アメリカの2回目です。
1回目に私が申し上げたのは、目まぐるしく上下する相場に目を奪われると、見通しを誤りやすいということでした。そして現在のアメリカには、リーマンショックの時のように世界を震撼させるようなバブルの芽はない、とも申し上げています。
このところ発表されているアメリカの指標は、8割がたが予想を上回る数字で、だいぶ安心感が増してきています。でもそうした指標はまた来月になったら悪くなるかもしれませんし、逆にさらに良くなるかもしれない。大事なのは、アメリカ経済を大きく揺るがすような芽があるか否かの見極めです。私はないと思っています。
原油価格も一時の20ドル台から40ドル台になってきているので、切迫感は薄れたと思うのですが、シェール・オイル・ガスを巡っては心配されている方も多くいらっしゃると思いますので、今回はそれを取り上げます。
まず、何度も申し上げますが、アメリカ経済全体にとって原油価格下落の影響はプラスであってマイナスではありません。ガソリンはアメリカの家計消費では必需品かつ価格変動が大きいため、消費者行動とマインドには結構影響を及ぼします。日本と違いガソリン税率などが低いので、原油価格がガソリン価格に直接大きく影響します。それだけでなく、その他のエネルギーや化学工業製品の原料としても大変重要です。重要であればあるほど、価格の低下は大きなメリットです。デメリットになるのは、石油採掘産業の従事者や投資家で、人数は非常に限定的です。
ですが、シェールオイル企業のジャンクボンドには破たんの懸念が出ています。いやすでに破たんも始まっていますので、まずそれについて説明します。
ここで問題です、「ジャンクボンドがジャンクなのはなぜか。」
破たんするからですよ。破たんしない、危険でないボンドはジャンクではありませんよ、みなさん(笑)。それをハイイールド債だなんてオブラートに包んだ呼び方をするから、破たんが始まるとショックのように思われるのです。
まずエネルギー関連企業の発行しているジャンクボンドの規模ですが、最大に見て3千億ドル30数兆円と言われています。その中にはシェールと関係のない企業の発行するボンドもありますので、サブプライムローンの証券化商品と比べ一けた小さい規模の話です。
しかも投資家のほとんどはジャンクとわかっていながら、それでもイールドを欲しい貪欲なファンドなどです。どんどんデフォルトしたところで、政府が救済に乗り出すことなどありません。他への波及が小さいと見ているからです。
シェール企業に限らない一般的に見たハイイールド市場は、かなり怪しいと見られていました。すでにサードポイントという有力な運用会社の運用するハイイールド投信は停止され、残余財産を投資家に戻しています。もっともiSharesのハイイールドETFは、2月中旬に9,300ドルのボトムを付け、現在は11,000ドルと急激に反転をしていて、ハイイールド債も一応ボトムは打ったと言われています。
今回のハイイールド債とサブプライムのケースの中身を比較します。サブプライムの場合は、信用の低い個人の住宅ローンを束ねて証券化しています。同じ束の中にストラクチャー上トリプルAのティアもあったため、格付けに目がくらんで手を出したリスク志向のあまりない有力銀行などの投資家も多かったのです。同じ束の中にはトリプルAもあれば、シングルAもBBBもそしてジャンクもあり、それがリスクの階層を作っていました。破たんはイールドの高い下の階層から始まるのです。同じ束の債券を買っていても、イールドの低い上の階層を買っていれば、破たんは免れる可能性があるのが証券化商品です。
シェール企業のボンドはそうではありません。最初からジャンクはジャンクで、ダブルB以下です。ハイイールド投信もそれをわかりきって買っています。もちろんそうしたジャンクボンドを束ねてそれに階層を付けるCBOという商品もありますが、サブプライムの経験を経ているため、資産のクレジットをしっかりと評価するようになった大手銀行などが積極的に買うことはありません。
ついでながら、最近不安視されている個人の自動車ローン債権の証券化商品のほうが、よほどサブプライムに近いものがあります。しかもクレジットの低い個人へのローンだけをまとめている商品まであります。しかしこちらもサブプライムの経験が十分に効いているため、破たんが始まっても大きな問題にはなりません。
みなさんのように債券の専門家でなくとも、そうした商品の危うさを感じているくらいですから、ましてやサブプライムを経験した投資家はさらに慎重に投資をしています。ジャンクを買っているのは、ジャンクボンドファンドやジャンクも含め投資するぞとあらかじめ表明しているファンドが大半です。
ここまでをまとめますと、エネルギー関連企業の発行したハイイールド債は、規模からいっても投資家層からいっても、破たんしたところで大きな心配はいらないということです。
こうした杞憂も先に私が指摘した、「報道に振り回されなさんな」なのです。リスクを煽る報道は、必ずしも商品やリスクの本当の中身を知って書いているとは限りません。むしろ私から見ると知らずに報道しているな、と思われるものが多いのです。
ではシェールオイル企業がどんどん破たんしてしまったらせっかくアメリカに勃興したインダストリーとしての将来はどうなるのでしょうか。次回はインダストリーとしての将来を見ておきましょう。実はこれも心配には及びませんが。
つづく