内金利の高騰や民間投資の減少が生じることを「クラウディング・アウト現象」というが、これは中央銀行(日銀)の「買いオペ」といった金融政策で容易に防止しうる。
言うまでもなく、新規発行国債の日銀による直接引き受けや、「国(政府)の貨幣発行特権」の発動によって財政政策財源が調達されたときには(註 『政府貨幣特権を発動せよ。』第Ⅰ章参照)、クラウディング・アウト現象は生じないですむ。
また、クラウディング・アウト現象にともなう国内金利の高騰が「円高」(日本の場合であれば)を生じさせ、それが輸出の減少と景気回復の挫折をもたらすことを「マンデル=フレミング効果」と呼称するが、右記のような諸方策でクラウディング・アウト現象の発生を防止してしまえば、マンデル=フレミング効果の発現も回避しうる。ケインズ的なフィスカル・ポリシーとしては、財政政策に加えてそのようなクラウディング・アウト現象防止のための諸方策を組み合わせて実施するのが、正統的なやり方である。
25 新古典派理論の登場でケインズ的政策論は無価値になった。
誤りである理由: ルーカスやフリードマンの米国新古典派の理論体系は、その「ケインズ的政策無効論」を理論的に導き出すために、きわめて非現実的な特殊な仮定・前提を設定した体系となっている。
その中でも、「需要がふえても企業は設備の稼働率を引き上げて需要増加に対応しようとはしないものとする」という前提や、消費支出が行なわれるのは恒常的な所得だけからであって「ボーナス、残業手当、租税減免、等々による変動所得からは消費支出は行なわれないものとする」という仮定は、あまりにも非現実的な奇矯な想定である。そして、このような不自然かつ非現実的な前提や仮定を外した場合には、新古典派の「ケインズ的政策無効論」は成り立ちえなくなるのである。
26 今は「複雑系」の時代だから、ケインズ理論は役に立たなくなっている。
誤りである理由: 「複雑系」とは、フィードバック回路を持った理論モデル体系のことである。しかし、経済学には、複雑なフィードバック回路を持った理論モデルを分析してきた長い伝統がある。ケインズ理論に立脚した諸分析においても、とりわけ、計量経済学的なモデル分析では、小型なモデルでも100本程度の連立方程式で複雑なタイム・ラグをともなうフィードバック回路としての「複雑系」を処理しつつ、シミュレーションを行なっているのである。
27 インフレ目標政策で景気は回復しうる(ケインズ的内需拡大政策は不要だ)。
誤りである理由: インフレ目標政策(調整インフレ政策)案は、日銀が貨幣量を増やしさえすれば物価上昇が起こり、それが景気を刺激するであろうという説に基づいている。
しかし、現在のわが国の経済では、利子率が下限にまで下げられているにもかかわらず民間投資が低調なままであり、また、マクロ的に超巨大なデフレ・ギャップが存在しているのであるから、貨幣量が増やされただけでは、ただ単に、「貨幣の流通速度」が低くなるだけで、インフレ・ギャップが発生するようなことはありえず、したがって、インフレ的な物価上昇を生じさせることも不可能である。
28 余裕生産能力を廃棄してしまわなければケインズ政策も無効で、経済再生はできない。
誤りである理由: 不況による需要不足で企業設備の稼働率が低くなっていても、一度び、大規模なケインズ的政策で需要が増えてくれば、稼働率はたちどころに上昇しうる。生産能力に余裕があるときに受注が増えてくれば、それを拒絶するような経営者は居ない。稼働率が低いからといって、安易に設備などを廃棄し、マクロ的に余裕生産能力を失ってしまうと、総需要を増やしてもインフレ・ギャップの発生と物価の上昇のみが生じて経済の再生・再興が達成されえないといった悪性の経済体質になってしまう。
デフレ・ギャップという「生産能力の余裕」は、観点を変えてそれを見れば、わが国の経済社会が持っている「真の財源」なのだ。
29 まず不良債権の処理を完了しなければ、ケインズ的政策も無効だ。
誤りである理由: 需要が低迷している現在では欠損企業であって「不良債権」の発生源になっている企業も、一度び、需要が大幅に増やされれば、たちまち、立派に利潤をあげうる優良企業になりうる。すなわち、ケインズ的政策によって総需要が十分に増加させられさえすれば、「不良債権」は「優良債権」に一変するのである。同様に、「不良資産」も「優良資産」に一変しうる。
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以上が、丹羽氏が、わが国に流布している「いかがわしい風説」と丹羽氏による経済学的な説明である。丹羽氏は「全て誤った内容のものばかり」だと断じている。
丹羽氏については、「大ぼら吹きのマッド・エコノミスト」と切り捨てる人から「ケインズ以来の天才エコノミスト」と賞賛する人までいる。29の風説への丹羽氏の解説のうち、二つ三つでもなるほどと思うものがあるなら、丹羽氏のサイトや著書で氏の説くところを自ら検討してみることをお勧めする。本稿がそのきっかけとなれば幸いである。
次回に続く。
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