ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカは大丈夫か?  その2 シェール関連企業のハイイールド債

2016年03月18日 | アメリカアップデート

  アメリカの2回目です。

   1回目に私が申し上げたのは、目まぐるしく上下する相場に目を奪われると、見通しを誤りやすいということでした。そして現在のアメリカには、リーマンショックの時のように世界を震撼させるようなバブルの芽はない、とも申し上げています。

   このところ発表されているアメリカの指標は、8割がたが予想を上回る数字で、だいぶ安心感が増してきています。でもそうした指標はまた来月になったら悪くなるかもしれませんし、逆にさらに良くなるかもしれない。大事なのは、アメリカ経済を大きく揺るがすような芽があるか否かの見極めです。私はないと思っています。

   原油価格も一時の20ドル台から40ドル台になってきているので、切迫感は薄れたと思うのですが、シェール・オイル・ガスを巡っては心配されている方も多くいらっしゃると思いますので、今回はそれを取り上げます。

   まず、何度も申し上げますが、アメリカ経済全体にとって原油価格下落の影響はプラスであってマイナスではありません。ガソリンはアメリカの家計消費では必需品かつ価格変動が大きいため、消費者行動とマインドには結構影響を及ぼします。日本と違いガソリン税率などが低いので、原油価格がガソリン価格に直接大きく影響します。それだけでなく、その他のエネルギーや化学工業製品の原料としても大変重要です。重要であればあるほど、価格の低下は大きなメリットです。デメリットになるのは、石油採掘産業の従事者や投資家で、人数は非常に限定的です。

   ですが、シェールオイル企業のジャンクボンドには破たんの懸念が出ています。いやすでに破たんも始まっていますので、まずそれについて説明します。

   ここで問題です、「ジャンクボンドがジャンクなのはなぜか。」

   破たんするからですよ。破たんしない、危険でないボンドはジャンクではありませんよ、みなさん(笑)。それをハイイールド債だなんてオブラートに包んだ呼び方をするから、破たんが始まるとショックのように思われるのです。

   まずエネルギー関連企業の発行しているジャンクボンドの規模ですが、最大に見て3千億ドル30数兆円と言われています。その中にはシェールと関係のない企業の発行するボンドもありますので、サブプライムローンの証券化商品と比べ一けた小さい規模の話です。

  しかも投資家のほとんどはジャンクとわかっていながら、それでもイールドを欲しい貪欲なファンドなどです。どんどんデフォルトしたところで、政府が救済に乗り出すことなどありません。他への波及が小さいと見ているからです。

  シェール企業に限らない一般的に見たハイイールド市場は、かなり怪しいと見られていました。すでにサードポイントという有力な運用会社の運用するハイイールド投信は停止され、残余財産を投資家に戻しています。もっともiSharesのハイイールドETFは、2月中旬に9,300ドルのボトムを付け、現在は11,000ドルと急激に反転をしていて、ハイイールド債も一応ボトムは打ったと言われています。

   今回のハイイールド債とサブプライムのケースの中身を比較します。サブプライムの場合は、信用の低い個人の住宅ローンを束ねて証券化しています。同じ束の中にストラクチャー上トリプルAのティアもあったため、格付けに目がくらんで手を出したリスク志向のあまりない有力銀行などの投資家も多かったのです。同じ束の中にはトリプルAもあれば、シングルAもBBBもそしてジャンクもあり、それがリスクの階層を作っていました。破たんはイールドの高い下の階層から始まるのです。同じ束の債券を買っていても、イールドの低い上の階層を買っていれば、破たんは免れる可能性があるのが証券化商品です。

   シェール企業のボンドはそうではありません。最初からジャンクはジャンクで、ダブルB以下です。ハイイールド投信もそれをわかりきって買っています。もちろんそうしたジャンクボンドを束ねてそれに階層を付けるCBOという商品もありますが、サブプライムの経験を経ているため、資産のクレジットをしっかりと評価するようになった大手銀行などが積極的に買うことはありません。

   ついでながら、最近不安視されている個人の自動車ローン債権の証券化商品のほうが、よほどサブプライムに近いものがあります。しかもクレジットの低い個人へのローンだけをまとめている商品まであります。しかしこちらもサブプライムの経験が十分に効いているため、破たんが始まっても大きな問題にはなりません。

   みなさんのように債券の専門家でなくとも、そうした商品の危うさを感じているくらいですから、ましてやサブプライムを経験した投資家はさらに慎重に投資をしています。ジャンクを買っているのは、ジャンクボンドファンドやジャンクも含め投資するぞとあらかじめ表明しているファンドが大半です。

   ここまでをまとめますと、エネルギー関連企業の発行したハイイールド債は、規模からいっても投資家層からいっても、破たんしたところで大きな心配はいらないということです。

   こうした杞憂も先に私が指摘した、「報道に振り回されなさんな」なのです。リスクを煽る報道は、必ずしも商品やリスクの本当の中身を知って書いているとは限りません。むしろ私から見ると知らずに報道しているな、と思われるものが多いのです。

   ではシェールオイル企業がどんどん破たんしてしまったらせっかくアメリカに勃興したインダストリーとしての将来はどうなるのでしょうか。次回はインダストリーとしての将来を見ておきましょう。実はこれも心配には及びませんが。

つづく

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アメリカは大丈夫か?  その1

2016年03月16日 | アメリカアップデート

  アメリカは大丈夫です!(笑) 

  「マイナス金利をどう見るか」のシリーズの最後で、マイナス金利でも買う投資家の手の内をみなさんに解説しました。みなさんの間では、アメリカは大丈夫かの議論がありましたが、私はそれを敢えて無視するかのごとく、「金利とは」から始まり、「ベーシス・スワップ」とは、そして事のついでに「銀行の収益の上げ方」から「キャリートレード」まで、長々と解説しました。この解説に関して2つのコメントをいただきました。

   一つは、難しいことなのに「解説はわかりやすかった」。それと、スワップやキャリートレードの本質論は「衝撃的だった」というものです。その方はかつて証券業にいたことのある方ですが、そういう方でも最近の金融技術には驚かれたのだろうと思われます。そして一般的解説や報道のいい加減さにも衝撃を受けたのでしょう。

   みなさん全員がその方と同じコメントをお持ちとは思いませんが、もし何割かの方でも同様な感想を持ったとしたら、私はとても嬉しく思います。「ぜんぜんわかんなかった」でもかまいませんので、是非遠慮なく感想をお寄せください。今後のブログ記事の参考にさせていただきたいのです。よろしくお願いします。


  さてやっとアメリカについてです。

  「マイナス金利でも運用益」という話に入ったとき私は、「アメリカのスローダウンなど単に景気循環で、深刻な話などではない」と言い切り、しばらく横に置いてしまいました。

   ではアメリカが怪しいという論調が多かった1・2月頃から、世の中の論調はどう変化したかまず見ておきましょう。

   私には、ブログのコメント欄が賑わったころとはだいぶ変わり、あれは杞憂だったかもしれない、という論調が多くなったように思えます。当たり前です。アメリカ経済はいまだ順調で、アメリカ発のショックの芽など、どこにもありません。一時的とはいえ、何故あれほどまでに悲観的になったのでしょう。

  みなさんに申し上げたいのは、

 「相場に振り回されなさんな」ということです。

 そして同じように、

 「報道に振り回されなさんな」です。

   クロちゃんが凶暴さを発揮したころから彼の意図に反して円高、そして世界的株安と続いたため、日本での論調もだいぶ悲観的になっていました。あたかも世界同時不況が今年中にもありえるほどでした。

  でもよく考えてみてください。アメリカの実体経済は、12月の利上げからたった1-2か月で急転直下、おかしくなってしまったのでしょうか。そんなことはぜんぜんありません。もちろんこのところの統計数字もよかったり悪かったり、跛行色が強くなったのは確かです。しかしアメリカの株式相場の反応ほど実体経済は悪くなっていないというのが、現在の状況だと私は思っています。

   昨年の10-12月期、日本のGDPは年率マイナス1.1%でしたが、アメリカのGDPはプラスの1.0%です。そして先週発表の雇用状況も好調維持の目安である新規雇用者数20万人を上回り、失業率も4.9%とこれは絶好調の数字です。

  もっとも雇用は遅行指標だし、いくつかの先行指数は目安の50を割り込むものが出てきているため、若干のスローダウンはあるかもしれません。しかしそれはしょせん景気循環であって、構造的に大きな問題を含んだ後退ではありません。数年も拡大が続いたのですから、少しは休ませてあげましょう(笑)。


   では、今後を見るにあたり、一番大事なことは何か。

   世界経済を震撼させるような芽はどこにあるかを見ておくことです。アメリカには、サブプライム問題のような世界を震撼させるバブル崩壊の芽はありません。世界経済を揺るがすとしたら、筆頭は中国。その他の新興国経済は規模からして世界は震撼しない。原油価格の暴落も問題なし。順番で次があるとすればそれは日本です。

   次回からはアメリカを不安視する原因となっているシェールオイル産業などを見ていきます。

 つづく

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マイナス金利導入をどうみるか その10 まとめ

2016年03月13日 | マイナス金利導入をどうみるか

  前回までベーシス・スワップというかなり難しいテーマが続きました。そろそろうんざりだとおもいますので、今回で終了します。

   その前に、せっかくベーシス・スワップを勉強したついでにみなさんのお役に立つよう、一つだけ付け加えておきます。それは、「キャリートレード」というアナリスト解説や報道で時々見られるキーワードに関してです。

   ベーシス・スワップでは邦銀や外銀のビジネスの本質は「リスクを取らずに鞘を抜くこと」だと申し上げました。このことは、いわゆるアービトラージ(裁定取引)の本質でもあります。為替と金利という相場変動のリスクを回避していれば、あとは投資対象のデフォルト・リスクだけを気にすればよい。それはヘッジファンドなどの得意技でもあります。鞘抜きなら100億円というような小さな額でなく投資対象さえあれば、1,000億円でも1兆円でもレバレッジを掛けながら拡大することができます。

   ベーシス・スワップで説明した外銀の円金利払い、円債券運用とはまさに、ドルを運用資金として持つ投資家のキャリートレードそのものです。それを外銀が運用するのではなく、さらにスルーして裏にヘッジファンドがいれば、ファンドによる巨大キャリートレードになります。スワップでは終わったときの円とドルの最後の取引は、市場を通さずに交換するだけなので相場へ影響はしません。それがプロのキャリートレードです。アウトライトでリスクをとるようなヘタなキャリーは、シロウトのやることです。アウトライトとは、ヘッジをしない裸のリスクを指します。

   よくアナリストや報道が「キャリーの巻き戻しで為替が動いた」などというのは、クロウトからみればお笑い種なのです。私はときどき「巻き戻すんなら、巻き上げはいつあったんだ(笑)」と揶揄していましたが、その本当のワケはこのスワップにあります。たった1%や2%の日米金利差を得るのに、10%-20%動く為替の変動のリスクを取ることなどありえないのです。

   私がソロモンの資本市場部にいたときに、トレーディング・フロアの一角ではこうしたリスクのほとんどないトレードで、仕組んだ瞬間に何年か先の利益を確定するアービトラージを専門にしている社内ヘッジファンド部隊がいました。実はソロモンという投資銀行の儲けの源泉はそうしたアービトラージ部隊のトレードから生み出されていたと言っても過言ではありません。その部隊は先週亡くなった「ウォールストリートの帝王」と言われたソロモンの会長、ジョン・グッドフレンドのお気に入り部隊でした。

  世の中にはもちろんリスクをめちゃ取りするファンドもありますが、そんな連中はソフィスティケートされたトレーダーから見れば単なる博打うちで、いずれは負ける勝負師にしか見えなかったのです。

   今度ドル円が動いたときに「キャリーの巻き戻しだ」なんてことを言う解説者がいたら、「お気の毒に」とやさしく慰めてあげてください(笑)。

   以上でスワップやキャリートレードなど、難しいことの続いた説明は終わります。

   

   さて、3月10日、欧州中央銀行がさらなる緩和措置を発表しました。しかし欧州の株式市場は売り一色で終わりました。アナリストなどの解説は、「ドラギ総裁がこれで打ち止めということを示唆したからだ」と解説していましたが、果たしてそうでしょうか。

    私は、日銀のクロちゃんのマイナス金利導入後に示した日本をはじめとする世界の株式市場の強い反応と同じだ、と思います。つまり、効果の疑問視されていることをやり続けるのは、むしろ出口を難しくする一方だ、ということを市場は感じたのです。BISもそれを恐れ、欧州中銀の追加緩和決定前に日銀の経験を踏まえ警鐘を鳴らしたのです。


    こうした金融政策が続くと、その先ではいったいどういう世界が待っているのでしょうか。

    同じく3月10日に資産運用に関して一つのニュースがひっそり流れました。世界で名だたるノールウェイの年金資金が、昨年10-12月期から徐々に保有していた日本国債を売っていると言うのです。理由は「低金利にいやけが・・・」と書いてあるのですが、私はそれ以前に格付け低下も一因ではないかと思います。彼らの投資基準についての情報を持ち合わせませんが、格付けつまりはリスクと、彼らの求めるリターンが間尺に合わないのでしょう。

    昨年9月にドル円のベーシス・スワップのスプレッドが70-80bpに上昇しました。その時期、格付け会社S&Pは日本国債の格付けをダブルAマイナスからシングルAプラスにワンノッチ下げています。たったワンノッチとはいえ、ダブルAからシングルAへの格下げは、象徴的であり実態面でもかなり効きます。例えば、債券投資家は格付けによる投資基準を持っていて、ダブルAしばり、ということが往々にしてあります。ノールウェイ年金の日本国債投資の引き揚げは、そのタイミングで始まったのです。そして今後マイナス金利が浸透すれば債券価格はより上昇し、彼らに絶好の逃げ場を提供します。

   そうしたまともな投資家とは逆にマイナス金利でも買う投資家を見ると、私にはチューリップの球根を買っているように見えます。17世紀のオランダで起こったチューリップの球根バブルです。1個の球根が、家一軒分もの価格になったバブルの元祖です。普通の人から見ておかしなことは、いつも最後には破たんするのです。

   マイナス金利でも買って儲かるなら買う。そんなことは長続きしません。そのうち日本の投資家もそーっと引き揚げるでしょう。それを無理やり引き取る日銀こそ、最後に球根を掴むにちがいありません。日銀に溜まる腐った球根など、誰も引き受け手がいない。その後始末を文無しの政府ができるはずもない。マイナス金利で政府が発行した国債を引き受け続ける日銀と政府は、まともな人が見れば腐った球根をあたかも価値があるものとしてやり取りする、「球根ねずみ講」そのものなのです。そのうち参加者は政府・日銀の二人だけになります。

 

   ではまとめです。

1.黒田マジックの賞味期限は終わった

2.企業も個人もガチョウじゃあるまいし、フォアグラになんてならない

3.インフレ2%の達成時期は、これからいつも日銀発表から2年後だ

4.日本で預金金利をマイナスにしたら、みんな預金を引き揚げる

 「マイナス金利導入で信認を失ったクロちゃん、あなたは裸の王様ですよ!」

 

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マイナス金利導入をどうみるか その9 マイナス金利でも運用益、何故(3)

2016年03月10日 | マイナス金利導入をどうみるか

  ベーシス・スワップの説明、かなりわかりづらいと思いますが、およそでもご理解いただけましたでしょうか。

   さらに追加説明をしようと思っていたところ、ちょうどある方から以下の2つの質問がきましたので、それに沿って解説します。それぞれの答えは実は同じ理由からですので、2つ一度に回答することにしました。以下をご覧ください。スワップの本質的意味がかなりわかると思います。

Q1. 外銀との円・ドル スワップによるドルの調達において、常時プレミアムの支払いが必要だとしたら、単純な外為市場での調達よりコストが高くなりますよね。それでも敢えてスワップという手法を選択するメリットは何でしょうか?

Q2. スワップ契約期間の5年が経過した時点で邦銀はドルを全額返済しますが、その際のドルの調達コストのリスクはどうやってカバーするのでしょうか?

   上記の2点は、実にもっともな質問です。理由が同じですので、一度に解説します。

     そもそも銀行は為替のリスクを100%回避するためにスワップをしているのです。外為市場で買ったドルを企業に貸し付け、最後に企業から返済を受けたドルを売るのでは為替リスクの丸取りで、為替投機と同じです。銀行はそのような野蛮なことはせず、もっとスマートなビジネスをしています。

    スワップは当初も最終決済時も元本額が決められますので、為替変動リスクはないと説明しました。いまいちど確認します。最初は100億円と1億ドルを交換し、最後も同額の1億ドルと100億円を交換することを約束します。説明書きにあるように、為替レートのいかんにかかわらず決めた額の交換をするのです。5年後に返済するドルはどう調達するのかですが、それと同じ問題は5年間続くドル金利の支払いにも言えます。

     これはとても簡単です。1億ドルを貸し付けた企業からドル金利を毎年もらい、最後も元本を1億ドル返済してもらうだけです。つまり邦銀にリスクはありません。邦銀は金利差の0.5%を儲けるだけなのです。

   ということは、実は邦銀は外銀と企業の間で金利差だけをいただいてスルーする仲介者に近い存在なのです。

    「じゃ、外銀が企業に直接貸せばいいじゃないか」

という話になります。外銀はスワップを組めるほど信用ある大手邦銀のリスクは取れても、わけのわからない日本企業のリスクは取れないので貸しません。

   邦銀ならそれができます。邦銀の0.5%の儲けの源泉は、勝手知ったる貸し付け相手企業のリスクを取ることにあるのです。そしてスワップを使い、企業のクレジット以外の為替や金利変動のリスクはすべてスルーしてしまう。それこそがスワップの本質であり、銀行ビジネスの本質です。

   ここまでご理解いただけましたでしょうか。

 では前回までのおさらいを簡単にしておきましょう。

   まず著書を引用しながら、金利とは何か、という説明をしました。私の考える金利とは「投資に対するリターン」で、それが「低下しているのは成長力が弱くなった証拠」であると説明しました。

   そうした弱さは為替レートなどには見えにくいのですが、「ベーシス・スワップという極めて専門的な市場のスプレッドに現れた」

   その「スプレッドが1%というような大きさに至ったため、海外勢はその分資金調達コストの低下を享受することができる」。それが当初の疑問「マイナス金利でも運用益、何故?」に対する答えだということでした。

   さらに今回は銀行ビジネスの本質とは、リスクを極力回避して儲けることだと申し上げました。スワップを利用してスプレッドを抜くことだけに徹すれば、儲けは少ないが、損失も少ないのです。

  次回は「マイナス金利に投資する意味があるのか」について書いて、このシリーズを終えます。


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マイナス金利導入をどうみるか その8 マイナス金利でも運用益、何故(2)

2016年03月07日 | マイナス金利導入をどうみるか

    今回のテーマは私が過去何度か、「いつか機会を見つけて解説します」と言っていた、海外勢のファンディング・コストが何故マイナスになっているのかの解説です。ちょっと長いです。(いつものことか、笑)

   先延ばしにしていたのは、あまりに専門的過ぎて実務の経験がない方には、理解しかねると思い、躊躇していたというのが本音です。しかしこれ抜きでは今の一番大切な事象の理解が進まないと見て、解説することにしました。みなさんラッキーですよ。なかなかお目にかかれない解説ですから(笑)。

    と書きつつも、どこまで行くか迷っています。本当に理解していただくには、スワップ取引ということの意味から説かないといけない。それは先日「パリティ」ということの意味をあっさりと解説しましたが、それにもかかわるのです。そこから始めると、たぶん1か月はゆうにかかるので(笑)、はしょって「えいやっ」といくことにします。(笑)。

   まず、国際的なファイナンスを展開する大手邦銀の資金調達の話からスタートします。彼らはこのところ日本での低金利に手を焼き、収益を求め海外ビジネスへの傾斜を強めています。例えば、

1.  外国企業へ直接外貨を貸し付ける。シンジケート団に入ることもあり

2.  日本企業が海外展開をする際に外貨を貸し付ける

3.  海外で日本企業がM&Aをする場合、資金の出し手になる

4.  自分が海外の金融機関を買収する

 などです。自分の買収行動は去年私が「またぞろ懲りない、金融機関の横並びM&Aとして批判しました。覚えていらっしゃる方も多いと思います。

    邦銀は、みなさんがドル預金をあまりしないので、貸し付けるためのドルなど外貨資金をあまり保有していません。そこで海外の有力銀行との間で、通貨のスワップをして外貨を調達するのです。

    邦銀は規模と期間に応じた円資金を用意し、外銀はその分のドルを用意する。そして例えば期間5年、金額100億相当の円とドルのスワップ契約を結びます。

    その時の金利は例えば円金利の0.5%に対してドル金利が1.5%としましょう。二つの金利には差がありますが、両者は「パリティ―」なので、このままスワップしても理論上は損得なしと両者は納得しているのです。「理論上は」とは、「金利差は将来の為替変動をカバーするはず」ということです。FXのスワップポイントをご存知の方は、多少理解しやすいかもしれません。

   では、具体的なスワップのやりとりを説明します。

   スワップとは元本と金利の交換です。最初に円の出し手である邦銀は100億円を用意し外銀に渡す。同時に為替レートが1ドル100円であれば外銀から1億ドルを受け取る。それでまず元本のスワップが完了します。

   その後は満期まで毎年、金利をスワップします。邦銀はドルを調達しているので、ドル金利1.5%を払い、外銀は円を調達しているので円金利0.5%を払う。

   最後はまたお互いに、邦銀は1億ドルを外銀に返し、外銀は100億円を邦銀に返す。この間の為替レートがどうなろうと、最初に契約した元本金額と金利を払って終了となります。これがスワップ契約の内容と実際のやりとりです。

    もう一度簡単に繰り返せば、最初に元本の円とドルを交換し、5年間金利をお互いに払い、最後にまた同額の元本を交換して取引終了です。為替のリスクはお互いに金利に反映されていると納得をしているので契約することが可能なのです。納得できなければ、契約しなければいいのです。

    このようなスワップ取引のできる銀行は実は非常に限られていて、原則的には国際金融取引にかかわることのできるBIS基準を満たせる銀行のみです。

   「そんな面倒なことをしなくても、100億円で1億ドルを買って調達すればいいじゃないか」という疑問については、後ほど回答します。

   スワップ契約の期間中、邦銀は手に入れた1億ドルを日本企業に貸し出します。その時の金利はスワップのドル金利である1.5%より高い金利で貸し出し、差をスプレッドとして儲けるのです。例えば2%で貸し出せれば、0.5%を儲けられます。外銀は外銀で100億円の円資金を円資産で運用してやはりスプレッドを儲けます。いわば円キャリートレードです。

  BIS基準を満たせる銀行は内外ともにお互いの信用力に大きな差はありませんので、そこに余分なプレミアムは生じません。ところが、ドルと円の資金需給や通貨自体の信用力に差があると、プレミアムが生じます。

   通貨の信用力は、例えば格付けを見れば日本は他の先進国に比べ、明らかに劣ります。格付けに反映されている国の債務状況も、相当な差があります。      需給については、邦銀の外貨需要は日本企業の需要を反映してかなり多く、海外勢はあまり日本に投資しませんから円の需要は少ない。企業のみならず銀行や保険会社などの金融機関も海外で盛んにM&Aを行っています。そこで日本勢が海外勢にプレミアムを払ってでもスワップ契約をしてドルを調達する必要があるのです。

  海外投資家の日本株買いはスワップでは行わず、通常ドルを為替市場で円に替えて行います。株式投資は貸付と違い、投資期間終了のめどが厳密でなく、勝ったり負けたりで元本と償還の額に差が生じるので、スワップには向かないのです。同様なことは、先日John-0123さんからのヘッジ付き株式投資の質問で私が回答しています。

   これがさきほど、「そんな面倒なことをしなくても、100億円で1億ドルを買って調達すればいいじゃないか」、という疑問への回答の一つです。単純な為替交換だと為替リスクをフルに背負ってしまうことになるのです。他にも重要なポイントがあるのですが、それはのちほど。

   先の日経の記事で「例えば海外勢が手持ちのドルを円に5年間交換する取引で、上乗せ金利は年0.9~1%ほどになる」とあります。この0.9~1%が、日本勢がドルの調達で支払うスワップのプレミアム、つまり日本勢が海外勢に払う上乗せ金利です。

     こうした為替交換の伴うスワップを専門家は「ベーシス・スワップ」と呼びます。ベーシス・スワップのプレミアムは、現状ではどの邦銀がどの外銀とスワップ契約を結ぼうがおよそ1%くらい払う必要があります。こうした市場のオファー・レベルは関係者には見えています。市場レートが1%ということは、個別銀行の信用力差からくるプレミアムではなく、通貨の信用力差と需給によるものと考えられるのです。

   ここまでご理解いただけましたでしょうか?

 やはり1回では十分な説明は無理なので、次回に繰り越します。

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