ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

「朕が意を体せよ」~富田メモ18

2006-08-11 08:22:49 | 靖国問題
●仮にお言葉だったとしても

 「文藝春秋」9月号は、富田の日記・手帳の全体を見たという半藤一利氏と秦郁彦氏、これに保坂正康氏が加わって、富田メモについて鼎談を行っている。新たな情報が多く語られており、疑義についてもある程度答える内容となっている。日経の記事とは異なり、中曽根らの氏名も掲載している。しかし、私が日経の記事で明らかになっていないこととして挙げた多くの点については、触れていない。
 世紀の大誤報かという疑いが出るほど疑問が吹き出ているメモを、昭和天皇のご発言だと断定して報道した日本経済新聞社には、国民に対する説明責任がある。
 半藤氏・秦氏・保坂氏には、日経にそれを求めていく姿勢がない。基本的に日経と同じものの見方をしているからだろう。今後、他の専門家によるさらなる検証に期待したい。

 仮に富田メモが、昭和天皇のご意思を伝えるものだとしても、それを利用して政治を動かすことは慎まなければならない。

 わが国は、天皇の政治利用で重大な失敗をしている。平成元年(1989)天安門事件で言論弾圧・大量虐殺を行なった中国は、国際的な非難を浴びていた。中国がなんら人権問題で改善を示していないにもかかわらず、わが国は友好の手を差し延べた。当時、中国は、に尖閣諸島を自国領だと法律に規定したり、今日に至る軍拡を開始したりしていた。ところが、わが国では天皇皇后両陛下の訪中を進めようという動きが起こった。積極派は今上天皇が中国をご訪問され、謝罪の意を表すことで日中友好が確立すると説いた。
 これに対しては、有識者から反対意見が出された。小田村四郎氏、小堀桂一郎氏、中村粲氏、大原康男氏らである。彼らは、天皇を政治利用してはならない。とりわけ謝罪外交に利用することは、天皇を政治に巻き込み、天皇の権威を損ね、対外関係に重大な禍根を残すと指摘した。だが平成4年、天皇御訪中は実行された。

 それによって、日中に真の友好は築かれたか。否。天皇を呼びつけることに成功した中国は、反日教育を活発にした。反日愛国主義が本格化したのは、ご訪中の翌年、江沢民が主席になってからである。昨年4月の反日デモは、その産物である。この結果を見れば、天皇ご訪中は、中国共産党に利用されたにすぎないことが、明らかである。(註1)

●靖国問題を貫く中国の対日政策

 靖国問題に関して言えば、元「A級戦犯」合祀は、中国の批判によって問題になったのである。昭和60年、小平が中曽根首相の参拝を批判したのが初めである。は昭和53年(1978)に主席になると、翌年、中国の歴史教科書に初めて「南京大虐殺」が現れ、昭和60年から南京大虐殺記念館が建設され始めた。靖国神社参拝に対して抗議してきたのは、この年である。
 さらに、平成5年(1993)江沢民が国家主席になってから、愛国主義の政策が推し進められ、反日的な教育が徹底された。中国指導部は、民衆の不満を外に向けるために、日本の過去の「侵略」や日本軍による「虐殺」を誇大宣伝して、善良な民衆を欺き、誤導している。

 実は今回、富田メモをもとに「A級戦犯」分祀を唱えている人たちは、かつて天皇御訪中を推進した勢力とかなり重なり合う。中国に対する謝罪外交は、中国の大国化に従って事大主義の外交に転じてきた。そして、再び中国に対して、天皇の政治利用となりかねないのが、富田メモの報道のあり方なのである。

 富田メモが昭和天皇のご意思を表しているかどうかは別として、これを政治利用することは、断じて許されない。富田メモの政治利用は、中国の属国化の道となるおそれがる。元「A級戦犯」を分祀すれば、次は「BC戦犯」の分祀を要求してくるだろう。大陸への「侵略戦争」を行なった「戦犯」を外せというだろう。同時に、中国は尖閣諸島を占領し、東シナ海を我が物とし、南西諸島さらには沖縄へと触手を伸ばしてくるだろう。

●昭和天皇の真意とは

 仮に富田メモが昭和天皇のご意思を伝えるものだったとしても、それによって元「A級戦犯」の分祀を行なうことが、日本を中国の属国と化し、領土・領海を奪われ、日本人が日本人としての精神を失うことにつながるとすれば、それを昭和天皇はお望みになるだろうか。否。ここで日本人は、昭和天皇の終戦の詔勅を思い起こすべきである。
 「宜(よろ)しく擧国一家子孫相伝ヘ確(たしけ)く神州の不滅を信じ、任重くして道遠きを念い、総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし志操(しそう)を鞏(かた)し、誓て国体の精華を発揚し、世界の進運に後れざらんことを期すべし。爾臣民それ克(よ)く朕が意を体せよ」(註2)
 昭和天皇は、「朕が意を体せよ」と今も国民に訴えておられるのではないか。

 次回が最終回。


(1)天皇の政治利用については、桜井よしこ氏が強く警告している。
http://blog.yoshiko-sakurai.jp/archives/profile/message/cat42/
週刊新潮8月3日号「日本ルネサンス 第225回」
(2)「終戦の詔勅」及び私の昭和天皇論は、以下の項目をご参照のこと。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind10.htm
18-27.うち「終戦の詔勅」は23。

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6 コメント

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TB有り難うございます。 (まさ)
2006-08-11 20:54:02


文藝春秋によれば、メモ以外も見たのは半藤氏と秦氏だけのようなのでしょうか。

目新しい物が出て来るかと期待したのですが、日経の記事の言い訳みたいな感じでした。

何を持って昭和天皇のお言葉と断言したのか説明不足です。



余り閣僚も知らず

そうですがが多い



これがわかれば良いのですが。

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Unknown (主婦)
2006-08-12 09:51:40
昭和天皇が靖国参拝に行かない理由は戦死した一般国民と同様にA級戦犯が祭られていたからですよ

A級戦犯の人達は戦争指導者達でしょう

彼らは一般国民を戦地に赴かせて、戦争をさせて、殺したのですよ

小泉総理がA級戦犯を合祀している靖国神社に一国の首相として参拝しているのは誰が観てもおかしいでしょう

一国の首相が靖国参拝することは、ひいては、中国、韓国などのアジア諸国と敵対視しているのと同じですよ

首相の行為は、日本はアメリカと戦争をしたのだから、アメリカが日本に怒っても当然であるのに、なぜか、そのアメリカは沈黙している

おそらく、アメリカが小泉総理に命じて、日本と中国との対立を煽ることによって、アメリカ自身がアジアを支配したいのですよ

日本は、アメリカによって、中国と戦争をするはめになりますよ

その証拠が、憲法9条改正ではないですか!?

そうなれば、日本は、世界中、孤立する国になりますよ

将来の子供達に、そういうことを背負わせていいのですか!?

昭和天皇はA級戦犯達を許さないでも、一般国民を憂う心がおありなんですよ

天皇陛下は、第2次世界大戦の敗戦を受けて、二度と日本が同じ過ちをおかさないように、平和を願っているのではないですか!?

その行動が、A級戦犯が合祀されている靖国参拝に行かないことの理由ではないですか!?

もし、一般国民だけが祭られている靖国神社だったら、天皇陛下は参拝されていたと思います

日本のあるべき道は、平和を通じて、アジア近隣諸国や世界諸国との調和(外交努力)ではないですか!?

アメリカ一辺倒のやり方は、日本を間違った方向に導くでしょう

どうですか!?ほそかわせんせ!!



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re:TB有り難うございます。 (ほそかわ)
2006-08-12 22:38:01
>余り閣僚も知らず

>そうですがが多い



>これがわかれば良いのですが。<



 私も、何を言わんとしているのか、わかりません。4月28日の記者会見の記録を集めれば、手がかりが得られるだろうと思います。





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re:Unknown (ほそかわ)
2006-08-12 22:50:33
私は「せんせ!!」と呼ばれるような立場の者ではありません。

国に対する考え方、日本の歴史のとらえ方、国防や安全保障についての見方、日米中の国際関係の理解、現代における戦争と軍事の認識など、多くの点で、あなたと私には、大きな隔たりがあるようです。数行書いてその隔たりが埋まるものとは思えません。

もし私の考えに興味があるのでしたら、富田メモに関する連載を通して読んでみてください。そのうえで、私のオピニオン・サイトを読んでみてください。

例えば国のあり方については、

http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion01b.htm

憲法・国防については、

http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08.htm

国際関係については、

http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12.htm

などに挙げてあります。
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Unknown (Unknown)
2006-08-13 01:56:06
>=奧野は藤尾と違うと思うが

>バランス感覚のことと思う

>単純な復古ではないとも.



>余り閣僚も知らず

>そうですがが多い



両方とも発言に対して批判的な意見を書いている様に見えます。

奥野氏と藤尾氏を同じ様に扱う発言に対して反論し、発言内容全体に対して閣僚を良く知らず、伝聞が多く信憑性に欠けると批判しているのではないでしょうか。



徳川氏発言説の場合は納得できます。

青山繁晴氏によると4月28日に徳川氏が数名の記者とウラコン(完全オフレコの懇談)を行ったらしいとの事です。

完全オフレコであっても天皇陛下の元側近の発言としてあまりに過激な為、反発しているのではないでしょうか。



徳川氏の会見に関しては最初の記事から数週間経っているのに、「行われたらしい」と言う曖昧な情報ばかりです。

事実であったとしても証拠となる様なメモ等は無いのかもしれません。
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re:Unknown (ほそかわ)
2006-08-13 12:49:51
>>=奧野は藤尾と違うと思うが

>>バランス感覚のことと思う

>>単純な復古ではないとも.



>>余り閣僚も知らず

>>そうですがが多い



>両方とも発言に対して批判的な意見を書い>ている様に見えます。

>奥野氏と藤尾氏を同じ様に扱う発言に対し>て反論し、発言内容全体に対して閣僚を良>く知らず、伝聞が多く信憑性に欠けると批>判しているのではないでしょうか。



 読みが深いですね。

 日経によると「=」は富田自身の意見の場合の印だそうですが、昭和62年の記者会見に関するところでは、「申しておりました」と謙譲語を使っています。ところが、奥野・藤尾のところでは、「思うが‥思う」と普通の言葉遣いです。だから、前者は天皇に対するご返事、後者は同僚の発言へのコメントと区別できるのではないかと私は思っています。

 その観点から言うと、一つありうる状況は、発言者は徳川、富田はそこに同席、富田は徳川と記者のやりとりに関して「閣僚も知らず」「そうですがが」などと、さめた感じで欄外に感想をかいているような気がします。この場合、問題の合祀に関する発言は徳川である可能性があると思います。記者会見についての記録を集約・精査しないと判断できないことではありますが。



>青山繁晴氏によると4月28日に徳川氏が数名の記者とウラコン(完全オフレコの懇談)を行ったらしいとの事です。

完全オフレコであっても天皇陛下の元側近の発言としてあまりに過激な為、反発しているのではないでしょうか。<



 貴重な情報を有難うございます。青山さんは共同通信の記者出身ですから、かなり確度の高い情報かと思います。その時の記者のメモについては、朝日の清水健宇さんが、同僚の記者が参加しメモがあるということを書いているという情報もありますが、私には確かめようがありません。もし存在するなら早期に公表してほしいものです。
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