ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

対米依存で専守非核の日本14

2007-01-12 09:38:02 | 国際関係
●現在の国防を定めている「防衛計画の大綱」

 平成7年(1995)に、昭和51年版の「防衛計画の大綱」が改定された。この改定は、冷戦の終結などにより国際情勢が大きく変化していること、大規模災害など各種の事態への対応やより安定した安全保障環境の構築への貢献などの分野でも、自衛隊の役割を対する期待が高まっていることなどを踏まえた改定だった。
 平成17年(2005)に政府は、第3版となる「防衛計画の大綱」を策定した。弾道ミサイル防衛システムを導入するのに伴う改定だった。立案の過程では、防衛庁が他国の弾道ミサイル発射基地などを叩く「敵基地攻撃能力」の保有を検討したという。また、航空自衛隊がF-2用に導入を決めた精密誘導弾JDAM(統合直接攻撃弾薬)を敵基地攻撃にも使用するほか、対艦ミサイルを改良して陸上攻撃もできるようにした米軍の「ハープーン2」(射程200キロ超)や、巡航ミサイル「トマホーク」(射程2000キロ前後)、軽空母の導入が検討対象となったという。
 この検討は、武力攻撃事態法に対応したものと思う。戦略守勢に基づく装備の検討だろう。しかし、出来あがった「大綱」には、自主的な「敵基地攻撃能力」の保有を進める内容は、盛り込まれていない。弾道ミサイル防衛システム(BMDシステム)に特化した方針だからだろう。

●綻んだ「核の傘」と疑わしいBMDが頼み

 「大綱」は、東アジア情勢については、よく書いている。 
 「北朝鮮は大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、配備、拡散等を行うとともに、大規模な特殊部隊を保持している。北朝鮮のこのような軍事的な動きは、地域の安全保障における重大な不安定要因であるとともに、国際的な拡散防止の努力に対する深刻な課題となっている。また、この地域の安全保障に大きな影響力を有する中国は、核・ミサイル戦力や海・空軍力の近代化を推進するとともに、海洋における活動範囲の拡大などを図っており、このような動向には今後も注目していく必要がある」と記している。
 ところが奇妙なことに、続いてすぐ「我が国に対する本格的な侵略事態生起の可能性」は「低下」していると書いている。むしろ反対に、可能性は上昇していると明記すべきだろう。 
 「大綱」の内容は、矛盾しているのである。

 「大綱」は、侵略事態生起可能性が低下という矛盾した認識のもとに、次ぎのように述べている。
 「我が国は、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、文民統制を確保するとともに、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備するとの基本方針を引き続き堅持する。核兵器の脅威に対しては、米国の核抑止力に依存する」と。
 基本理念は、「日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならない」と示されている。ここにおける「専守防衛」は、武力攻撃事態法の先制的自衛権の行使を含むものであるのかどうかは、明瞭でない。「他国に脅威を与えるような軍事大国とならない」ということは私も賛成だが、日本は、他国から脅威を受けている。その中で、自国を守るために必要な装備を持つことと、「他国に脅威を与えるような軍事大国」となることは、明確に区別されねばならない。
 次に、基本方針は、「文民統制を確保するとともに、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を自主的に整備する」とある。ここにおける非核三原則を守って節度ある防衛力を整備するとは、弾道ミサイルに関していえば、どのような整備となるのか。

 「大綱」は、「弾道ミサイル攻撃に対しては、弾道ミサイル防衛システムの整備を含む必要な体制を確立することにより、実効的に対応する。我が国に対する核兵器の脅威については、米国の核抑止力と相まって、このような取組により適切に対応する」としている。
 核兵器の脅威には、米国の核抑止力に依存しつつ、BMDシステムで対応するというわけである。しかし、アメリカの「核の傘」は、とうの昔に破れている。またBMDシステムは、高価な割に実効性が疑われている。「核の傘」とBMDシステムでは、日本を守れない。ところが、その「核の傘」とBMDシステムに日本の運命を託すのが、「大綱」の内容となっている。

 「防衛計画の大綱」は、次ぎの改定までの間、これをもとに毎年の防衛政策が行われていく。既に5年計画が発表されているが、「大綱」は中期計画というより長期展望に相当する。10年くらいは、この大綱で進むことになるだろう。発端における少しのずれは、先に行くと何倍もの開きとなって現れる。東アジアの10年先、20年先を予想して、わが国の防衛政策を早急に見直す必要があると思う。

 次回が最終回。